2025年10月、日本の運転免許制度が大きく変わります。
外国の免許を日本の免許に切り替える「外免切替(がいめんきりかえ)」が、これまでよりずっと厳しくなるのです。
この記事では、制度改正の理由や、新しく導入されるルール(住民票の提出、知識試験の大幅な難化、技能試験の厳格化など)を、できるだけわかりやすく解説します。
なぜ今、「外免切替」が見直されるのか?
これまで外国人観光客でも比較的簡単に取得できた日本の運転免許証でしたが、交通事故の増加と制度の“甘さ”が問題となり、見直しが決まりました。
きっかけは、2025年5月に埼玉県三郷市で発生したひき逃げ事件。小学生が外国人ドライバーにはねられるという重大な事故でした。加害者は、「外免切替」で免許を取得した外国人で、日本の交通ルールをどれほど理解していたのかが疑問視されました。
この事件以降、国民の間では「そもそも制度が甘すぎるのでは?」という声が急増。警察庁も「このままでは日本の道路は危険だ」として、制度の厳格化を進めることにしたのです。
外免切替ってそもそも何?
制度の概要を簡単に整理すると、以下の通りです。
項目 | 現行制度 |
---|---|
対象 | 外国の有効な運転免許証を持つ人 |
住所証明 | ホテルや友人宅でも申請可能 |
知識確認試験 | ○×式のイラスト問題10問のみ |
技能確認試験 | 採点基準は比較的ゆるやか |
観光客の申請 | 可(短期滞在でも取得可能) |
要するに、「短期滞在者でも簡単に日本の免許が取得できる」という制度だったのです。
実際に何が問題なのか?
警察庁が発表したデータを見てみると、問題の深刻さがわかります。
- 2024年に外免切替で免許を取得した外国人:6万8623人(前年比+22.5%)
- 外国人による交通事故件数:7286件(過去10年で最多)
しかも、日本全体の交通事故件数は減少傾向にあるのに、外国人ドライバーだけ増加しているというのは明らかに異常です。
さらに、知識確認試験も甘すぎました。イラスト付きの○×形式10問で、そのうち7問正解すれば合格。通過率はなんと93%。これでは、日本の交通標識や歩行者優先のルールを十分に理解しているとは言えません。
見直しが必要な理由は3つ
今回の制度改正には、次のような明確な目的があります。
① 交通安全の確保
日本では「歩行者優先」が交通の基本ルール。これを守らないと重大事故につながります。交通ルールを理解していない人が運転するのは危険です。
② 国際基準との整合性
警察庁が調査した15の国・地域のうち、日本のように観光客でも免許を切り替えられる国はありませんでした。
ほとんどの国では「3か月以上の滞在」「住民登録」などを条件としています。
③ 制度の信頼性回復
このままでは「日本の免許=簡単に取れる」というイメージが広がってしまいます。国内外の信頼を守るため、審査の厳格化は避けられません。
今後どう変わるのか?
制度改正により、以下のような変更が予定されています(詳細は次章で詳述します)。
変更点 | 改正前 | 改正後(予定) |
---|---|---|
住所の確認方法 | 滞在先でOK | 住民票の写しが必須 |
観光客の申請可否 | 可能 | 不可(外交官など除く) |
知識確認試験 | ○×式10問 | 選択式50問に増加 |
正答率合格ライン | 70%(7問) | 90%(45問) |
技能試験の採点基準 | 緩やか | 厳格(踏切・横断歩道追加) |
外免切替制度の見直しは、外国人を排除することが目的ではありません。「日本の交通ルールをしっかり理解した人だけが、安全に運転できるようにする」ことが目的です。
制度の信頼性を守り、誰もが安心して道路を利用できるようにするには、ある程度の厳しさが必要です。今後の改正内容を知ることは、日本で暮らす外国人にとっても、事故から身を守る大切な第一歩になるはずです。
外免切替とは?現行制度の仕組み
「外免切替(がいめんきりかえ)」とは、外国で取得した運転免許証を、日本国内で使える免許証に切り替える手続きのことを指します。外国人が日本で運転をするには、主に以下の3つの方法があります。
- 国際運転免許証を使って運転(有効期間内であれば日本で運転可能)
- 日本で新たに運転免許試験を受けて取得する
- 外免切替制度を利用して切り替える
このうち、最も簡単かつ短期間で免許が取得できるのが「外免切替制度」です。とくに観光客などの短期滞在者にとっては、手軽で便利な制度として利用されてきました。
現行制度の流れと内容
「外免切替」で免許を取得するためには、まずいくつかの条件を満たす必要があります。現在の手続きは以下のような流れです。
手続き項目 | 内容(現行制度) |
---|---|
必要書類の提出 | 本国の運転免許証、日本語翻訳、パスポートなど |
住所証明 | ホテルや友人宅などでも「住所」として認められる |
書類確認 | 有効性・本人確認・免許の発行国の確認など |
知識確認(筆記試験) | イラスト付き○×式の10問、7問以上で合格 |
技能確認(実技) | 簡易的な走行確認、内容・採点は緩やか |
このように、比較的シンプルかつ短時間で日本の免許証を手に入れられる仕組みとなっています。
対象国と免除制度
すべての国の免許証がそのまま切り替えられるわけではありません。警察庁が指定する外免切替対象国・地域(例:ドイツ・フランス・韓国・台湾など)に該当する場合にのみ、この制度が利用できます。
また、一部の国については「知識確認試験や技能確認試験の一部または全部が免除される」というケースもあります。これにより、ほとんど試験なしで免許が取得できる国の人も存在するのです。
現行制度の問題点
この便利な制度ですが、近年は次のような問題点が指摘されています。
短期滞在者の乱用
本来、外免切替制度は「日本で生活する外国人のため」の制度です。しかし現在は、観光客などの短期滞在者でも、一時的な宿泊先を「住所」として登録できるため、実質的に誰でも免許を取得できてしまう状況となっています。
たとえば、以下のようなケースも実際に可能でした。
- 来日して1週間しか滞在しない観光客が、ホテルの住所を登録して外免切替を申請
- 滞在ビザが観光目的でも、試験を受けて数日で日本の免許を取得
これは、世界的に見ても非常に異例な対応です。
知識確認の内容が簡単すぎる
筆記試験では、交通ルールに関する○×形式のイラスト問題が10問出題されるだけ。しかもそのうち7問正解すれば合格です。
実際の例を見てみましょう。
出題例(○×問題) | 内容 |
---|---|
信号が赤なら必ず止まる? | 正解:○ |
歩道を自転車で走っていい? | 正解:×(原則、車道を走るべき) |
このようなレベルの問題で済むため、「日本の標識や道交法の基礎が本当に理解されているかどうか」は疑問が残ります。
通過率は実に93%。多くの人が一発で合格しているという状況です。
技能確認試験がゆるい
日本で新たに運転免許を取得する人は、実際の教習所で厳しい技能試験を受けます。ところが外免切替では、簡易的な運転確認のみで済まされるのが現状です。
踏切や横断歩道、合図のタイミングなど、日本の交通特有の要素を確認しないまま合格してしまうケースも少なくありません。
他国と比較するとどうなのか?
警察庁が調査した15か国(例:イギリス、フランス、韓国など)の制度と比べると、日本の外免切替制度はかなり寛容(ゆるやか)なことがわかります。
多くの国では以下のような条件が課されています。
- 滞在期間が3か月以上あること
- 現地で住所登録(住民登録)があること
- 交通ルールに関する厳しい試験を受けること
これに対して、日本は「住所=滞在先ホテルでもOK」「○×10問で済む知識確認」「実技は軽めの確認」という点で、かなり取得しやすい制度だったのです。
この制度は何のためにあるのか?
もともと、外免切替制度は以下のような人々を想定して作られていました。
- 日本に長期滞在するビジネスマンや留学生
- 帰国する日本人で、海外で取得した免許を国内でも有効にしたい人
- 外交官や技術専門職などで一定期間日本で働く人
つまり、観光客のような「一時的な訪問者」向けではなかったのです。
ところが制度の運用があいまいだったために、本来の目的とは異なる利用が広まってしまいました。
現行制度のまとめ
特徴 | 内容 |
---|---|
申請対象 | 外国免許を持つ人(短期滞在も申請可) |
住所要件 | ホテル・友人宅など一時滞在先でも可能 |
試験内容(知識確認) | ○×形式10問、7問正解で合格、通過率93% |
試験内容(技能確認) | 採点基準が甘く、踏切・横断歩道は項目外 |
国際的な比較 | 他国よりも取得条件がかなり緩やか |
こうした現状を受けて、警察庁は制度の大幅な見直しに踏み切りました。次章では、改正後に何がどう変わるのか――特に観光客が対象外になることや、筆記・実技試験の厳格化について、詳しく解説していきます。
観光客が対象外に。住所要件の厳格化
2025年10月から始まる外免切替制度の改正では、最も大きな変更点のひとつが「観光客が申請できなくなる」というルールです。これは、「住所要件の厳格化」によって実現されます。これまであいまいだった“住所”の定義を見直し、「短期滞在者は原則として対象外」とする方針です。
なぜ観光客が対象外になるのか?
これまでの制度では、観光で数日だけ日本に滞在する外国人でも、ホテルや友人宅の住所を申請書に記入することで、合法的に外免切替が可能でした。
実際には、次のようなケースが見られました。
- 来日して1週間だけ滞在予定の観光客が、ホテルの住所で外免切替を申請
- 「一時的に親戚の家に泊まっている」として知人宅を住所に記載
- 滞在目的が「観光」なのに、運転免許を取得してレンタカーで観光地を巡る
こうしたケースが全国で相次いだ結果、事故が多発する原因のひとつにもなっていました。
具体的な変更内容
今回の制度改正では、「住所要件」が次のように変更されます。
項目 | これまで(旧制度) | 改正後(新制度) |
---|---|---|
住所の証明 | ホテルや友人宅の記載でOK | 住民票の写しが原則として必須 |
観光ビザでの申請 | 可能(滞在日数に制限なし) | 不可(短期滞在者は対象外) |
例外扱い | 特になし | 外交官・レーサーなどは個別に例外対応あり |
このように、住民票の提出が義務化されることで、観光目的で来日した短期滞在者は事実上申請ができなくなります。
住民票って何?
「住民票」とは、日本に住んでいる人の名前・住所・生年月日などを記録した公的な証明書です。通常は、日本に中長期的に滞在する外国人が市区町村の役所で発行を受けるもので、短期滞在の観光客には発行されません。
つまり、今後の制度では「日本にきちんと住んでいること」が証明できなければ免許は取得できないということになります。
観光客と在留外国人の違い
今回の改正で明確に線引きされるのが、「観光客」と「在留外国人」です。
区分 | 定義 | 外免切替の可否 |
---|---|---|
観光客 | 一時的に日本を訪問、原則90日以内の短期滞在 | 不可(新制度では対象外) |
在留外国人 | 留学・就労などで日本に居住、住民登録済み | 可能(住民票があれば) |
これにより、制度本来の目的である「日本で生活する人向けの支援」という原則が明確になります。
例外的に申請できる人は?
すべての短期滞在者が一律で対象外になるわけではありません。以下のようなケースでは、引き続き外免切替の申請が可能です。
- 外交官やその家族(外交特権があるため)
- 国際的なモータースポーツ大会に参加するレーサー(在留資格認定証明書がある場合)
こうした特別な立場にある人については、個別に審査されることになります。
国際的には“当たり前”のルール
実は、今回の改正で導入される「短期滞在者は対象外」というルールは、世界的に見ればごく一般的なものです。
警察庁が調査したところによると、イギリス・ドイツ・フランス・中国・韓国など、15の国や地域では、すべてにおいて短期滞在者による免許取得は不可となっていました。多くの国が以下のような条件を設けています。
- 滞在期間が3か月以上
- 現地の住民登録証の提出
- 所得証明や就労証明の提示
これまでの日本は、観光客でも免許が取れてしまう“例外的に甘い国”だったのです。
この変更には、明確な目的があります。それは、「運転免許の信頼性」と「交通安全」を守ることです。
たとえば、ある国の人がたった数日日本に滞在しただけで、簡単な試験を受けて免許を手に入れ、そのままレンタカーを借りて走り回る…。その人が日本の道路標識や交通ルールを十分に理解していなかったら、事故のリスクは非常に高くなります。
しかも、仮にその人が事故を起こしたとしても、すぐに出国してしまえば、被害者は泣き寝入りになる可能性すらあるのです。
制度を悪用されないためにも、「日本にちゃんと住んでいること」を確認することは極めて重要です。
制度が変わることで何が期待されるのか?
今回の住所要件の厳格化により、次のような効果が期待されています。
- 日本の交通ルールを理解していない人による運転を防げる
- 交通事故の発生リスクを減らすことができる
- 運転免許制度の信頼性が高まる
- 日本と他国の制度の水準を合わせられる
特に、観光客によるレンタカー事故の抑制は、地方の観光地にとっても大きな意味を持ちます。
観光客は日本にとって大切なお客様です。でも、運転という行為には、命を守る責任が伴います。
だからこそ、「観光で数日間だけ滞在する人」には、日本の免許を簡単に与えるべきではない――それが今回の制度改正の根本的な考え方です。
制度を正しく整えることで、日本の道路はより安全になり、日本で生活する外国人にとっても安心できる環境が築かれていくのです。
知識確認が大幅強化、10問→50問へ
外免切替制度の大きな見直しポイントのひとつが、交通ルールに関する「知識確認試験」の内容が劇的に強化されることです。これまでの制度では、「これで本当に安全なのか?」と疑問の声が上がるほど、簡単な試験で免許が取得できていました。
今回の改正では、問題数や内容、合格基準すべてが見直され、実質的に“本気で学ばなければ合格できない”試験へと変わります。
現行制度では、知識確認は以下のような形式で実施されていました。
項目 | 現行制度の内容 |
---|---|
出題形式 | ○×形式(イラスト付き)10問のみ |
合格ライン | 7問以上の正解(正答率70%) |
試験内容の範囲 | 一部の標識や基本ルールに限定 |
合格率(2024年) | 約93%(ほとんどが一発合格) |
つまり、10問中3問まで間違えても合格できるというゆるい基準で、多くの申請者が簡単に通過していたのです。
この試験では、たとえば以下のような問題が出題されていました。
「信号が赤のときは進んではいけない。○か×か?」
→ 正解:○(ごく基本)
このような初歩的な内容だけで、日本の交通ルール全体を理解しているとはとても言えません。
改正後の試験はどう変わる?
警察庁が定めた新制度では、知識確認試験の形式と難易度が大きく変わります。
以下の表で比較してみましょう。
項目 | 現行制度 | 改正後制度(2025年10月〜) |
---|---|---|
問題数 | 10問 | 50問(5倍に増加) |
出題形式 | ○×形式 | 選択式・記述式中心(イラストなし) |
合格ライン | 70%(7問以上正解) | 90%(45問以上正解) |
試験範囲 | 一部の基礎知識 | 道交法全般(飲酒運転・標識・事故対応など) |
合格率 | 約93% | 大幅に低下する見込み |
この変更により、単に「なんとなくルールを知っている」程度では合格できなくなるのです。
出題される内容はどう変わる?
試験内容も一新され、より実践的かつ包括的な内容になります。警察庁が示す試験範囲には、以下のような重要な項目が含まれます。
主な試験範囲の例:
- 信号や標識の意味(例:一時停止、進入禁止、優先道路)
- 飲酒運転や薬物運転の禁止とその罰則
- 歩行者や自転車への注意義務
- 横断歩道・踏切での停止義務
- 事故発生時の通報や応急措置の方法
- 車線変更・右左折の方法と合図のタイミング
これらはすべて、日本の道路を安全に走るために欠かせない知識です。日本で免許を取得する日本人ドライバーが当然のように覚えている内容と同等の理解が、外国人にも求められるようになるのです。
一見すると、「外国人にだけ厳しくするのは不公平では?」という声があるかもしれません。しかし、これは公平性のための改正なのです。
これまでの制度では、日本で運転免許を新たに取得する日本人には学科試験と実技試験で厳しい審査があるのに、外免切替では極端にハードルが低く、「ダブルスタンダード(二重基準)」になっていました。
さらに、外国人ドライバーによる事故の増加が制度の“穴”を示しており、その対応としてルールの理解度をしっかり確認するために試験を強化することは避けられません。
合格が難しくなることでどう変わる?
問題数が50問になり、合格ラインが90%に引き上げられることで、以下のような効果が期待されています。
- 日本の交通ルールを本気で学ぶ外国人が増える
- 危険な運転をするドライバーの“ふるい落とし”ができる
- 自動車学校などの教育機関へのニーズが高まる
- 試験に落ちることで制度の“安易な利用”が防げる
特に、「単に免許が欲しいから日本で取っておこう」というような動機では、今後は通用しなくなるでしょう。
模擬問題例(イメージ)
以下は、今後の試験で出題されると想定される問題例です(※参考用の創作問題)。
問題:横断歩道の優先ルール
横断歩道を渡ろうとしている歩行者がいた場合、車はどうすべきか。
A. クラクションを鳴らして注意をうながす
B. 徐行しながら進む
C. 歩行者が渡るのを待って停止する
D. 歩行者を避けて追い越す
答えは当然、Cです。こうした内容が数多く出題されることで、日本の交通安全文化がきちんと伝わるようになります。
知識確認試験の強化は、単なる“ハードル上げ”ではありません。
それは、日本で運転する以上、「この国のルールを理解して、安全に運転する覚悟があるか?」という覚悟を問うメッセージでもあります。
これからは、“なんとなく”“軽い気持ちで”免許を取得することは難しくなります。
そして、それは交通事故の防止や命を守る行動につながっていくのです。
技能確認試験もより実践的に
外免切替制度の改正では、筆記試験(知識確認)の強化に加え、実際の運転操作をチェックする「技能確認試験」も、より実践的で厳しくなることが発表されました。
これまでの試験内容では、日本で安全に運転するうえで重要な「歩行者優先」や「踏切での一時停止」といった動作が試験項目に含まれておらず、見落とされがちでした。今回の制度改正では、これらを含めた試験内容の見直しと、採点基準の引き上げが行われます。
現行制度の技能確認では何が足りなかったのか?
まず、現在(改正前)の技能確認試験について、簡単に整理しておきましょう。
項目 | 現行制度(2025年9月まで) |
---|---|
試験内容の特徴 | 走行ルートに沿って基本操作を確認する程度 |
採点の厳しさ | やや緩やか。失格となるケースは少ない |
評価対象の動作 | 発進、停車、右左折、信号確認などが中心 |
歩行者や踏切の確認 | 項目に含まれていない |
現行制度では、「一時停止」や「ウインカーの適切な使用」などが軽く扱われており、日本での運転で特に重要な“歩行者優先”や“交通状況の判断力”を問う項目が不足していました。
改正後は“日本式”の厳しい実技試験に
2025年10月からの改正では、技能確認試験も日本人が運転免許を取得する際と同程度の厳格さになります。
項目 | 改正後(2025年10月以降) |
---|---|
採点基準 | 日本の新規免許取得者と同じ基準に統一 |
評価対象の拡充 | 踏切・横断歩道・ウインカーの使用などが追加 |
重大ミスの扱い | 一発失格となる項目が新設される可能性あり |
受験者の心理的負荷 | 難易度が上がり、本気での準備が必要になる |
これまでのように「ちょっと車に乗れる程度」では、合格は難しくなるでしょう。
具体的にどう変わるのか?【新たに追加される試験項目】
以下は、警察庁が導入を示した「新たに加わる技能確認のポイント」です。
① 踏切での一時停止
日本では、踏切前では必ず一時停止し、左右を目視で確認してから進むことが義務づけられています。
外国では、踏切でも減速のみで通過できる国もあり、文化の違いによる事故が起きやすいポイントです。
【新基準】
踏切の直前で完全に停止→左右を確認→ゆっくり発進
→ この一連の動作ができないと減点または失格対象
② 横断歩道での歩行者優先確認
歩行者が横断歩道を渡ろうとしている場合、車は必ず停止して道を譲らなければなりません。
【新基準】
横断歩道に歩行者がいる or 近づいている場合、停止して待つ
→ 歩行者を無視した場合、重大な減点対象に
③ ウインカー(方向指示器)の適切な使用
進路変更や右左折の際にきちんと事前にウインカーを出すことが求められます。
【新基準】
進路変更3秒前、右左折30m手前で合図を出す
→ 無合図や合図遅れは、安全配慮義務違反として減点対象
例:技能試験で見落としがちな減点ポイント
試験中は以下のような“ついやってしまいがち”な行動も、減点または不合格につながります。
動作の例 | 新制度での評価 |
---|---|
横断歩道に歩行者がいても止まらない | 一発失格または重大減点 |
踏切で完全停止せず通過する | 試験中断・不合格となる可能性あり |
ウインカーを出さずに右左折 | 合図義務違反として減点 |
交差点の中央に寄らず右折する | 不適切な車線位置として減点 |
このように、試験はより日本の交通文化に沿った基準で採点されるようになります。
なぜここまで厳しくするのか?
日本では、世界でも珍しいほど歩行者保護を最優先とした交通ルールが定着しています。
そのため、外国の運転スタイルのままでは適応しにくい場面が多く、実際に外国人ドライバーによる事故の中には「日本の歩行者優先ルールを知らなかった」という例もあります。
また、レンタカー利用の普及も背景にあります。観光客が取得したばかりの免許でレンタカーを運転し、標識や交通の流れに戸惑って事故を起こす――こうした事例が、特に地方都市や観光地で問題になっていました。
技能試験の厳格化により、「本当に安全に運転できる人だけが免許を取得できる」仕組みが整うことで、日本の道路全体の安全性が高まると期待されています。
運転技術だけでなく“日本の運転文化”が問われる
新制度では、「ハンドル操作がうまい」だけでは通用しません。
■ 歩行者がいたら必ず止まる
■ 合図はルール通りに出す
■ 踏切ではしっかり止まる
こうした当たり前だけれど命を守る動作ができてこそ、日本の免許保有者として認められるのです。
今後、外免切替を考える人は、「ただの手続き」としてではなく、「日本の運転者としてふさわしい行動とは何か?」を考えるきっかけにしてほしいところです。
制度改正の背景にある実態――急増する免許取得と交通事故
今回の外免切替制度の改正は、ただ“ルールを厳しくする”ためのものではありません。その背景には、外国人による免許取得の急増、そしてそれにともなって起きている交通事故の増加という現実があります。ここでは、実際にどのような数字や傾向があったのかを見ながら、なぜ制度が見直される必要があったのかを深掘りしていきます。
外免切替での免許取得者が急増
警察庁の統計によると、2024年に外免切替によって日本の運転免許を取得した外国人は6万8623人にのぼりました。これは前年と比べて22.5%も増えており、過去10年間でおよそ2.7倍に膨れ上がったことになります。
年度 | 外免切替による免許取得数 | 前年比増加率 |
---|---|---|
2014年 | 約2万5000人 | ― |
2019年 | 約4万8000人 | +92%(対2014) |
2024年 | 6万8623人 | +22.5%(対2023) |
この数字から見てもわかるように、外免切替制度は年々利用者が増えている制度だということがわかります。
その背景には、以下のような要因があると考えられます。
- 訪日外国人の増加(インバウンド観光需要の拡大)
- レンタカーやカーシェアの普及
- 簡便な手続きで免許が取得できることによる“お得感”
とくに日本を旅行で訪れる外国人の中には、「せっかくなら車を借りて自由に観光地を回りたい」というニーズも多く、それがこの制度の利用増につながっていたのです。
外国人ドライバーによる交通事故も増加
一方で、免許取得者の増加と比例するように、外国人による交通事故の件数も増え続けていました。
2024年のデータによると、外国人ドライバーによる交通事故は7286件にのぼり、これは過去10年で最多です。
年度 | 外国人による事故件数 | 備考 |
---|---|---|
2014年 | 約6730件 | |
2019年 | 約7000件 | 横ばい傾向 |
2024年 | 7286件 | 過去最多、10年で8.3%増加 |
しかも注目すべきは、全体の交通事故件数が年々減っている中で、外国人による事故だけが増えている点です。
これはつまり、「日本のドライバー全体が安全運転を意識するようになっている中で、外国人ドライバーだけが例外的に事故を起こしている」という構図です。
事故の背景にある“文化とルールの違い”
こうした事故の背景には、単なる技術不足だけではなく、「交通文化やルールの違いを理解できていない」という問題があります。
たとえば:
- 日本では横断歩道に人がいたら、必ず停まって渡らせなければなりません。
→ しかし国によっては、歩行者が「車を避けるのが当たり前」という国もあります。 - 踏切では一時停止して左右を確認する必要があります。
→ 欧米の一部では、踏切は「徐行」で通過してよい場所とされています。 - 右左折時のウインカーのタイミングや、進路変更時の車線の取り方など
→ 母国と日本で感覚がまったく違うことがあります。
このような「無意識のズレ」が、重大な事故につながってしまうのです。
さらに警察庁が注目しているのが、観光目的で来日した外国人ドライバーによる事故です。
一例を挙げると、地方の観光地では次のようなトラブルが報告されています。
- カーナビが日本語しか対応しておらず、道に迷って事故
- 細い山道や見通しの悪い交差点で接触事故
- スピード制限や通行区分を理解できず、逆走や暴走につながるケース
特にレンタカーを利用した外国人観光客の事故は、地方自治体や地元住民にとって深刻な問題となっていました。
制度の見直しは“予防”と“信頼回復”のため
こうした実態を踏まえ、警察庁は次のような危機感を持って制度改正に踏み切りました。
「このままでは制度の信頼が失われ、日本の道路の安全も守れない」
実際、日本の運転免許制度は、世界的にも厳格かつ信頼性の高い制度として評価されています。
しかし、外免切替だけが“抜け道”のように機能してしまっては、制度全体の信用が損なわれてしまいます。
今回の制度改正は、「外国人が増えたから」「事故が起きたから」といった一時的な対応ではありません。
長年にわたって積み重ねられたデータと実例が、制度の見直しを必要としたのです。
- 外免切替による免許取得者が10年で2.7倍に増加
- 外国人による交通事故が過去最多の7286件に
- 観光ドライバーによるリスクが地方を中心に深刻化
これらの“数字”は、ただの統計ではありません。制度が抱える根本的な問題をあぶり出す証拠であり、今回の厳格化が単なる締め付けではなく、予防と安全のための現実的な対応であることを物語っています。
制度改正の今後の流れと周知スケジュール
警察庁が発表した「外免切替制度の見直し」は、2025年10月1日からの施行を目指して進行中です。とはいえ、法律や制度はすぐに変えられるものではありません。
そのため、政府は一定のステップを踏んで、国民や関係者への周知と意見募集を進めています。
この章では、制度改正が正式に始まるまでの流れや、周知方法、関係する人たちへの影響などを時系列でわかりやすく解説していきます。
今どこまで進んでいる?改正プロセスの全体像
外免切替の制度改正は、単なる「お知らせ」ではありません。道路交通法の施行規則を一部変更するため、正式な法令改正の手続きを経る必要があります。
現在(2025年7月時点)の進行状況は以下のとおりです。
時期 | 内容 | ステータス |
---|---|---|
2025年7月10日 | 改正案を公表、制度改正の方針を正式発表 | 完了 |
2025年7月11日~8月9日 | パブリックコメント(意見公募)を実施 | 進行中 |
2025年8月下旬 | 寄せられた意見をもとに制度内容を最終決定 | 予定 |
2025年9月上旬 | 関係機関(免許センター・警察署など)への通達 | 予定 |
2025年10月1日 | 改正制度の正式施行(スタート) | 今後の予定 |
このように、制度改正は段階的に進められており、すでに意見公募の段階に入っています。
「パブリックコメント」って何?
聞き慣れない言葉かもしれませんが、「パブリックコメント」とは国民の意見を募集する制度です。
今回のような法令改正をする場合には、一定期間、誰でも意見や提案を出せるようにすることが義務付けられています。
期間と方法:
- 期間:2025年7月11日(金)〜8月9日(土)
- 方法:インターネット(e-Govサイト)または郵送で提出可能
- 対象:日本国籍の有無にかかわらず、誰でも提出可能
この制度の特徴は、「賛成・反対どちらでもよい」「提案でも具体例でもOK」という点です。
たとえば、次のような意見も受け付けられます。
- 「観光客の申請を完全に禁止すべき」
- 「母国語による説明資料を充実させてほしい」
- 「制度の変更はありがたいが、情報が足りない」 など
寄せられた意見は警察庁がすべて確認し、一部は制度設計の調整にも活用されます。
影響を受ける関係者は誰?
今回の制度改正は、外国人だけでなく、以下のような幅広い関係者に影響を与えると考えられています。
関係者 | 影響内容 |
---|---|
外国人観光客 | 短期滞在中の外免切替が不可に |
長期在留外国人 | 住民票の提出が必要に(追加書類の用意が必要) |
レンタカー会社 | 顧客への新制度の説明が必要、パンフレットの更新など |
自動車教習所 | 試験対策講座や教材の内容を新制度に合わせて変更 |
各都道府県の免許センター | 職員の教育、試験問題の切り替え、手続き案内の変更など |
このように、制度の変更は現場レベルにも大きな影響を及ぼすため、9月ごろから周知や準備が本格化する見込みです。
どうやって伝えるのか?
警察庁や都道府県警では、改正内容の周知にも力を入れています。
主な周知方法:
- 公式サイトでの改正概要の掲載(複数言語対応)
- 免許センター窓口でのチラシ・ポスター掲示
- 空港・観光案内所・レンタカー店などでの多言語パンフレット配布
- 外国人支援団体との連携による情報提供
- SNSやYouTubeでの案内動画の公開(簡単な日本語+英語字幕)
とくに、観光客が多いエリアでは英語・中国語・韓国語など多言語による説明が強化される予定です。
施行後の経過措置はあるのか?
現時点では、「経過措置(旧制度での申請を認める期間)」については明確に発表されていませんが、警察庁の説明によれば、
「10月1日以降は原則として新制度が適用される。手続き中でも、受付日によっては新ルールが適用されることがある」
とのことです。
そのため、ギリギリのタイミングで申請を予定している人は、早めに手続きを進めることが重要です。
制度改正は“準備と理解”がカギ
今回の外免切替制度の見直しは、日本社会にとって大きな意味を持ちます。
安全な道路交通を維持し、日本の交通文化を尊重する人が適正に運転できるようにするための改正です。
ただし、制度が変わるだけでは意味がありません。
「変わること」を知ってもらい、関係者が正しく理解し、準備を整えることこそが成功のカギになります。
参考資料
運転免許統計(警察庁)
外国の運転免許をお持ちの方(警察庁)