埼玉県川口市では、トルコから来日したクルド人住民と地域社会との間に深刻な摩擦が生じています。近年は「迷惑行為」「治安悪化」「制度の隙間」といったキーワードが飛び交い、地方都市が直面する「多文化共生」の難しさを象徴するケースとして全国的な注目を集めています。今回は、川口市で何が起きているのかを丁寧に読み解き、問題の本質をわかりやすく解説します。
クルド人とは
クルド人とは、中東に住む大きな民族集団の一つで、世界中に3,000万人以上がいるといわれています。主な居住地域は、トルコ南東部・イラン西部・イラク北部・シリア北部の4カ国にまたがる「クルディスタン」と呼ばれるエリアです。ですが、この地域は正式な国ではなく、どの国からも独立を認められていません。つまり、クルド人は「自分たちの国を持たない最大の民族」として知られています。
トルコとクルド人の関係
日本にやってきたクルド人の多くは、トルコ出身で、特にトルコ南東部から来た人たちが中心です。トルコでは長年、クルド人の言語やアイデンティティが厳しく制限されてきました。クルド語の使用が禁じられたり、「トルコ人でなければ国民ではない」という方針がとられたりするなど、文化的抑圧が続いたのです。
1980年代には「PKK(クルディスタン労働者党)」という武装組織が、トルコ政府に対し武力闘争を始めました。PKKは「クルド人の独立」を求めるグループですが、トルコ政府はこれを「テロ組織」として弾圧します。この衝突によって、多くのクルド人が「迫害されている」と感じ、国外に逃れるようになりました。
日本にやって来たクルド人の多くも、「母国での政治的迫害や社会的差別」を理由に難民申請を行っています。
日本に来たクルド人たち
日本政府の統計によると、ここ15年でトルコ国籍の難民申請者は9,700人を超えていますが、実際に認定されたのはたった1人。この数字だけを見ると、日本は「クルド人を難民としてほとんど認めていない」とも言えます。
クルド人たちは、短期ビザ(観光や親族訪問)で入国し、その後「難民申請」を行うことで、日本に長く滞在しようとします。申請中は「仮放免」と呼ばれる状態で、日本国内に住むことができるのですが、働くことも健康保険に入ることも法律上はできません。
しかし現実には、建設現場や解体業などで働くクルド人が多く、「就労禁止」と現実のギャップが問題を生んでいます。また、川口市ではクルド人同士が助け合いながら暮らしており、地域に特定のコミュニティができたことで新たな課題も生まれています。
クルド人を“偽装難民”とする声と反論
一部の政治家やメディアでは、「クルド人の多くは出稼ぎ目的の偽装難民だ」という主張も出ています。河野太郎氏は「クルド人が来るトルコ南東部には紛争も迫害も見られない」として、難民制度の悪用だと批判しています。
一方、支援団体や専門家は「そう単純な話ではない」と反論します。たとえ大規模な戦争がなくても、文化的差別・職業差別・教育差別など“構造的な迫害”がある限り、それは「難民の要件にあたる」とするのが国際的な人権感覚です。
なぜ川口市に集まるのか?
川口市は東京に近く、昔から外国人労働者を多く受け入れてきた地域です。特に建設・解体業では人手不足が深刻であり、仕事を求める外国人にとっては「働き口がある場所」でもあります。クルド人たちは既に知人がいる川口市を頼り、移住してくるのです。いわば、ネットワークが自然に形成されてきた結果なのです。
川口市で何が起きているのか
埼玉県川口市は、都心から電車で約30分というアクセスの良さと、昔ながらの職人文化が息づく街として知られています。その一方で、ここ数年は「外国人との共生」をめぐる大きな課題が表面化しています。特に注目されているのが、トルコ国籍のクルド人を中心とした外国人住民との摩擦です。これは単なる地域トラブルではなく、日本の移民政策や制度設計の穴を突くような、複雑で根深い問題を含んでいます。
クルド人による“迷惑行為”の実態
地域住民の声をたどると、問題視されているのは次のような行動です。
- 夜間、公園やコンビニ前に若者が集まり、大声を上げたり音楽を流す
- 無許可・無保険での改造車運転や暴走行為
- 路上や集合住宅前のごみ放置・不法投棄
- 店舗や地域イベントでのトラブルや威圧的なふるまい
- 事故後の「逃走」、警察や住民への非協力的態度
とくに問題が表面化したのが、2023年7月に発生した「市立病院前騒動」です。あるクルド人同士の暴力事件の被害者が搬送されたことをきっかけに、100人規模のクルド人が病院前に押し寄せ、騒然とした空気に。県警機動隊まで出動し、「クルド人コミュニティとは何か」が全国に知られるきっかけとなりました。
こうした状況は地域住民の不安を煽り、「怖くて夜に公園を通れない」「子どもや女性が危険」「警察も何もしてくれない」といった不満が日々の生活に影を落としています。
仮放免という“制度の宙ぶらりん”
こうした行動の背景にあるのが、「仮放免」という在留資格の存在です。仮放免とは、退去強制命令を受けた外国人を一時的に施設から解放し、外で生活させる制度です。多くのクルド人が、短期滞在ビザで来日したのち、難民申請を行い、申請中の身分として仮放免扱いとなっています。
仮放免者には、次のような制限があります:
- 働くことは禁止(就労許可なし)
- 健康保険に加入できない(医療費は全額自己負担)
- 移動範囲や居住地に制限がある(無断転居も不可)
しかし実態としては、建設・解体・清掃業などで「人手不足に応える労働力」として違法に就労しているケースが多く、企業側もそれを見逃してきました。ある解体業者は「クルド人がいないと現場が回らない」と打ち明けています。つまり、日本社会が暗黙のうちに“制度の矛盾”を利用してきたとも言えるのです。
川口市の限界と、国の“無対応”
川口市としても問題は認識しています。市が把握しているだけでも、900人以上のトルコ国籍の仮放免者が市内に住んでおり、その多くがクルド人と見られています。市内の学校にはクルド人児童が急増し、日本語対応や教育支援に人手が足りない状況が続いています。
さらに仮放免者は健康保険未加入のため、病院への未払い医療費が蓄積。市立病院では7400万円を超える未回収金があり、その一部は仮放免者関連と見られています。
このような実情を踏まえ、川口市は2023年に国へ異例の要望書を提出しました。その内容は次の3点です。
- 不法行為を行う外国人には法に基づく厳正な対処(強制送還など)を行うこと
- 仮放免者が最低限の生活を維持できるよう、限定的な就労許可制度を整備すること
- 医療や教育など行政サービスへのアクセス支援を国の責任で検討すること
市長は「制度が現実と合っておらず、地方自治体ではもう支えきれない」と強い不満を表明しています。
数字では減っていても…“体感治安”は悪化
警察の統計では、川口市における犯罪件数はここ10年で減少傾向にあります。窃盗、強盗、傷害といった主要犯罪も、他の埼玉県内の都市と比べて突出して多いわけではありません。つまり、データ上では「治安は改善している」とも言えるのです。
しかし、現実には「街が危なくなった」と感じている人は増えています。これは「体感治安の悪化」と呼ばれ、犯罪の有無ではなく、“犯罪が起きそうな雰囲気”によって人々の安心感が損なわれる現象です。例えば、「日本語が通じない相手が近くにいる」「騒ぎ声が聞こえる」「集団でたむろしている」といった視覚・聴覚的な刺激が不安を呼び起こします。
この体感治安の悪化は、特に高齢者・子育て世代に深刻で、「引っ越しを考えている」「夜は外に出ない」という声も増えています。住民の生活の質が下がる中で、地域社会の“信頼の土台”が崩れかけているのです。
河野太郎氏の発言
問題がさらに複雑化したのは、政治家による発言とメディア報道です。2025年5月、河野太郎衆議院議員がブログで「クルド人の多くは出稼ぎ目的の“偽装難民”であり、査証免除制度の停止が必要だ」と表明したことが大きな波紋を呼びました。
彼はトルコの一部地域には迫害の実態が見られず、「難民ではない」と主張。特定の地域出身者が集中して難民申請を行い、仮放免状態で日本に滞在している現実を“制度の悪用”と断じました。さらに、入管・警察・外務省に対し、厳格な対処を要求しました。
この発言に対し、難民支援団体は猛反発。全国難民弁護団連絡会議(全難連)は「人権無視の偏見に満ちた言説だ」と抗議文を提出し、「一部の違法行為をもって、全体を否定することは差別にあたる」と指摘しました。
一方、SNS上では「河野さんの発言は正しい」「よく言ってくれた」という支持の声も多く、ネット世論は二分されました。こうして「治安問題」はいつの間にか「外国人排斥か、多文化共生か」という政治的対立へと発展していったのです。
“丸投げ”の限界と、川口市からの異例のSOS
埼玉県川口市が2023年に政府に提出した要望書は、いわば「多文化共生政策の破綻」を訴える最後の警鐘でした。全国の自治体が“国の制度の受け皿”として外国人住民の支援に取り組む中、川口市が異例ともいえる強い口調で「国の責任」を明言した意味は重く、単なる地方行政の苦情では済まされない構造的問題をはらんでいます。
2023年9月、川口市は政府に対して次の3つの柱からなる要望書を提出しました。
- 不法行為への厳格な対処
暴走行為、無免許運転、不法就労、不法滞在などの違法行為を繰り返す外国人に対し、「共生の名の下に目をつぶる」のではなく、法に基づいた適正な措置、すなわち強制送還を含む厳格な対応を求めています。 - 仮放免者への限定的な就労許可制度
生活困窮や医療未払いの多くが「働けない仮放免制度」に由来することから、仮放免中でも条件を満たせば就労可能とする柔軟な制度設計を要望。 - 健康保険など最低限の生活インフラへの国費支援
医療費未払いや教育支援が自治体の財政を圧迫している現実を踏まえ、国として仮放免者にも必要最小限の公的支援を提供すべきと訴えました。
この要望書が異例とされるのは、地方自治体がこれほど直接的に「国の制度不備」を名指しし、かつ改善を求めた事例がほとんどないためです。
国の現行制度が抱える“ねじれ”
川口市の問題は、制度と現場の「ねじれ」を象徴しています。具体的には以下のようなギャップがあります。
項目 | 法制度上の建前 | 実際の現場 |
---|---|---|
仮放免者の位置付け | 退去強制手続き中の“例外措置” | 数年以上の定住、子育て、労働に従事するケースも |
就労 | 原則禁止 | 解体業や清掃業などで常態化(黙認状態) |
医療・福祉 | 公的支援なし | 未払い医療費や生活困窮により自治体にしわ寄せ |
教育 | 義務教育は保障 | 通訳・支援人材・教育コストが自治体負担に |
国は「仮放免者はあくまで一時的な措置」と位置づけていますが、現場では5年10年と滞在する家族も多く、生活者として地域に根付いています。この制度的な宙づり状態が、行政負担の原因であり、住民不満の火種でもあるのです。
「国が見て見ぬふりをしている」――市長の苛立ち
川口市の奥ノ木信夫市長はメディアの取材に対し、次のように述べています。
「国は仮放免者の数すら把握していない。滞在状況、生活実態、帰国の見通し、どれをとっても地方自治体に押しつけるばかりで、説明責任を果たしていない」
この言葉には、地方行政が制度の“穴埋め”として矛盾に直面し続けてきた重みがにじみます。川口市は、外国人支援において通訳体制や教育支援、日本語教室の設置など努力を重ねてきましたが、「ルールがないまま続けること」に限界が訪れているのです。
政治の動きと“対策”の中身
埼玉県川口市を中心に顕在化したクルド人問題に対し、国政レベルでも対応が始まりました。自民党は外国人政策に関する特命委員会を立ち上げ、2025年5月には石破茂首相に「第1次対策提言」を提出する方針を発表しています。提言は、今後の外国人受け入れ制度全体のあり方に大きな影響を与える可能性がある一方で、そこには「共生」と「排除」の両面がせめぎ合っています。
自民党の対策提言案
現在、自民党の特命委員会が検討している主要な項目は以下の4点です。
- 難民認定制度の厳格化と審査の迅速化
現在の日本の難民認定制度は、申請者の99%以上が不認定となっており、その一方で審査に数年を要することもあります。新制度では、早期に不認定と判断される案件には速やかな退去処分を可能にする仕組みを導入予定です。 - 「外免切替」の制限強化
外国人が自国の運転免許を日本の免許に切り替える制度が、不正利用や交通事故の温床になっているとの指摘を受け、切り替え条件の厳格化が求められています。 - 土地取得・定住制限の見直し
外国人による住宅・事業用地の取得が進む一方で、地域の不安が増していることから、定住地の集中を避ける仕組みの導入も視野に入っています。 - 仮放免者への「監理措置」の導入と在留管理の強化
仮放免中の外国人を公的な監理人の元で管理し、所在不明や違法就労を防ぐ「監理措置制度」を正式導入する方向で議論が進んでいます。
これらの対策は、いずれも「秩序の維持」「制度の悪用防止」を重視した内容で、外国人受け入れの“締め直し”とも言えるアプローチです。
河野太郎議員の影響と政治言説の重み
特に注目されたのは、河野太郎衆議院議員の発言です。彼は自身のSNSで、川口市のクルド人について「地域紛争も迫害も見られない地域からの来日者が、観光ビザを使って来日し、その後、難民を装って日本に居座っている」と記述。トルコ国籍者に対するビザ免除制度の一時停止を外務省に強く要請しています。
このような政治的発言は、世論に大きな影響を与える一方で、クルド人に対する“疑念”や“偏見”を助長する危険性も孕んでいます。事実、SNS上では「全部偽装難民だ」「強制送還すべき」といった過激な言論も目立つようになり、冷静な議論が困難になりつつあります。
難民支援団体は「国会議員の発言には重みがあり、偏見に基づいた決めつけは、無関係の在留者にも社会的リスクをもたらす」と警告を発しています。
「厳しさ」と「支援」の二面性が不可欠な理由
川口市が提案する「厳しくすべきところは厳しく、保護すべきところは保護すべき」という立場は、一見すると相反するように見えますが、実は現実的な社会運営に不可欠な視点です。
- 違法行為や制度悪用には厳格対応が必要
無免許運転、暴走、虚偽申請、違法労働――こうした行為は共生社会を破壊する要因であり、明確な罰則と執行が必要です。 - 一方で、子どもや長期滞在者の生活支援は不可避
すでに学校に通っているクルド人児童や、10年以上日本に住んでいる仮放免者が数多くいます。彼らを放置すれば、教育・医療・治安の面で「第2の社会問題」を生むだけです。
“全員を追い出す”ことも“全員を受け入れる”ことも、極端な選択です。必要なのは、ステータスや行動に応じた線引きと支援設計です。
制度の“再設計”が必要な理由
川口市の事例は、日本の外国人制度全体が抱える“中途半端”さを露呈しています。仮放免や難民申請中といった“グレーゾーン”が長期化すると、法も支援も届かず、地域に負担と不満が蓄積されます。
このねじれを解消するために、次のような再設計が求められます。
課題 | 解決策(再設計の方向) |
---|---|
難民審査の長期化 | 審査を3ヶ月以内に短縮、判定後は即時処理へ |
仮放免者の無権利状態 | 監理措置を義務化し、条件付き就労と公的支援を整備 |
支援コストの自治体集中 | 国費による財政補助と人的支援の全国配置 |
共生の理念の浸透不足 | 多文化理解の教育・対話の場づくり(共生テーブル) |
こうした制度の再構築なくして、「川口モデル」は全国に広がる負担・分断の予兆となりかねません。
政治が問われる「姿勢」と「手続きの透明性」
今後の課題は、政治が感情論や世論誘導ではなく、手続きと数値に基づいた政策決定を行うかどうかです。厳格さを打ち出すことは必要ですが、その一方でどのような支援が実行され、どのように住民の理解を得るか――このバランスを取る姿勢がなければ、政策は分断を助長するだけで終わります。
外国人問題は、決して「外国人のための政策」ではなく、地域社会全体の持続可能性に関わる政策です。だからこそ、“排除”でも“無策”でもなく、「整理と統合」をもった制度改革と市民対話が求められているのです。
川口モデルに見る全国共通課題
川口市で顕在化したクルド人問題は、決して“ローカルな特殊事例”ではありません。それは、すでに始まっている日本社会全体の構造変化の“先端的な症状”とも言えます。つまり「川口モデル」とは、これから多くの自治体が直面するであろう「移民社会の現実」に対する“試金石”であり、未来の日本の縮図なのです。
人口減少社会と外国人依存の矛盾
日本は急激な人口減少・高齢化に直面しており、都市部のみならず地方でも労働力不足が慢性化しています。介護、建設、清掃、農業といった“人が集まらない現場”では、外国人労働者の存在が不可欠になっています。
しかし一方で、日本の在留制度は「高度人材」と「研修生」「観光・短期ビザ」などを中心に設計されており、「長期的に住む外国人」を想定した社会制度にはなっていないのが現状です。仮放免や難民申請中の状態が長引くことで、「住んではいるが、保険も権利もない」という人々が地域に定着していきます。
川口市では、まさにこうした人々が「見えない存在」として生活し、就労し、子育てしながらも、制度から排除されている。その矛盾が社会的摩擦として表出しているのです。
共生政策が“教育と医療”に集約されている限界
外国人との共生は、しばしば「教育・医療・通訳の充実」といった方向に議論が集まります。実際に、川口市でも学校内の日本語支援教室や医療通訳などの制度は整備されています。
しかし本質的な課題は、「外国人に“何を教えるか”」ではなく、「地域社会がどのように制度を設計し、対等な市民として接するか」という視点にあります。現状の制度では、長く住んでも、働いても、税を払っても、外国人は“仮の存在”であり続け、住民としての権利と責任のバランスが成立していません。
川口市のように、すでに第二世代(子ども)が生まれ育っている地域において、「共生」はもはや“善意や教育”の話ではなく、社会制度としての成熟度が問われている問題なのです。
川口モデルが浮き彫りにした全国的課題
川口市の事例を全国に置き換えると、以下のような課題が見えてきます。
全国共通課題 | 川口モデルでの具体例 |
---|---|
仮放免制度の運用の曖昧さ | 就労禁止なのに建設現場で常態化 |
多文化への法的・制度的備えの欠如 | ごみ出しルール・教育・医療の制度が不十分 |
行政負担の自治体集中 | 医療未払い、教育支援、住民対応が市役所に集中 |
地域社会とのコミュニケーション不足 | 夜間騒音、集団行動が“恐怖”として誤解されやすい |
国家レベルの制度設計の不在 | 「共生」と「強制送還」の間に制度が空白 |
これらは、川口市に限らず、名古屋市、大阪市、横浜市、さらには外国人技能実習生が多い農村部などでも同様に潜在している課題です。
「対立モデル」から「再構築モデル」へ
現在の対応は、「共生か排除か」「支援か厳罰か」といった二項対立モデルに陥りがちです。しかし、実際の現場ではそのどちらでも足りません。
今、求められているのは「制度の再構築モデル」です。つまり、住民・行政・外国人・国がそれぞれの役割と責任を明確にしながら、対話と整理のプロセスを共有する枠組みです。
たとえば、次のような取り組みが有効と考えられます:
- 国による「仮放免者・難民申請者」の数と滞在実態の透明化
- 自治体に対する財政支援と人的リソースの補完(共生予算の創設)
- 外国人向けのルール教育と、地域住民への情報発信の両立
- 住民・外国人・行政による“共生ラウンドテーブル”の定期開催
- 社会統合施策(語学支援だけでなく、仕事・家族・住宅制度の整備)
こうした再構築の視点なしには、「共生」はいつまでも“理想論”で終わり、「排除」はさらなる分断を招くだけになります。
「川口の教訓」をどう全国に活かすか
川口モデルは、ある意味で日本の「移民政策の未成熟さ」と「地域行政の限界」をあぶり出したケーススタディです。今後、これを放置すれば、各地で同じような軋轢が繰り返されるでしょう。
重要なのは、川口市の“声”を一過性の地方問題として片付けず、「日本全体の制度設計の遅れ」を認め、中央と地方の協働による実効的な制度改革につなげることです。
参考資料
- 河野太郎公式X
- 本市の外国人に対する国への要望などの取り組み(川口市)
- 仮放免制度について(出入国在留管理庁)