今さら聞けない「内閣不信任案」。わかりやすく解説

今さら聞けない「内閣不信任案」。わかりやすく解説 政府

ニュースでたびたび耳にする「内閣不信任案」。でも、実際にどんな仕組みで、なぜ出されるのかをちゃんと理解している人は意外と少ないかもしれません。「聞いたことはあるけれど説明はできない」――そんなあなたのために、本記事では内閣不信任案の基本から、その提出の意味、過去の事例、国民生活との関わりまで、やさしく解説していきます。

  1. 内閣不信任案とは?
    1. 憲法に定められた制度
    2. 誰が提出できるのか?
    3. 可決されたらどうなる?
    4. 不信任案とよく似た「信任案」
    5. 「出すだけ」の意味もある
  2. 過去に可決されたケース
    1. 初の可決:69条の発動(69条=内閣不信任案への対応)
    2. 吉田茂内閣(1953年):与党内の分裂による不信任
    3. 羽田孜内閣(1994年):可決ではないが退陣に至る
    4. 実は可決されたのは数回のみ
    5. 平成・令和の提出事例(否決)
  3. なぜ提出されるの?その裏にある政治戦略
    1. 「提出するだけでも意味がある」
    2. 世論喚起のツールとして
    3. 与党へのけん制・内部崩し
    4. 他の審議を止める「時間稼ぎ」的な役割
    5. 政党のスタンスを明確にするために
    6. 野党共闘の旗印として
    7. 不信任案=戦略の集合体
  4. 国民生活にどう関係する?
    1. 解散・総選挙がもたらす「政治の停滞」
    2. 総辞職がもたらす「政権の交代」
    3. 投票を通じて“私たちの意思”が問われる
    4. 国会の空転で見えなくなる“本当の議論”
    5. 無関心ではいられない時代へ
  5. よくある誤解と正しい知識
    1. 誤解1:「提出されたら内閣は辞めなきゃいけない」
    2. 誤解2:「参議院でも不信任案を出せる」
    3. 誤解3:「可決されたら自動的に総選挙になる」
    4. 誤解4:「不信任案が通れば総理が辞めさせられる」
    5. 誤解5:「与党が多数なら提出する意味はない」
    6. 誤解6:「不信任案=スキャンダル時にしか出ない」
    7. 誤解7:「不信任案は政治家同士のケンカ」
    8. 正しい知識を持つことで政治が“遠くなくなる”
    9. 興味を持つことが第一歩

内閣不信任案とは?

「内閣不信任案」とは、衆議院が内閣に対して「もう信頼できない」「政治を任せられない」と意思表示するための手段です。つまり、不信任案が可決されるということは、国会が現在の内閣の政治運営を“信用していない”と判断したことを意味します。これは日本の議会制民主主義において、きわめて重要な制度です。

憲法に定められた制度

この制度は、単なる政治的なパフォーマンスではありません。日本国憲法第69条にしっかりと規定されており、法的な強制力を持っています。具体的には、次のように書かれています。

衆議院が内閣不信任の決議をしたときは、内閣は、10日以内に衆議院が解散されない限り、総辞職をしなければならない。

つまり、衆議院で不信任案が可決されたら、内閣は「辞める」か「衆議院を解散して国民に信を問う」かのどちらかを選ばなければならないのです。どちらにせよ、政治の大きな転換点になることは間違いありません。

誰が提出できるのか?

内閣不信任案は、衆議院議員の50人以上の賛成で提出することができます(衆議院の会議規則による)。つまり、野党が協力しあえば提出すること自体はそれほど難しくはありません。ただし、提出されたからといってすぐに可決されるわけではありません。

審議ののちに採決が行われ、過半数(現在は465人中233人以上)の賛成が得られれば可決となります。ですが、現実には与党が議席の多数を占めていることが多く、不信任案が可決されることは極めてまれです。

可決されたらどうなる?

不信任案が可決されると、内閣には次の2つの選択肢があります。

  1. 内閣総辞職:総理大臣を含むすべての大臣が職を辞し、新しい内閣が組織される
  2. 衆議院の解散:解散総選挙が実施され、国民が新たな議員を選ぶことになる

どちらを選ぶかは、内閣(つまり総理大臣)の判断にゆだねられますが、多くの場合、衆議院を解散して選挙に持ち込むという選択がとられます。これは、与党が「国民の信任はまだある」と示すための賭けでもあります。

たとえば、1993年の細川内閣のように不信任案ではなく与党の分裂によって政権が倒れるケースもありますが、「不信任案の可決」は政権交代に直結する数少ない法的手段のひとつといえます。

不信任案とよく似た「信任案」

なお、内閣不信任案とは逆の意味を持つ「信任案」というものもあります。これは、内閣が自ら「この法案が通らなければ内閣総辞職する」というように、自信を持って政策を提示し、議会の信任を求めるものです。信任案が否決されると、結果的に不信任と同じ効果――つまり内閣の辞職や解散につながります。

また、参議院には「不信任決議案」は存在せず、代わりに「問責決議案」という形で内閣の責任を問うことができます。しかし、問責決議案には法的拘束力がありません。可決されたとしても、内閣が辞めなければならないというルールはなく、あくまで「政治的圧力」にとどまります。

「出すだけ」の意味もある

可決されることはまれとはいえ、不信任案が提出されるたびにニュースになります。それはなぜかというと、不信任案の提出自体に強い政治的意味があるからです。

たとえば、内閣のスキャンダル、政策への不満、予算への反対など、野党が国民にアピールしたいときに不信任案が使われます。たとえ否決されることがわかっていても、「与党にこれだけ強く異議を唱えた」という記録を残すことで、次の選挙に向けた布石となるのです。

また、ニュースで報道されれば、有権者の関心を引く効果もあります。つまり、「不信任案を出す」こと自体がひとつの政治的メッセージなのです。

過去に可決されたケース

内閣不信任案が可決される――それは、日本の政治において極めて重大な出来事です。不信任案が提出されること自体は珍しくありませんが、実際に可決されるまで至ったケースは、憲政史の中でもごくわずかです。それだけに、不信任案の可決は“政権の終わり”を象徴する特別な瞬間でもあります。

ここでは、過去に不信任案が可決された主要な事例を振り返りながら、当時の政治状況や背景を解説していきます。

初の可決:69条の発動(69条=内閣不信任案への対応)

内閣不信任案が日本で最初に可決されたのは、1948年(昭和23年)12月24日、片山哲内閣の次の芦田均内閣に対してです。

当時の芦田内閣は汚職事件(昭電疑獄)や与党内の対立などにより支持を失っていました。その結果、衆議院で野党が提出した不信任案が可決され、芦田内閣は総辞職に追い込まれます。これは戦後日本の民主主義において、国会が憲法第69条の規定を本格的に行使した最初の例でした。

吉田茂内閣(1953年):与党内の分裂による不信任

次に不信任案が可決されたのは、1953年(昭和28年)の吉田茂内閣です。

吉田首相が与党自由党内の反主流派との対立を深め、同党内からも不信任案に賛成する議員が出た結果、不信任案は可決されました。吉田首相はこれに対抗して衆議院を解散。このときの選挙は「バカヤロー解散」とも呼ばれ、今なお語り草となっています。

この事件は、「与党内の反乱」によって内閣不信任案が通る可能性もあるという事実を、国民に印象づけた重要な出来事でした。

羽田孜内閣(1994年):可決ではないが退陣に至る

実は、内閣不信任案が可決されることなく、事実上その「提出圧力」によって退陣した例もあります。

たとえば1994年の羽田孜内閣では、衆議院において不信任案の提出が現実味を帯びる中、政権維持が困難と判断され、羽田首相は不信任案採決の前に内閣総辞職を選びました。これは「不信任案が通る見込み」が政権の判断を左右した一例といえるでしょう。

実は可決されたのは数回のみ

意外に思われるかもしれませんが、戦後に内閣不信任案が正式に可決されたケースは数回しかありません。多くの場合は否決されるか、提出だけされて政治的なメッセージにとどまります。

これは、与党が衆議院で過半数の議席を握っている限り、不信任案は原則として否決される運命にあるからです。つまり、不信任案の可決は「与党内の造反」や「連立の瓦解」など、特別な状況下でしか成立しないのです。

平成・令和の提出事例(否決)

近年でも不信任案の提出は複数回行われています。たとえば:

  • 2011年(菅直人内閣):東日本大震災後の対応をめぐって提出されるが否決
  • 2012年(野田佳彦内閣):消費税増税をめぐり提出されるも否決
  • 2021年(菅義偉内閣):新型コロナ対応への批判から提出されるも否決

これらはすべて「否決」されたため、政権交代にはつながりませんでした。しかし、提出そのものがニュースで取り上げられ、国民の注目を集めることは確かです。

不信任案の歴史をひも解くと、「政治の力学」が浮かび上がってきます。政党同士の争いや、与党内の分裂、政権への不満、世論の動向など、さまざまな要因が絡み合いながら、ひとつの政権の浮き沈みが決まっていきます。

そして重要なのは、こうした歴史がすべて「国民の声」を背景に持っていることです。国会での投票の前には、必ず世論の動きがあり、支持率の低下があり、メディアやSNSでの批判がある。つまり、私たち一人ひとりの関心や声が、政治を動かす起点になるのです。

なぜ提出されるの?その裏にある政治戦略

内閣不信任案が提出されるたびに、ニュースでは大きく報じられます。「野党が内閣不信任案を提出しました」という見出しが並ぶと、「お、いよいよ内閣が倒れるのか?」と身構える方もいるかもしれません。しかし実際には、不信任案が可決されることは非常にまれです。それにもかかわらず、野党はなぜ繰り返しこの“勝ち目の薄いカード”を切るのでしょうか?

この章では、不信任案の提出が持つ政治的意味と、その背後にある戦略的な狙いについて掘り下げていきます。

「提出するだけでも意味がある」

まず知っておきたいのは、不信任案は提出された時点で政治的なインパクトを生むということです。たとえ否決されるのが前提であっても、提出そのものがニュースとなり、政権への批判や問題提起として大きな意味を持ちます。

野党は「この内閣には問題がある」「国民の信頼を失っている」と強調したいときに、不信任案という“公式な異議申し立て”を行うのです。つまり、議会の場で「正式に反対の姿勢を表明する」ことが、ひとつの目的でもあります。

世論喚起のツールとして

不信任案提出のもうひとつの狙いは、世論への訴えかけです。政治に対する国民の関心は、スキャンダルや重大政策、緊急事態のときに高まります。そうしたタイミングで野党が不信任案を提出すれば、メディアも大きく取り上げ、一般の人々に「政府の問題点」を訴える機会になります。

たとえば、内閣の支持率が下がっているときや、法案に対する強い反対意見があるとき、野党は「国民の声を代弁する存在」として、自らの存在感を高めようとします。不信任案は、その象徴的なアクションとなるのです。

与党へのけん制・内部崩し

不信任案には、与党に対するけん制効果もあります。たとえば、与党内部に政権に対する不満がくすぶっているようなとき、不信任案の提出は「分裂を促す一手」になる可能性があります。

「もし賛成すれば政権が倒れる」「反対すれば内閣支持と見なされる」――そうした状況に追い込むことで、与党議員にプレッシャーをかけ、政権内に動揺を広げることも狙えるのです。

過去には、与党内の反主流派が不信任案に同調して政権崩壊を招いた事例もありました(1953年の吉田茂内閣など)。つまり、与党の“足元”を突く戦略として、不信任案が使われることもあるのです。

他の審議を止める「時間稼ぎ」的な役割

不信任案は、単なる政治的アピールにとどまらず、国会の進行に影響を与える手段としても利用されます。たとえば、政府が重要法案を通そうとしているタイミングで不信任案を提出すれば、国会はその審議を中断し、まず不信任案を審議・採決しなければなりません。

これは、いわば「時間稼ぎ」のような戦術です。強行採決が予想されるような法案に対し、国会内で少しでも時間を引き延ばすために、不信任案が“使われる”こともあります。

もちろんそれを多用すれば「政局優先」との批判を招きますが、それでも野党にとっては、政策への反対を可視化する手段として効果的なのです。

政党のスタンスを明確にするために

不信任案の提出は、その政党がどういう立場で現政権と向き合っているかを明確にする役割も果たします。つまり、「私たちはこの政権を信任できない」という立場を公式に示すことは、党としてのメッセージの一貫性にもつながるのです。

特に、選挙前や政権に対する評価が問われる局面では、「我が党は反対姿勢を貫いています」と有権者に伝えるために、不信任案の提出はわかりやすい表現方法になります。

野党共闘の旗印として

また、複数の野党が共に不信任案を提出することで、野党連携・共闘の象徴となることもあります。たとえば、「立憲民主党」「共産党」「社民党」などが協力して不信任案を提出すれば、「反与党の連携が強まっている」と世論に印象づけられます。

それが実際の選挙協力や政権構想に結びつくとは限りませんが、少なくとも有権者に「野党も一本化して頑張っている」というイメージを持たせる効果があります。

不信任案=戦略の集合体

このように、内閣不信任案は単なる“反対表明”ではありません。むしろ、政党の戦略、世論へのアピール、与党への揺さぶり、国会運営への影響など、多層的な意味を持つ政治ツールとして使われています。

もちろん、乱発されすぎれば「またか」という印象を与え、かえって信頼を損ねるリスクもあります。だからこそ、野党もタイミングや内容には慎重にならざるを得ません。けれども、それでもなお提出され続けるのは、それだけ内閣不信任案が持つ影響力と象徴性が大きいからです。

国民生活にどう関係する?

「内閣不信任案」と聞くと、政治の話であって自分の生活とはあまり関係がないように思えるかもしれません。しかし実は、不信任案の提出や可決、さらにはその先にある衆議院の解散や内閣の総辞職は、私たちの暮らしに少なからず影響を与える出来事です。この章では、不信任案と国民生活との関係を、できるだけ具体的に見ていきましょう。

解散・総選挙がもたらす「政治の停滞」

内閣不信任案が可決されると、憲法第69条により内閣は「総辞職」するか「衆議院を解散」しなければなりません。このどちらを選んだとしても、政府の意思決定機能が一時的に弱まる「政治空白」が生じます。

たとえば、衆議院が解散された場合、選挙が終わって新しい議員が決まるまでの間、予算案や法案の審議がストップします。この間、政治の最前線では「選挙モード」に突入し、政党や政治家たちは政策よりも選挙戦略に集中することになります。

その結果として、たとえば以下のような事態が起こる可能性があります。

  • 補助金や給付金の決定が遅れる
  • 税制改正の議論がストップする
  • 物価高や災害対策など、生活に直結する政策の実行が後回しになる

つまり、不信任案をきっかけに「政治の足踏み状態」が起きることは、家計や働き方、福祉制度など、国民の生活にも連鎖的な影響を及ぼしかねないのです。

総辞職がもたらす「政権の交代」

不信任案の可決を受けて内閣が総辞職すれば、新しい総理大臣のもとで新しい内閣が組閣されます。その際、政策の方向性が大きく変わる可能性もあります。

たとえば、前の政権が進めていた消費税の増税方針が見直されたり、外交・安全保障政策が転換されたりすることもあります。また、教育無償化、少子化対策、医療制度など、私たちの生活に直結する政策が一から見直されることもあります。

これは裏を返せば、「政権交代」が起きれば、それだけ生活に変化が起こりうるということです。つまり、不信任案の提出や可決は、政策の中身を左右する契機になるのです。

投票を通じて“私たちの意思”が問われる

衆議院が解散されれば、当然ながら総選挙が行われます。このとき、主権者である国民が一票を投じることで、「この政治で良いのか」「変えたいのか」という意思を直接示すチャンスが生まれます。

不信任案の可決から選挙につながるプロセスは、憲法上、「国民に信を問う」ことが目的です。つまり、最終的な決定権は私たち国民にある、ということになります。

したがって、次のような問いを自分に投げかける必要が出てきます。

  • 今の政権を信任するかどうか?
  • どの政党に将来を託したいか?
  • 生活をよくするために、どの政策を支持するか?

こうした判断を迫られるという点でも、不信任案は私たちの生活に深く関係しているのです。

国会の空転で見えなくなる“本当の議論”

内閣不信任案が提出されると、メディアでは「政局」が大きく取り上げられます。与党・野党の駆け引き、解散総選挙の可能性、新しい首相の候補者といった話題が中心になりますが、その一方で、国民の生活に密着した重要法案や制度改革の議論が“背景”に押しやられてしまうこともあります。

たとえば、

  • 子育て支援の拡充法案
  • 高齢者介護の人材確保対策
  • 働き方改革関連法の改正案

といった、日々の暮らしに密接に関係する政策の審議が後回しになることがあります。これは、政治が「自分ごと」に見えにくくなる原因のひとつでもあります。

その意味で、不信任案は「政治の動き」そのものを注視するだけでなく、「それによって埋もれてしまった議題」にも目を向けることが求められます。

無関心ではいられない時代へ

現代の日本は、物価上昇、少子化、働き方の変化、災害の多発など、多くの社会課題を抱えています。これらに対応するための政治判断や制度改革は、すべて国会で決まります。そしてその国会の動きを大きく左右するのが、「不信任案」のような制度です。

「政治には興味がない」「よくわからないから投票に行かない」――そう思っていても、政治の決定は必ず自分の生活に跳ね返ってきます。だからこそ、不信任案をきっかけに政治に関心を持ち、投票や情報収集に参加することが、私たち自身の暮らしを守る一歩になります。

内閣不信任案は、「国会と内閣の関係」だけの話ではありません。その先にあるのは、

  • 政治の停滞
  • 政策の転換
  • 総選挙という国民参加の機会
  • 生活を左右する制度の行方

といった、私たちの日常に直結するテーマです。

だからこそ、不信任案が提出されたとき、ニュースをただ眺めるのではなく、「これは自分にどう関係するのだろう?」と立ち止まって考えることが大切です。

よくある誤解と正しい知識

「内閣不信任案」と聞くと、「それが出たら内閣はすぐに終わる」「総理大臣が辞めさせられる」といったイメージを持つ人も多いのではないでしょうか。しかし、実際にはそう単純なものではありません。ニュースやSNSなどで目にする情報だけでは、正確な仕組みや意味を誤解してしまうこともあります。

この章では、「内閣不信任案」に関して特によく見られる誤解を一つずつ整理し、正しい知識とともに解説していきます。

誤解1:「提出されたら内閣は辞めなきゃいけない」

これはよくある誤解ですが、提出=即辞任ではありません。
内閣不信任案は「提出されただけ」では何の強制力もなく、国会(衆議院)で可決されてはじめて、内閣に「総辞職」か「衆議院解散」の選択が迫られます。

提出は自由ですが、可決されなければ内閣は通常通り政務を続けられます。事実、戦後日本では不信任案の提出は何十回とありますが、可決されたのはほんの数回です。

誤解2:「参議院でも不信任案を出せる」

これも間違いです。不信任案を提出できるのは衆議院だけです。これは憲法に明記されています。参議院には「内閣不信任決議案」という制度はありません。

ただし、参議院には「問責決議案」という制度があります。これはあくまで政治的な意味合いを持つもので、法的拘束力はありません。つまり、問責決議が可決されても、内閣が辞任する義務はないのです。

一方で、衆議院での不信任案が可決された場合は、内閣は10日以内に総辞職か衆議院解散のどちらかを選ばなければならず、こちらは憲法上の義務となっています。

誤解3:「可決されたら自動的に総選挙になる」

これは半分正解で、半分は誤解です。

不信任案が可決されると、内閣は「総辞職」するか「衆議院を解散するか」の選択を迫られます。
このうち「衆議院解散」を選んだ場合には、確かに選挙が実施されますが、もう一方の選択肢である「総辞職」を選べば、選挙は行われません

たとえば、後継の内閣を与党内で調整して速やかにバトンタッチする場合や、与党に選挙を戦える体力がないときなどには、選挙を回避して政権内部での交代にとどめることもあるのです。

誤解4:「不信任案が通れば総理が辞めさせられる」

これも一部誤解です。

確かに不信任案が可決されれば、内閣は総辞職することになりますが、それは内閣全体の辞職であって、総理大臣個人だけが辞めさせられる制度ではありません

日本は議院内閣制を採用しており、内閣は「内閣総理大臣」と「その他の国務大臣」で構成されています。不信任案は、これ全体に対して「信頼していません」と意思表示するものです。

そのため、総辞職後に同じ人物が再び首班指名される(=再任される)こともありえますし、政党の内部で後継を立てて交代する場合もあります。

誤解5:「与党が多数なら提出する意味はない」

これもよく言われますが、現実には政治的意味があるからこそ提出されているのです。

第4章でも解説したように、不信任案の提出はたとえ可決されなくても、「政権に対する強い異議申し立て」としての役割を果たします。

また、提出をきっかけにメディアや国民の注目が集まり、政権に対する批判や問題提起が拡散されるという効果もあります。実際に、「野党連携の象徴」や「政策への反対姿勢の明示」として提出されるケースが多く見られます。

誤解6:「不信任案=スキャンダル時にしか出ない」

確かにスキャンダルが発覚したときに提出されることはありますが、それだけではありません。

  • 重大な政策(例:増税、原発再稼働、安全保障法案)への反対
  • 国会運営の進め方に対する抗議
  • 政策への説明不足・強行採決に対する批判
  • 災害対応やコロナ対策への不満

など、様々な理由で提出されるのが実情です。つまり、不信任案は「スキャンダル対応」というよりも、「政権の在り方そのもの」への異議として出されることが多いのです。

誤解7:「不信任案は政治家同士のケンカ」

たしかに、不信任案の提出は“政争”という側面もありますが、それだけではありません。実際には、私たちの生活に関わる政策や制度、国の進む方向を左右する大きな判断でもあるのです。

だからこそ、「また野党が騒いでいる」と片付けるのではなく、「なぜ今このタイミングで出されたのか」「どんな課題が背景にあるのか」を見極めることが大切です。

正しい知識を持つことで政治が“遠くなくなる”

内閣不信任案について正確に理解することで、ニュースや国会中継を見る目が変わります。SNSの断片的な情報に流されるのではなく、制度の意味や流れを知っていると、何が本質なのかが見えてくるようになります。

そして何よりも、「政治は誰かのもの」ではなく、「自分たちの生活を決める場」だと実感できるようになります。

興味を持つことが第一歩

「政治について知ることに意味なんてあるの?」と思う人もいるかもしれません。けれども、政治は誰かのものではなく、あなた自身の暮らしや未来に直結しています。

内閣不信任案という一つの制度をきっかけに、「政治ってこうなっているんだ」「ニュースの見方ってこうすればいいんだ」と感じてもらえたのなら、この記事の目的は十分に果たされたと言えるでしょう。

ニュースを見る目が変われば、世界の見え方も変わります。そして何より、「よくわからないから関心を持てない」から「ちょっと知ったから、もう少し知りたい」へと変わることこそが、これからの社会にとって最も大切な変化なのではないでしょうか。

「今さら聞けない」と感じていたかもしれない政治の話。でも、知るのに“遅すぎる”ことなんてありません。誰でも最初は初心者です。大事なのは、“知らないまま”にしないこと。

この記事が、あなたにとって「政治を自分のこととしてとらえる」最初の一歩になれば幸いです。
これからも、ニュースの向こう側にある「意味」を一緒に読み解いていきましょう。

参考資料
国会の権限(衆議院)

この記事を書いた人

いまさら聞けない自治体ニュースの管理人。
最近話題のニュースをアウトプットする場としてサイトを更新中。
なるべく正しい情報を届けるように心がけますが、誤った情報があればご一報ください。
本業は地方創生をメインとする会社のマーケティング担当者。

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