2025年6月から、私たちの働く環境に大きな変化がはじまります。それは「熱中症対策」が、職場で法律として義務化されるということ。
これまで、「水を飲もう」「無理せず休もう」といった対策は、あくまで“気をつけましょう”というレベルでした。でも、毎年のように猛暑が続き、職場で熱中症になる人が増え、命を落としてしまうケースも少なくありません。だからこそ今回、「暑さから命を守ること」をルールとしてしっかり決めようという動きが始まったのです。
今回は、なぜこの対策が必要なのか、どんな職場が対象になるのか、もし守らなかったらどうなるのかなどを、わかりやすくご紹介していきます。
なぜいま、熱中症対策が「義務化」されたのか?
最近の夏、みなさんはどう感じていますか?「昔より暑いな」「クーラーがないと無理」と感じる人も多いでしょう。実際に、気象庁のデータでも、日本の夏の気温は年々上がり続けています。とくに2020年代に入ってからは、真夏日(30℃以上)や猛暑日(35℃以上)が連日続く地域も珍しくありません。
このような気候変動の中で、大きな問題となっているのが「熱中症」です。熱中症とは、体が暑さにうまく対応できずに体温が上がり、めまい、頭痛、吐き気、意識障害などを引き起こす症状のことです。重症の場合は命を落とすこともあります。
なぜ「職場の熱中症」が注目されたのか?
熱中症と聞くと、炎天下の屋外や運動中の事故を思い浮かべる人が多いかもしれません。でも、実際に最も多く熱中症で倒れているのは「職場」なのです。
2024年には、全国で1257人が「仕事中に熱中症になった」として労働災害の認定を受けました。そのうち31人が命を落としました。この数字は、記録が残っている中で最も多く、しかも3年連続で30人を超えています。
中でも、建設業や製造業など、屋外や熱のこもる工場内で働く人が多く被害を受けています。しかし、外回り営業や倉庫、配送業務など、「屋内・屋外問わずリスクがある」ことも明らかになってきました。
では、なぜこれほどまでに死傷者が増えているのでしょうか?
厚生労働省が2020年から2023年までの4年間に起きた103件の職場での熱中症死亡事故を調べたところ、100件(約97%)が「初期症状の見逃し」や「対応の遅れ」によるものでした。
たとえば以下のようなケースです:
- 作業員が「なんとなく気持ち悪い」と訴えたが、休ませず作業を続けさせた
- 異変に気づいた人がいたが、「大丈夫だろう」と報告しなかった
- 倒れたあと、救急車を呼ぶまでに時間がかかった
こうした「あと一歩の行動」ができていれば、命が助かっていたかもしれないのです。
それでも、なぜ企業は十分な対策を取ってこなかったのか?
実はこれまで、熱中症対策は法律上の義務ではありませんでした。「水を配る」「休憩させる」といった対策は“努力義務”とされ、各職場の判断に任されていたのです。
企業の多くは、独自に工夫して対策をとっていました。実際、2025年5月の帝国データバンクの調査によれば、95.5%の企業が「何らかの熱中症対策をしている」と答えています。
しかしその内訳を見ると…
- 水や塩分補給品の支給:55.7%
- 扇風機・サーキュレーターの使用:60.7%
- 報告体制の整備:15.2%
- 緊急連絡先の周知:13%
つまり、最も重要な「体調不良を報告する仕組み」「倒れた時の搬送先」がほとんど整備されていなかったのです。これが多くの命を守れなかった大きな原因となりました。
だからこそ、2025年6月から「法律で義務化」
このような背景をふまえて、厚生労働省は労働安全衛生規則(ろうどうあんぜんえいせいきそく)というルールを見直し、「命を守る対策を企業に義務づける」ことにしたのです。
具体的には:
- 「暑さ指数(WBGT)28度以上」または「気温31度以上」
- かつ「連続1時間以上」または「1日4時間以上」の作業
という条件にあてはまる場合には、企業は以下を必ず行わなければなりません。
- 体調不良を報告できる体制の整備
- 熱中症になった時の対処手順(搬送や冷却など)の準備
- それらのルールを働く人に周知すること
さらに、違反した場合は罰則(6か月以下の拘禁刑または50万円以下の罰金)もあります。これは「企業の自主性」ではなく、「命を守る義務」として国が強く求めていることのあらわれです。
熱中症対策の義務化は、単に「暑さに気をつけてくださいね」という話ではありません。これは、「小さな異変に気づくこと」「声を上げること」「すぐに対応すること」が、命を守る当たり前の行動になる社会を目指した改革です。
そしてこの変化は、同じく2025年に進められている年金制度改革ともつながっています。「亡くなった後のお金(遺族年金)」だけでなく、「亡くならないための対策」も国全体で考えていこう、という大きな流れの中にあるのです。
義務化される内容:3つのポイントをもっと詳しく知ろう!
2025年6月1日から始まった「熱中症対策の義務化」。これは一言でいえば、「職場での命を守る行動を、きちんとルールとして決めて守ろう」という制度です。ただし、なんとなくの注意喚起ではなく、法律で義務づけられるという点がこれまでと大きく違います。
では、どんなことが義務になるのでしょうか? ここでは「3つのポイント」をひとつずつ、深く見ていきます。
「体制を整備」=“誰が・どこに・どう”伝えるかを決める
まず一番大切なのが、「体調に異変を感じた人」「周りの異常に気づいた人」がすぐに報告できる体制を作ることです。
なぜ体制整備が必要?
職場での熱中症による死亡事故の多くは、「なんとなく体調が悪いけど、言い出しにくい」「自分は平気だと思った」「誰に報告すればいいかわからなかった」など、“判断が遅れた”ことが原因です。
つまり、「異常を感じたとき、すぐに報告できる仕組み」がなければ、症状がどんどん悪化してしまうのです。
具体的に企業がやるべきこと
- 連絡先を明確にする:誰に報告するか(例:安全担当者、作業班長など)
- 連絡方法を決める:電話、メール、無線、インターホン、LINE、緊急ボタンなど現場に合った手段
- 目につく場所に掲示する:社内ポータルサイト、掲示板、ロッカー、休憩室など
- 教育を行う:朝礼や研修で「このようなときは必ず報告する」と周知する
例:
「休憩所にある掲示板に“体調が悪いと感じたら●●さんに無線で連絡”と書いてある」
→これだけでも、迷わず行動できる現場になります。
関連情報
職場における熱中症対策の強化について(厚生労働省)
「対処の手順を用意」=“どう動くか”をルールで決める
報告を受けたあとに重要なのが、「その次にどう動くか」です。これは現場がパニックにならず、迅速に対応できるようにするためのルールです。
なぜ手順が必要?
人が倒れたり、意識を失っているような緊急事態では、冷静な判断が難しくなります。「誰がどうするのか」が決まっていないと、バラバラな対応になってしまい、助かる命も助かりません。
必ず用意すべき4つのステップ
- 作業からの離脱
→「我慢せず、その場を離れて休憩してよい」空気を作る - 身体の冷却
→日陰へ移動、保冷剤、氷水、扇風機、エアコンなどで体を冷やす - 医師の診察・搬送
→救急車の要請、あらかじめ決めておいた病院への連絡と移送 - 緊急連絡網の共有
→連絡先や担当者、病院の地図などをリストにして掲示・配布
例:
「異常があれば、まず涼しい場所へ移動→保冷剤で冷却→症状が重ければ病院へ搬送」という流れを、全員が理解している。
この流れは職場における熱中症対策の強化についての3ページにも掲載されている「見つける→判断する→対処する」という三段階の図で示されています。
「作業の条件」=すべての職場が対象ではないが、想像以上に広い
法律では、どんな作業が義務化の対象かが明確に定められています。以下の2つの条件を両方満たす作業が対象です。
条件① 暑さの基準
- WBGT値28度以上 または
- 気温31度以上
WBGT(暑さ指数)とは、気温・湿度・輻射熱などを組み合わせて出す「暑さの感じやすさ」を示す指標です。体の危険度に近い指標で、日陰でも蒸し暑ければ数値が上がります。
条件② 作業時間
- 連続1時間以上の作業 または
- 1日合計で4時間以上作業
どんな職場が対象になるの?
多くの人が「工事現場だけでしょ?」と思いがちですが、実は以下のような場所も該当します。
- 冷房のない工場や倉庫
- 配達や荷物運びのトラック乗務員
- 屋外での接客(イベント、警備)
- 外回りの営業担当
- 熱を発する機械のある厨房、印刷所
例:
「室内だけど蒸し暑くて、作業が4時間以上続く工場」
→この場合も法的義務の対象になります。
職場における熱中症対策の強化についての4ページでは、「WBGT28度または気温31度以上で、1時間以上または1日4時間超」と明確に記されています。
ポイント | 目的 | 具体例 |
---|---|---|
① 体制整備 | 早期発見 | 「誰が・どこに・どう報告」か明確に |
② 手順の用意 | 重症化防止 | 冷却・搬送・連絡の流れを決めておく |
③ 対象作業の確認 | 法的義務の有無 | WBGT28℃以上または気温31℃以上×1時間超 |
これらの3つの対策は、「単に安全のため」ではなく、命を守る責任を果たすための基本です。
特に、今後は法律違反とみなされれば、罰則(最大で拘禁刑や罰金)があるため、企業側も真剣に取り組む必要があります。
そして一番大切なのは、「現場の一人ひとりがこの仕組みを理解し、実際に動けるようになること」です。制度は、使われてこそ意味があります。
もし義務を守らなかったら?罰則の内容をくわしく解説
では、もしも企業がこの義務を無視したらどうなるのでしょうか?
6か月以下の「拘禁刑(こうきんけい)」
まず1つ目の罰は「拘禁刑(こうきんけい)」です。聞きなれない言葉かもしれませんが、これは2025年6月から始まった新しい刑罰の形で、これまでの「懲役」と「禁錮(きんこ)」を統一したものです。
拘禁刑ってなに?
- 刑務所などに入って自由を奪われる刑罰です。
- 最長で6か月間、出られなくなる可能性があります。
- 作業(刑務作業)をする場合もあれば、しないこともあります。
つまり、「熱中症対策をサボっただけ」で、実際に刑務所に入る可能性があるということです。
50万円以下の罰金
2つ目は、お金での罰です。違反した企業や担当者に対して「最大で50万円の罰金」が科されます。
これは一見すると軽そうに見えるかもしれませんが、中小企業にとっては大きな負担になります。しかも一度違反したことで、労働基準監督署やメディアから注目され、「労務管理がずさんな会社」というレッテルが貼られるリスクもあります。
また、罰金は1回で終わりとは限らないことも重要です。違反が続けば、複数回にわたって課せられることもあり得ます。
法人も罰せられる「両罰規定」とは?
さらに注意が必要なのが、「会社(法人)も罰せられる」という点です。
これは「両罰規定(りょうばつきてい)」と呼ばれます。たとえば、ある工場で安全担当者が熱中症対策のルールを無視してしまった場合、その人だけでなく工場全体(法人)にも50万円以下の罰金が課される可能性があるのです。
これはこういう考え方に基づいています:
「社員の行動は会社の責任でもある。だから企業も一緒に責任をとってもらう」
つまり、組織ぐるみでの安全管理が求められる時代になっているのです。
どんなときに「違反」と判断されるのか?
では、「違反」とはどんな状況を指すのでしょうか? 厚生労働省の指針では、以下のような場合が「違反」とされる可能性が高いです。
状況 | 内容 |
---|---|
報告体制がない | 熱中症を訴えても誰に報告すればいいかわからない状態 |
冷却手段が用意されていない | 保冷剤や涼しい休憩所がなかった |
医療搬送先が決まっていない | 倒れたときに「どこに連れていけばいいか」が不明 |
現場にルールが周知されていない | 作業員が「対処手順を知らなかった」状態 |
暑さ指数(WBGT)を無視して作業させた | 危険レベルの暑さでも通常通りの勤務を強行 |
特にWBGT28度以上・気温31度以上かつ長時間の作業という条件に該当する場合、義務を怠ると重大な責任を問われることになります。
実際の現場で起こりうるトラブル例
以下のような例は、今後の法改正後では「完全にアウト」とされる可能性があります。
- 【現場での会話】
Aさん「ちょっと気持ち悪いかも…」
Bさん「気のせいだよ、もう少し頑張って」 - 【対応の遅れ】
作業中に倒れたが、搬送先が分からずオロオロして10分以上放置 - 【準備不足】
工場にWBGT計(暑さ指数計)すら設置されていない
こうした行為は、結果として命にかかわるだけでなく、企業に重い刑事責任を問う原因にもなります。
中小企業はどう備えるべきか?
では、資金や人手に余裕のない中小企業はどうすればいいのでしょうか?
実は厚生労働省は、中小企業向けに次のような支援を行っています。
- 対応マニュアルやチェックリストの提供(無料で入手可能)
- 装備品導入への助成金(例:冷房機器、WBGT計など)
- オンライン講習会の開催(誰でも参加可能)
- 地方労働局が個別相談に対応
つまり、「義務化したからあとは自己責任でどうぞ」ではなく、ちゃんと国として支援策も用意されています。これらを活用することで、無理なく、でも確実に対応を進めることが可能です。
「義務化」の本当のねらい
「暑いけど、我慢して仕事を続けるのが当然」
「仲間が体調悪そうだけど、忙しいから声をかけにくい」
「自分の判断で仕事を抜けたら、怒られるかもしれない」
こんな空気、あなたの職場にもありませんか?
じつは、熱中症による死傷事故が後を絶たない背景には、こうした“気づいていたのに何もできなかった”という日本独特の空気があるのです。
厚生労働省の分析によると、2020年〜2023年の4年間で職場で熱中症により亡くなった103人のうち、なんと100人以上が「防げた可能性があった」ケースでした。具体的には次のようなパターンです:
- 自覚症状があったが、報告せずに作業を続けてしまった
- 同僚が異変に気づいたが、「大丈夫だろう」と放置した
- 具合が悪くなっても、搬送先が決まっておらず、救急対応が遅れた
つまり「あと一歩の行動があれば助かった命」が9割以上だったのです【パンフレット2ページ】。
これはただの事故ではありません。社会全体の“空気”が、命を守る行動を遠ざけていたということです。
「我慢して働く」はもう美徳ではない
日本では長いあいだ、「暑くても黙って働くのがプロ」「弱音を吐くのは甘え」といった価値観が根強くありました。とくに現場仕事では「体調不良=自己管理不足」という見方がされることもあり、具合が悪くても言い出しにくい環境がありました。
でも、これは今や「命の危機」です。
真夏の炎天下や蒸し暑い室内で長時間作業することは、医学的に見ても命に関わる危険行為です。近年の地球温暖化の影響で、気温や湿度が高い日が増え、人体の限界を超える環境が当たり前になってきました。
にもかかわらず、「我慢しろ」「がんばれ」で押し切っていたら、いつか誰かが倒れ、取り返しのつかないことになります。
「気づいたら止める」「異変を感じたら離脱」は“常識”に
今回の義務化の核心は、「命を守る行動を日常の常識に変える」ことです。
たとえばこんな行動を当たり前にしていくことが求められています:
- 「なんか変だ」と思ったら、無理せずすぐに離脱する
- 同僚の様子が違えば、声をかけて確認する
- 職場全体で「倒れたときどう動くか」を共有しておく
- 「冷房が効いてない」「暑すぎる」と感じたら改善を求める
これらは、「怠けている」のではありません。むしろ“命を大切にするプロの判断”です。
そしてこれを法律として明文化したことで、「個人の勇気」や「職場の雰囲気」に任せるのではなく、社会全体で命を守る行動を標準装備にしようという国家的メッセージが込められているのです。
制度が変わるだけではダメ、意識も変える必要がある
制度が整っても、人の意識が変わらなければ意味がありません。
いくら報告体制があっても、職場のリーダーが「気合いで乗り切れ」などと言えば、現場の人は報告しにくくなります。いくら冷却装置があっても、「勝手に休憩に入るな」と言われれば使えません。
つまり、国が「義務化」という“外側のルール”を作ったことに対して、職場や個人が“内側の意識”を変えることが本当のねらいなのです。
さらに視点を広げると、今回の熱中症対策義務化は、同じく進められている「2025年年金制度改革案」ともつながっています。
たとえば遺族年金は、働く人が命を落としたとき、家族に支払われる保障ですが、政府はこの制度も見直しに動いています。つまり、「亡くなった後の保障」ではなく、「亡くならないための仕組み」へと社会の方向性がシフトしているのです。
熱中症で命を落とすことが「普通」であってはならない。そうした未来を防ぐために、国はルールを変え、私たちに行動を求めています。
「熱中症対策」は、命の文化を変える改革
この義務化は、ただの健康管理や安全配慮ではありません。「命を守る文化そのものを変える」という社会的な改革です。
- 暑さは命にかかわるという認識
- 自分の異常や他人の変化に気づく力
- 気づいたとき、すぐに行動する習慣
- その行動が評価される職場づくり
こうした価値観を広げていくことが、今回の法改正の本当の目的です。
「我慢」ではなく「報告する」
「無理を通す」ではなく「離脱する」
「異常を見逃す」ではなく「気づいて声をかける」
これらが日常のふるまいとして自然になることが、義務化の最終ゴールとなります。
年金制度改革との接点
2025年、日本は大きな2つの変化に直面しています。
1つは、「職場での熱中症対策の義務化」。
もう1つは、「年金制度の改革」、とくに遺族年金の見直しです。
この2つはまったく別の話のように見えるかもしれません。でも、どちらも“命をどう支えるか”という国の基本的な姿勢の転換を示している点で、深くつながっています。
遺族年金とは「誰かの命が失われたあと」に支払われるお金
まず、遺族年金(いぞくねんきん)とは何かを確認しましょう。
これは、家族の中で働いていた人が亡くなったときに、残された家族(配偶者や子どもなど)に対して国から支払われるお金のことです。
たとえば:
- 父親が働き手で、突然事故や病気で亡くなった
- 家族の収入がゼロになってしまう
- 生活が立ち行かなくなるのを防ぐため、国が遺族に年金を支給する
これが遺族年金の基本的な考え方です。つまり、「亡くなった命の代償を、国として最低限保障する」制度です。
2025年の改革では、遺族年金の“対象”や“金額”が見直される
ただ、この遺族年金、実は制度として古く、時代遅れの面も多いのです。たとえば:
- 夫が亡くなった場合の支給は手厚いが、妻が亡くなっても支給されないケースがある
- 子どもが18歳を過ぎたらすぐに打ち切られる
- 非正規で働いていた人が亡くなっても、年金の対象にならないことが多い
これでは、多様な家族構成や働き方に合っていないという批判が続いていました。
2025年の年金改革案では、こうした遺族年金の不公平をなくし、「誰が亡くなっても、残された人が暮らしていける仕組みにする」ことが目的とされています。
でも、「亡くなったあとの保障」だけでは、もう追いつかない
ここで考えてみましょう。遺族年金は、「命が失われたあと」に出されるお金です。
でも、そもそも命が失われなければ、年金の必要すらなかったという見方もできます。
実際、今回の熱中症対策義務化は、この点に正面から向き合った施策です。
- 熱中症は、予防すれば防げる命のリスク
- それを防がずに命を落とす人が増えている
- 死亡後に年金を出すだけでは、もう十分ではない
- だから、「亡くなる前に守る」ことを、制度として義務づける
この考え方は、年金改革の方向性ともぴったり重なります。
キーワードは「命の価値の考え直し」
今、国が見直しているのは、単なるお金の出し方ではありません。もっと大きく言えば、「命の価値をどう考えるか」を問い直しているのです。
旧来の考え方:
- 命が失われた → その代償として年金を出す
これからの考え方:
- 命は失わせない → そのために社会全体で予防し、守る
こうした転換の象徴が、今回の「熱中症対策の法制化」であり、「遺族年金制度の再構築」なのです。
熱中症の死者を減らすことは、年金制度にも貢献する
ここはとても重要なポイントです。
遺族年金は、亡くなる人が多ければ多いほど支給が増え、財源を圧迫します。
つまり、命を守ることで、年金財政の健全化にもつながるのです。
これは制度を支える国にとっても、国民にとっても「いい循環」です。
- 職場での熱中症死が減る
- 遺族年金の支出が減る
- 年金制度が持続可能になる
- より幅広い人に公平な保障ができるようになる
実は、「健康で長く働ける社会」は、「強い年金制度」をつくることにも直結しているのです。
- 遺族年金=命を支える制度(亡くなったあとの保障)
- 熱中症対策義務化=命を守る制度(亡くなる前の予防)
この2つは決してバラバラではありません。どちらも、「命を見過ごさない社会に変えていく」ための改革です。
そしていま、日本は「死んでから支える」から「死なせない社会をつくる」へと、大きく舵を切ろうとしています。
私たち一人ひとりが、この方向性に目を向け、意識を変えていくことこそが、社会をより安全で持続可能なものに変える第一歩となるでしょう。
参考資料
職場における熱中症対策の強化について(厚生労働省)