「能動的サイバー防御法」って何?私たちの生活にどう関係あるのか超わかりやすく解説!

「能動的サイバー防御法」って何?私たちの生活にどう関係あるのか超わかりやすく解説! 政府

2025年、日本で「能動的サイバー防御法」という新しい法律が成立しました。難しそうな名前ですが、ざっくり言うと「サイバー攻撃を受ける前に、国が先回りして守る」ための仕組みです。でも、「通信の秘密は?」「私たちの生活に関係あるの?」と不安に思う方も多いはず。本記事では、そんな能動的サイバー防御法の内容と背景、暮らしへの影響までをわかりやすく解説します。

  1. なぜ今「能動的サイバー防御」なのか?
    1. 能動的サイバー防御の基本構造
      1. 官民連携の強化
      2. 通信情報の監視と活用
      3. 攻撃元サーバへのアクセスと無害化
    2. 「通信の秘密」への懸念と制度の工夫
    3. 海外との比較と今後の展望
  2. 「アクセス・無害化措置」とは何か?
    1. いつ、だれが、どのように実施するのか?
    2. 海外のサーバーにもアクセスできるのか?
    3. 誰が監視しているのか? 暴走防止の仕組み
    4. 誤作動や“誤爆”のリスクとその対策
    5. 自衛隊が動くのはどんな場合か?
    6. 今後の課題と私たちに求められる視点
  3. プライバシーと安全保障のバランス
    1. なぜ「プライバシー」と「安全保障」がぶつかるのか?
    2. 政府が分析する情報はどんなもの?
    3. それでも残る不安と制度的な対策
    4. 再識別化は危険ではないのか?
    5. 私たちはどう関わればいいのか?
  4. サイバー防御の法律が私たちに関係あるの?
    1. どんな変化が起こるのか?具体例で理解しよう
      1. 1. 企業の対応が厳格になる
      2. 2. 通信事業者やIT企業にも役割が
      3. 3. 市民の個人生活にも波及
    2. 私たちにどんな備えが求められる?
      1. 自分の情報を守るためにできること
      2. 家族で話し合っておきたいこと
    3. サイバー攻撃が「生活の足元」を脅かす時代へ
  5. 法整備の裏にある国際情勢と日本の戦略
    1. 世界の国々はどうしているのか?
    2. 日本の“慎重さ”と“追い上げ”
    3. 国際協調が不可欠な時代へ
    4. 経済安全保障という観点
  6. この制度をどう活かすか?
    1. 国に求められる3つの「責任」
    2. 企業が果たすべき役割とは?
    3. 私たち市民にできることは?
    4. 制度と社会を「つなぐ」アイデア
    5. 「備える社会」から「しなやかな社会」へ

なぜ今「能動的サイバー防御」なのか?

2025年5月、日本では「能動的サイバー防御法(正式名称:重要電子計算機に対する不正な行為による被害の防止に関する法律)」が成立しました。この法律は、単なる「防御」ではなく、「攻撃を受ける前にその兆候を捉えて相手のシステムに侵入し、無力化する」――つまり、“サイバー攻撃の予防医療”のような先手必勝型の防御です。

これは、これまでの「攻撃を受けてから対処する」という日本の姿勢を大きく転換するもので、欧米諸国がすでに導入している「アクティブ・サイバー・ディフェンス(Active Cyber Defense)」を日本でも本格的に始めようという動きです。

能動的サイバー防御の基本構造

この法律のポイントは、以下の3つの柱に集約されます。

官民連携の強化

  • 電力や金融、鉄道などの「基幹インフラ事業者(15業種)」は、使用する電子機器について事前に国へ届け出る義務があります。
  • 不審なサイバー攻撃の兆候(インシデント)を検知したら、速やかに国(内閣総理大臣および担当省庁)に報告しなければなりません。
  • 政府と民間が協議会を設置し、守秘義務の下で情報共有を行います。

通信情報の監視と活用

  • 通信事業者から提供されるインターネット通信情報(メタデータなど)をAIで自動選別し、サイバー攻撃の兆候を検出します。
  • 通信の本文(例えばメールの内容)は分析対象とせず、憲法21条の「通信の秘密」を極力侵さない仕組みとされています。
  • 内閣府内に設置される「サイバー通信情報監理委員会」が、こうした情報の扱いを監査します。

攻撃元サーバへのアクセスと無害化

  • 国家が必要と判断した場合には、警察または自衛隊が国外の攻撃元サーバにアクセスし、プログラムの削除や通信遮断を行うことが可能になります。
  • これは「武力攻撃ではない」平時の対応として位置づけられており、国際法上も「緊急避難」や「対抗措置」に基づき適法であると解釈されています。

「通信の秘密」への懸念と制度の工夫

この法案に対して最も大きな懸念点は、「通信の秘密」に関するプライバシーの問題です。政府はこれに対し以下のような対策を講じています。

  • 通信内容(文章や会話)は対象外。取得するのは「通信の記録や履歴」などに限定。
  • 機械的に選別された情報の中に個人が特定されそうな記録があった場合は「非識別化処理」を実施。
  • 非識別化された情報を再び元に戻して(再識別)使用する場合は、厳しい条件と報告義務が課せられます。
  • これら一連の過程を監督するのが「サイバー通信情報監理委員会」であり、国会への年次報告も義務づけられています。

海外との比較と今後の展望

米国や英国では、すでにこのような制度が導入されており、国家安全保障庁(NSA)や政府通信本部(GCHQ)がサイバー監視を実施しています。日本のこの取り組みも「欧米並み」に追いつくための一歩とされています。

一方で、サーバーへのアクセスに関する人材の確保や、民間企業の理解、国際的な法整備など課題も山積しています。例えば以下のような指摘があります。

  • 人材不足:自衛隊のサイバー部隊は4,000人規模を目指すが、中国の部隊は3万人超とされている。
  • 誤作動リスク:誤って善意の第三者サーバを無力化した場合の責任や補償制度がまだ明確ではありません。
  • 国際関係:アクセス対象が外国にある場合、外交問題にならないよう細心の注意が求められます。

この「能動的サイバー防御法」は、いわば“国の防波堤”を強化するための法制度です。日常生活では見えにくいものの、電気・水道・交通・銀行・医療など、私たちの生活の根幹を守るためには不可欠な備えです。

しかし、攻撃の芽を事前に摘むというこのアプローチは、慎重な運用を誤れば「監視社会」への懸念も生じかねません。だからこそ、私たち一人ひとりが「何のためにこの法律が必要か」「そのリスクをどう管理するか」を考え続けることが重要です。

国民の自由と国家の安全保障、そのバランスをどう保つのか――。能動的サイバー防御法は、まさにこの命題に挑戦する現代の試金石といえるでしょう。

「アクセス・無害化措置」とは何か?

能動的サイバー防御の中心的な要素のひとつが「アクセス・無害化措置」です。この言葉は少し難しく感じられるかもしれませんが、わかりやすく言えば「敵の攻撃を始めさせないために、先にその手段を封じてしまうこと」を意味します。

たとえば、外国のサイバー攻撃グループが日本の鉄道や発電所を狙っているとします。そのとき、攻撃に使われる予定のコンピュータ(サーバー)に日本側が入り込み、ウイルスを削除したり通信を遮断したりすることで、被害の発生を未然に防ぐ。それが「無害化措置」です。

いつ、だれが、どのように実施するのか?

この措置は、すでに攻撃が始まっている、または極めて近い将来に発生する危険があると判断されたときに行われます。特に重要なインフラが対象の場合、そのスピードと判断力が重視されます。

実施主体には主に次の二つがあります。

  • 警察(警察庁・サイバー特別捜査部)
     → 主に国内の攻撃や緊急性のある一般的なケースに対応。
  • 自衛隊(サイバー防衛隊)
     → 国家が関与しているとされる高度な攻撃、特に国外からの攻撃に対応。

対応方法は次のような手順で進められます。

  1. 攻撃元の調査とサーバーの特定
  2. 遠隔操作によるアクセス
  3. 攻撃プログラムの停止・削除
  4. 設定変更などによる再利用の防止

海外のサーバーにもアクセスできるのか?

この措置には、国際的な法のルールが深く関わります。特に問題になるのは「外国にあるサーバーに日本が無断でアクセスして良いのか?」という点です。これは「主権の侵害」と見なされる恐れがあり、慎重な配慮が求められます。

そこで、以下のような制度が設けられています。

  • 外務大臣との事前協議:国外のサーバーが対象となる場合、外務大臣の関与が必須。
  • 国際法に準拠:正当な理由として「緊急避難」や「対抗措置」がある場合に限り、法的正当性が認められる。
  • 事後チェックの義務:承認を得る時間がない場合でも、実行後は速やかに「サイバー通信情報監理委員会」に報告することが義務づけられています。

誰が監視しているのか? 暴走防止の仕組み

政府の強力な権限が過剰に使われないように、アクセス・無害化措置には独立した監査機関が設けられています。それが「サイバー通信情報監理委員会」です。

この委員会は、以下のような機能を担います。

  • 事前承認:警察・自衛隊が措置を講じる前に、内容を精査して許可。
  • 事後監査:緊急で事前承認ができなかった場合も、措置後に検証と評価。
  • 違法性の指摘:不適切な対応があった場合には、改善を政府に勧告可能。

また、年1回以上、国会に報告することが義務づけられており、国民に対しても概要が公開されることになっています。

誤作動や“誤爆”のリスクとその対策

このような強力な措置には、当然ながらリスクも伴います。たとえば、誤って関係のないサーバーを停止させてしまえば、企業活動や社会生活に深刻な影響を与える可能性があります。

政府は以下のような対応を講じています。

リスク対策
無関係なサーバーへの誤侵入二重・三重の確認プロセスを導入
外国との外交問題外務大臣との協議による国際法チェック
個人情報への影響情報の非識別化処理+使用制限付きで分析
誤処理後の信頼低下監理委員会による検証と国会報告で透明性を担保

それでも「100%の安全」は保証できないため、監視と制度運用のバランスが今後の鍵になります。

自衛隊が動くのはどんな場合か?

特に注目されるのが、自衛隊がこの措置を実行する場面です。法律では、「本邦外にある者による特に高度に組織的かつ計画的な攻撃」が対象とされています。

ここでいう“高度”とは、たとえば国家のリソースを使って長期間潜伏する、未知のウイルスを使う、複雑な経路で通信する――こうしたプロによる攻撃を意味します。警察だけでは対処しきれない場合に、自衛隊が連携し、警察と共同で措置を講じます。

今後の課題と私たちに求められる視点

アクセス・無害化措置は、まさに「国家のサイバー盾」とも言える存在ですが、その裏にはいくつかの課題が控えています。

  • 人材の不足:サイバー対応に必要な専門官がまだまだ足りません。政府は自衛隊の部隊を4,000人規模に拡大する方針ですが、中国などでは数万人規模の専門部隊が存在するとされており、ギャップは大きいです。
  • 誤作動への不安:正確な判断と記録の保存、検証の仕組みが不可欠です。
  • 外交・国際法との整合性:今後は他国との協定や国際ルールづくりにも関与する必要があります。

アクセス・無害化措置は、国を守るための「積極的な防御」そのものです。しかし、その力が正しく使われているかどうかを見守るのは、制度だけではなく、私たち一人ひとりの“目”と“関心”です。

この制度が信頼され、機能するかどうかは、運用の透明性と説明責任、そして継続的な改善にかかっています。つまり、守る側も問われ、見守る側も責任を持つ――そんな時代が始まったのです。

プライバシーと安全保障のバランス

なぜ「プライバシー」と「安全保障」がぶつかるのか?

能動的サイバー防御の導入は、私たちの社会を守るための強力な対策です。けれども、その裏側で大きな議論を呼んでいるのが「プライバシーの問題」です。
たとえば、政府がインターネット上の通信情報を分析すると聞くと、「自分のメールを勝手に見られるのでは?」と不安に思う方も多いのではないでしょうか。

実際、憲法21条には「通信の秘密は、これを侵してはならない」と明記されています。つまり、国であっても個人の通信内容をむやみに見ることは許されません。

ではなぜ、それでも国は通信情報を収集・分析しようとしているのか。それは、サイバー攻撃という新しいタイプの脅威が、「起きてからでは手遅れになる」可能性があるからです。
人命やインフラが一瞬で止まることを防ぐには、攻撃の“前ぶれ”を読み取る必要があり、そのために“データ”が必要になるのです。

政府が分析する情報はどんなもの?

ここで重要なのは、政府が見ているのは「通信の中身」ではなく、「通信の外側」にある情報です。これは「メタデータ」と呼ばれる情報で、たとえば以下のようなものです。

分析対象内容の例プライバシーへの影響
IPアドレスどのコンピュータから通信されたか比較的低いが、場所推測は可能
通信履歴通信した日時や回数など内容ではないが、行動パターンが読まれる可能性あり
指令情報(コマンド)コンピュータに送られる操作指示攻撃との関連性を判断するため必要

つまり、政府は「誰が何を話していたか」を知ろうとしているのではなく、「どのような動きが、どのサーバーから、どんなパターンで出ているか」を分析しているのです。

また、これらの情報の中に、特定の個人が識別できるような情報が含まれていた場合は、「非識別化処理」が義務づけられています。つまり、名前や個人IDのような情報は隠され、誰のものかわからないように加工されるということです。

それでも残る不安と制度的な対策

たとえ中身を見ないとはいえ、自分の通信情報がどこかで分析されているというだけで、不安になるのは当然の感情です。これに対して政府は、厳しい制限と監視の仕組みを設けています。

特に注目すべき制度が、次の2つです。

  • サイバー通信情報監理委員会
     → 政府が通信情報を収集・分析する際には、この独立した機関が事前または事後にチェックを行います。
     → 審査の結果、違法性や問題があると判断されれば、改善を勧告できます。
  • 年次報告と情報公開
     → 政府の行動は毎年国会に報告され、その概要は国民にも公開されます。
     → たとえば、「何件の通信情報を収集し、そのうちどれくらいを分析したか」「再識別化(元に戻す処理)を行ったのは何件か」などの情報が対象です。

また、政府の職員や関係者には、取得した通信情報を外部に漏らしたり、不正に使った場合の罰則も設けられています。たとえば、機密情報の不正利用には最大で懲役4年の刑罰が科される可能性もあります。

再識別化は危険ではないのか?

非識別化された情報も、ある条件下では「再識別化」――つまり、元に戻して誰の情報かを判断する処理が行われることがあります。

これは、たとえば重大な攻撃を受けていて、特定の通信がそれに深く関係していると判断された場合に限り、行われるものです。しかし、この「元に戻す処理」が濫用されれば、プライバシーの侵害につながるおそれもあります。

そのため、以下のような厳しい制限が課されています。

  • 再識別化の必要性が「特に高い」と認められた場合に限る
  • 実施後は即座に監理委員会に通知し、検査を受ける義務がある
  • 目的が終われば再び非識別化を行い、元に戻せないようにする

これらの流れが、法的に厳格に定められているのは安心材料ですが、それでも「どこまでが適切な運用なのか」は今後も注視が必要です。

私たちはどう関わればいいのか?

こうした制度は、どれだけ厳格に運用されても、それだけでは完全とは言えません。だからこそ、「私たちの目」も重要です。

次のような姿勢が、社会全体の健全なサイバー防御体制を支えます。

  • 関心を持ち、知ること
     → サイバー攻撃のリスクや政府の対応を、正しく知ることが第一歩です。
  • 制度の運用を見守ること
     → 国会報告や報道、政府広報などを通じて、制度がどう動いているのかを確認する姿勢が求められます。
  • 声をあげること
     → 不安や疑問があれば、議員への意見やパブリックコメント制度を通じて意見を伝えることができます。
  • 身近な安全も見直すこと
     → 政府任せにせず、自分のスマホやパソコンのセキュリティ設定を確認することも重要です。

サイバー攻撃の脅威は年々増しており、それに対抗するための制度強化は不可欠です。しかしその一方で、「私たちの自由」「私たちのプライバシー」もまた、守られるべき大切な価値です。

能動的サイバー防御は、攻撃から社会を守る“盾”であると同時に、その使い方を誤れば“刃”にもなりかねません。だからこそ、その運用を国民が見つめ続けること、そして改善を求める姿勢こそが、制度を真に強く、信頼できるものにするのです。

守る力と見つめる目。その両方があって、初めて「安全」と「自由」が両立できる時代がやってきます。

サイバー防御の法律が私たちに関係あるの?

能動的サイバー防御法は、国家の安全保障や重要インフラを守るための制度です。一見すると「政府や大企業だけの話」と思われるかもしれませんが、実は私たち一人ひとりの生活にもじわじわと影響が広がっていく法律です。

インターネットやスマホ、ネットバンキングやSNS、動画サイトまで、私たちの暮らしは今やデジタル技術と深く結びついています。これらがサイバー攻撃の標的になれば、生活そのものが混乱しかねません。だからこそ、政府が前もって攻撃を食い止めるための制度を整えることは、私たちの「日常を守る」ことにつながっているのです。

どんな変化が起こるのか?具体例で理解しよう

サイバー防御法の運用が始まると、社会の様々な場面で次のような変化が見られるようになります。

1. 企業の対応が厳格になる

政府からの情報共有が強化され、企業はセキュリティ対策をいっそう求められるようになります。特に病院、鉄道、電気、金融などのインフラ事業者は、攻撃の予兆があった場合、すぐに国に報告しなければなりません。

例:
ある病院のネットワークに異常通信が見つかった場合、これまでは内部だけで対応していたものが、今後は国にも報告が義務化され、必要に応じて政府から「この通信は危険です」と注意喚起される仕組みに変わります。

2. 通信事業者やIT企業にも役割が

NTTやKDDIなどの通信会社は、政府からの要請に応じて、通信情報の提供や異常の監視に協力することが求められます。特に、海外からの不正アクセスの兆候を見つけた際には、警察や内閣府が分析のために情報を活用する場合があります。

これにより、セキュリティ意識の高い企業とそうでない企業との“差”が目に見える形になる可能性があります。

3. 市民の個人生活にも波及

一般市民にも影響がゼロとは言えません。たとえば、通信情報の一部が「分析対象」となりうることで、「どんな情報がどこまで見られているのか」という疑問が生まれます。
ただし、前章で説明したように、政府は“中身”(メールの内容や会話)ではなく、外側の“通信パターン”を自動で分析するだけであり、個人を特定することは原則ありません。

それでも不安を感じる場合は、自分の使用するアプリやネットサービスがどれだけ安全対策をしているかを意識することが、日々の安心につながります。

私たちにどんな備えが求められる?

法律が整備されたことで、国が防衛の一翼を担うようになったのは確かですが、私たち個人も“できること”をしっかり持っておく必要があります。

以下のような行動が、生活の安全を守る一歩になります。

自分の情報を守るためにできること

  • パスワードの使い回しをやめる:1つのパスワードで複数のサービスを使うのは非常に危険です。
  • 2段階認証を設定する:LINEやGoogleなど、多くのサービスで利用できます。
  • OSやアプリを常に最新に保つ:古いままだと、攻撃に使われる“穴”がそのまま残ってしまいます。
  • 不審なリンクはクリックしない:たとえ知人からのメッセージでも、違和感を覚えたら確認を。

家族で話し合っておきたいこと

  • 「ネットのトラブルって何?」を話題にする
     → 子どもが使っているアプリでの不正アクセスや、SNSでのなりすましについても共有することで、被害を防げます。
  • 高齢の家族には詐欺とサイバー攻撃の違いを説明
     → 「ネットバンキングのログイン情報を聞いてくる電話」など、詐欺とサイバー攻撃は同じように見えて実は違うため、具体的な例で注意を呼びかけましょう。

サイバー攻撃が「生活の足元」を脅かす時代へ

以下は、もしサイバー攻撃が成功した場合に起きうる生活への影響をまとめた一覧です。

攻撃対象想定される影響私たちへの影響
電力会社発電制御不能停電・医療機器の停止
鉄道システム信号機が動かなくなる通勤通学の混乱
銀行預金データの改ざん残高消失や送金不能
病院電子カルテの停止処置の遅延・混乱
通信会社インターネット遮断情報収集・業務に影響

このように、サイバー攻撃は「遠くの世界の話」ではなく、私たちの足元を揺るがす現実の脅威となっています。

能動的サイバー防御の制度によって、国の守りは一段と強くなりました。しかし、それは“守られているから安心”という考えで終わっていいものではありません。法律はあくまで土台であり、建物――つまり、社会の安全――を築くのは私たち一人ひとりの意識と行動です。

プライバシーを守りつつ、社会全体の安全も支える。そのバランスの中に私たちは暮らしているということを、これからの時代は誰もが理解しておく必要があります。

安全な社会は、ただ与えられるものではなく、皆で育てていくものなのです。

法整備の裏にある国際情勢と日本の戦略

2025年に日本で成立した「能動的サイバー防御法」は、単に国内の法律が変わったという話ではありません。その背景には、国際社会のサイバー空間をめぐる緊張と、それに応じた各国の防御体制強化があります。

今やサイバー空間は、軍事や経済だけでなく、政治や市民生活までも巻き込む“見えない戦場”となっています。攻撃はミサイルや爆弾ではなく、パソコンやスマートフォン、サーバーなどを通じて静かに行われます。

サイバー攻撃の特徴は以下のとおりです。

  • 誰が攻撃したのかが特定しにくい(匿名性)
  • 被害が一瞬で拡大する(高速性)
  • 平和な時にこそ仕掛けられる(非軍事性)

このような特性があるため、各国は“被害を受けてからでは遅い”と考え、未然に攻撃を防ぐ「能動的防御」に力を入れてきました。そして日本もようやく、その流れに追いつこうとしているのです。

世界の国々はどうしているのか?

サイバー防御に関しては、特にアメリカ・イギリス・フランス・ドイツといった西側の主要国が、すでに積極的な取り組みを行っています。

以下の表は、それぞれの国の特徴を簡単にまとめたものです。

国名特徴的な取り組み主な組織
アメリカ「先制的」なサイバー行動を認めるNSA(国家安全保障局)、サイバー軍
イギリスダークウェブ調査、情報操作にも対応GCHQ(政府通信本部)
フランスハッキングに対する即時対抗能力を整備ANSSI(国家情報システム安全庁)
ドイツサイバー攻撃に「反撃」する能力を法整備BSI(連邦情報セキュリティ局)
イスラエルサイバー技術大国、企業と軍が密接連携国防軍サイバー部門

アメリカでは、すでに他国の攻撃サーバーを止める「テイクダウン作戦」が行われており、イスラエルでは国家と民間が一体となった体制で、サイバー戦を“日常業務”のように扱っています。

これらの国々と比べて、日本は「通信の秘密」や「憲法の制限」への配慮が強く、これまでは受け身な対応にとどまっていました。

日本の“慎重さ”と“追い上げ”

日本は世界の主要国と比べて法整備が遅れていたのは事実ですが、その理由には日本らしい背景があります。それは、「国民の権利や自由をできるだけ守ること」に重きを置いてきたからです。

たとえば、「通信の秘密」が憲法で明記されている国は多くありません。日本ではそれが明確に定められており、政府が個人の通信内容にアクセスすることは原則として認められていません。

そのため日本は「防御を強める」と同時に「国民の自由をどう守るか」というバランスを重視して法案を作成しました。

具体的な慎重さとしては、次のような点が挙げられます。

  • 通信内容(メールや通話)は一切分析しない
  • 取得するのは“機械的な情報”のみ
  • 独立した第三者機関(サイバー通信情報監理委員会)が常に監査
  • 国会への定期報告と公開情報の仕組み

これらは、欧米諸国にはあまり見られない「法と制度のブレーキ」とも言える特徴であり、日本独自の“バランス型防御”を象徴しています。

国際協調が不可欠な時代へ

サイバー攻撃は、国境を越えて起こります。ある攻撃はアメリカのサーバーを経由し、ドイツのIPアドレスを使い、中国の踏み台を通って日本に届く――そんな複雑な構図が一般的です。

だからこそ、国同士の連携が欠かせません。

能動的サイバー防御法の運用にあたっては、日本も以下のような国際協力の場に積極的に参加しています。

  • 日米・日欧のサイバー防衛演習
  • サイバー攻撃情報のリアルタイム共有
  • 攻撃元の特定に関する共同調査
  • 人材育成プログラムの相互交流

特に、アメリカ・オーストラリア・イギリス・カナダとの「ファイブ・アイズ」諸国との情報連携は、日本の国際的な信頼のカギを握っています。

このような連携が深まれば、他国から得られる脅威情報が増え、日本への攻撃の予兆をより早く察知できるようになります。

経済安全保障という観点

この法律は「安全保障」だけでなく「経済」とも密接に関わっています。
たとえば、サイバー攻撃によって自動車工場が止まれば、海外との取引にも影響が出ます。病院の電子カルテが消えれば、社会インフラとしての信頼が揺らぎます。

こうした“経済活動そのものが国家の安全”と捉える考え方を「経済安全保障」と呼びます。

能動的サイバー防御法では、この経済安全保障を意識し、次のような仕組みも盛り込まれました。

  • 重要インフラ15業種(電力・鉄道・金融・通信など)に報告義務
  • 協定によって政府と事業者が連携
  • 被害が広がる前に防ぐ体制づくり

これにより、民間企業も“国家の防御ネットワーク”の一部として役割を担うようになります。

この制度をどう活かすか?

法律ができると、「これで安心だ」と思う人も多いでしょう。けれど、どんなに立派な制度も、それをうまく使い、社会に根づかせなければ意味がありません。

能動的サイバー防御法は、サイバー攻撃という見えない脅威に先回りして対処するための強力な道具です。しかしそれを真に「活かす」には、国・企業・市民の三者がそれぞれの役割を果たし、連携し合うことが必要です。

国に求められる3つの「責任」

まず、法律を運用する政府には、次のような責任があります。

  1. 透明な運用と説明
     → どんな情報を、どんな目的で、どう使ったのか。国民が納得できるよう、丁寧に説明することが大切です。
  2. 誤作動や誤認への備え
     → 万が一の被害が出た場合には迅速に対応し、必要な補償や再発防止策を講じるべきです。
  3. 制度の見直しと更新
     → 技術は日々進化します。制度も時代遅れにならないよう、定期的に見直す仕組みが不可欠です。

たとえば、再識別化の基準や通信情報の保存期間などは、今後の社会の価値観や技術の発展に応じて調整していくべき項目です。

企業が果たすべき役割とは?

能動的サイバー防御は、政府だけで完結する制度ではありません。企業、特に社会インフラを担う業種は、以下のような責任と機会を担います。

役割内容期待される効果
情報共有攻撃を受けた際、政府へ迅速に報告被害拡大を防止、他社への注意喚起にも
セキュリティ強化システムや社員教育への投資攻撃を防ぎ、信頼性の高い企業と評価される
法令順守通信情報の取り扱いや報告義務への対応社会的責任を果たし、法的リスクを回避

一方で、政府も企業に対して一方的に「義務」だけを求めるのではなく、「支援」も必要です。たとえば、サイバー攻撃を受けたときの対応ガイドラインの提供や、訓練・演習の共催などが考えられます。

私たち市民にできることは?

市民には法的な義務はありませんが、制度を活かすためには「関心」と「理解」がとても重要です。法律は、使う人だけでなく、見守る人がいることで健全に機能します。

以下は、私たちにできる実践的な行動です。

  • 制度を知る:まず「知ること」から始めましょう。新聞・ニュース・政府の広報などを通じて、制度の動向を把握することが大切です。
  • 意見を伝える:パブリックコメントや議員への意見送付を通じて、自分の声を制度づくりに届けることができます。
  • セキュリティリテラシーを高める:パスワード管理、二段階認証の導入、怪しいメールの見分け方などを家族ぐるみで学びましょう。
  • 子どもや高齢者を守る:家族内で「サイバー被害に遭わない工夫」を共有することも、立派な防御の一部です。

制度と社会を「つなぐ」アイデア

法律や制度は、どこか“遠い存在”に感じがちです。そこで、もっと社会に根づかせるための施策として、以下のようなアイデアが考えられます。

  • 中学生・高校生向けのサイバー防災授業
     → 「災害に備えるのと同じように、サイバー攻撃にも備える」という発想を学校教育に取り入れます。
  • 自治体による“サイバー見守り”制度
     → 高齢者を対象に、簡単な端末操作のサポートや、不審アクセスへの注意喚起を行う地域サービス。
  • 政府と市民の対話フォーラムの開催
     → 年1回、市民と専門家、政府担当者が集まって、サイバー防御制度の運用や課題について意見交換する場を設ける。

これらのアイデアは、国民が制度の「当事者」になるきっかけになります。法律を社会に“馴染ませる”ためには、こうした実践の積み重ねが必要です。

「備える社会」から「しなやかな社会」へ

サイバー攻撃は、今後さらに高度化し、AIや量子コンピュータの技術なども関係してくると予想されています。つまり、守るべきものは増え、攻撃の方法も多様化していくということです。

そんな時代に必要なのは、ただ「防ぐ力」だけではありません。「失敗しても立ち直れる力」「学びながら変化できる力」――つまり、“しなやかさ”が求められます。

これからの日本が目指すべきは、次のような社会です。

  • 攻撃を完全に防げなくても、被害を最小限に抑え、すぐに回復できる
  • 新しい技術にも柔軟に対応できるよう、制度を常に見直す
  • 国民・企業・政府が協力しあい、責任を共有する社会

ここまで見てきたように、能動的サイバー防御法は、ただの“防衛法”ではなく、日本社会の「あり方」を変えていく可能性を持った制度です。

けれど、この制度が「役に立った」と言える未来をつくるためには、運用する政府だけでなく、それを見守り、支える市民の力が必要不可欠です。

“安心してインターネットを使える社会”は、偶然できるものではなく、国民・企業・政府の三者が役割を果たしてこそ実現できるものです。

この法律は、未来への挑戦です。そして、未来を選び取るのは、今を生きる私たち一人ひとりなのです。

参考資料
サイバー安全保障を確保するための能動的サイバー防御等に係る態勢の整備の推進に関する法律案(衆議院)

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