今回は「メタボ健診後の初診料などを誤請求 国費2億円過大支払いか 検査院」という記事からメタボ検診と初診料の仕組みや誤請求となった経緯などを解説。

特定保健診査(メタボ検診)のしくみと背景
特定保健診査、いわゆる「メタボ検診」とは、生活習慣病の予防を目的に、腹囲(お腹まわり)や血圧、血糖値、脂質などを測定し、内臓脂肪がたまりやすい「メタボリックシンドローム」を早期に発見・対策するための健診制度を指します。日本では40歳以上74歳以下の方を対象に、医療保険者(国民健康保険、協会けんぽ、健康保険組合など)が毎年行うことが義務づけられています。
わかりやすく説明すると、「メタボリックシンドローム」とは、お腹周りに脂肪が多く付く「内臓脂肪型肥満」と、高血圧、糖尿病、脂質異常症などのリスクがいくつか重なって起こる状態です。放っておくと動脈硬化が進み、心臓や脳の病気(心筋梗塞、脳卒中など)が起こりやすくなる可能性があります。そこで、このメタボを早く見つけて改善してもらうために、血液検査や腹囲の測定などを行うのが特定保健診査(メタボ検診)です。
なぜ特定保健診査を行うのか?
- 生活習慣病の重症化を予防
高血圧や糖尿病などを早期に発見し、重症化を予防することで、そのあとの治療費を大きく減らす狙いがあります。 - 国民全体の健康増進
国や保険者の立場からすると、医療費の削減だけでなく、国民が元気に過ごしやすくなる社会づくりもポイントです。
検査の内容はどうなっているの?
- 腹囲測定:男性85cm以上、女性90cm以上がメタボの目安として用いられます。
- 血液検査:脂質(中性脂肪・HDL・LDL)や血糖値(空腹時血糖、HbA1cなど)をチェックして、糖尿病や脂質異常症のリスクを判定。
- 血圧測定:高血圧のリスクがないかを確認。
- 尿検査:腎機能の状態や糖の有無を確認。
- 医師の診察や問診:日頃の生活習慣(タバコ、お酒、運動、食事など)の聞き取りを行い、総合的に判定。
ここでの結果でリスクが高い人には、「特定保健指導」といわれるサポート(生活習慣の見直しなど)が提供されます。逆に、数値が基準に近い人でも、数年後には重症化しやすいこともあるため、注意喚起として「情報提供」という軽いアドバイスがなされる場合もあります。
どうして「初診料」が問題になるの?
今回のニュース報道で取り沙汰されているのが、「メタボ検診を受けた日と同じ日に、別の病気や症状で医療機関にかかり、『初診料』や『再診料』が算定されたケース」が多くあったという指摘です。通常、メタボ検診のあとすぐに治療が必要と診断された場合には、すでに問診や検査を同日に実施しているため、別途の初診料や再診料を重ねて算定するのは望ましくない、というルールになっています。
しかし、医療機関によっては、「同日の診療であっても通院目的が別」として扱い、結果的に「本来は認められない初診料や再診料」が算定されてしまったケースが散見されたようです。国や保険者の立場から見ると、本来かかるはずのない医療費が多く支払われ、結果として税金や保険料による国費が過大に支払われてしまった、という流れです。
どうしてこんなことが起こるの?
- 同日受診の判定が難しい
検診と診療が分けて行われる場合と、時間帯や医師の扱い方で、初診料の重複請求が判断しづらい場面があります。 - 医療機関ごとの解釈の違い
メタボ検診の問診や身体測定と、病気の診察用の問診が「同じかどうか」で見解が分かれ、結果的に初診料を算定していたりします。
こうした背景から、「初診料」に関する誤請求問題が注目を集めているわけです。市民にとっては、一部負担金が高くなる可能性や、保険者負担が増えることで将来的に保険料が上がるかもしれないなど、実は見過ごせない影響があるテーマといえます。
診療報酬と「初診料」の仕組み
続いて、「初診料」や「再診料」といった診療報酬の仕組みについて、簡単に解説します。診療報酬とは、医療機関が治療や検査などの医療行為を行った際に、公的保険(健康保険)から支払われる報酬のことです。患者さん側で支払う「窓口負担」の残り分を含め、合計が医療機関に支払われるわけです。
初診料とは?
- 患者さんが「その医療機関を初めて受診する」または「前回の受診から一定期間が空いていて、改めて初診扱いとする」際にかかる費用です。
- 医師が患者さんの情報(病状や症状)を初めて整理するために必要な事務手続きや問診などが含まれます。
再診料とは?
- 一度目の受診から引き続き、翌日や翌週など、定期的に病気やケガの治療を受ける際に算定される費用です。
- 診療継続中に検査や薬の処方を受けるとき、毎回かかる費用と言えます。
今回問題視されているケース
- 特定保健診査当日に、別の病気で診察を受けた
メタボ検診の問診や検査は、通常の診療とは独立した健康チェックとして位置づけられます。しかし、同じ日に「風邪」や「腰痛」など、別の症状で受診したときに「初診料」や「再診料」がまるごと算定されていると、メタボ検診の問診と重複する部分があるにもかかわらず、二重取りとなる恐れがあるのです。 - 本来請求できないはずの部分にまで請求が生じる
厚生労働省は、「メタボ検診の結果、治療が必要となった場合は、初診の問診などが重複しているので、診察料は算定できるが初診料自体は受けられない」としており、本来は別に初診料をつけてはいけないことになっています。
なぜ誤請求が広がった?
- ルールの認識不足
同日にメタボ検診と通常診療を行った場合の算定ルールが十分に周知されず、医療機関側が従来と同じ感覚で初診料を算定してしまうことが考えられます。 - 事務手続きの煩雑さ
検診と診療では、記録や事務処理が異なることもあり、健診後に「実際は治療が要る」とすぐ判断した際に、別レセプトで初診料が付いてしまうなどのパターンが多かったのかもしれません。 - 意図的な不正請求ではなくとも曖昧になりやすい
ほんの些細な違いで「検診」から「診療」に切り替わる瞬間があり、その境界が十分明示されなければ、医療機関がまとめて算定してしまうケースが自然発生しがちです。
検査院の調査結果
報道によると、会計検査院が調べた範囲で「約9割の医療機関がメタボ検診と同日に初診料を算定」していた事例が見つかったとのこと。国が負担する補助金が2022年度で2億円ほど余計に支払われた可能性が指摘されています。
ここで気をつけたいのは、国民が「悪徳医療機関に騙された」という単純な話ではなく、医療機関側でもルール解釈に戸惑っている部分があるということです。医師会などの側からは「問診の内容は全く別」「治療のための診察も独立して時間をかけている」という意見もあり、一概に「二重請求だ」と決めつけられない状況にあるのも事実です。
それでも、国としては「重複している部分があるのに、まるまる初診料が加算されているのはおかしい」という立場から改善を求めており、実際に補助金や診療報酬の返還請求など、何らかの対応が取られる可能性が高いといわれています。
今回の問題点とその影響
今回取りざたされている「メタボ検診と初診料」の問題には、いくつかの課題が指摘されています。ここでは主な問題点と、それがどのような影響を及ぼすのかを整理しましょう。
国民の負担増につながる恐れ
医療費は、保険料と税金でまかなわれています。
- 不必要な初診料・再診料が上乗せされる → 保険者(協会けんぽや健保組合、市町村国保など)の支払が増える → いずれ保険料率の上昇や税負担が増えるリスクがあります。
- 個人が支払う自己負担分(3割負担など)が高くなる可能性もあり、受診者の側としては「検診日に診療を受けたら費用が余計にかかった」という事態になりかねません。
医療機関における運用ルールの統一が不十分
- メタボ検診当日の問診と、同日の診療での問診をどこまで“同一”とみなすかの基準があいまい。
- 病院によっては「検診で得られる情報は参考程度で、治療には別途詳しい問診が必要」と考えるところもあれば、「検診の問診で十分」という場合もあります。
- このルールや認識の違いから、結果的に誤請求や二重算定につながったのではないかとみられます。
現場の負担が重い
- 医療現場では、保険請求の事務処理がかなり複雑で、検診と外来診療の事務を分けるだけでも手間がかかります。
- もし厳密に区分するために事務処理を増やすと、現場のスタッフに大きな負担がかかる一方、厳密にしないとルール違反になりかねないというジレンマが生じています。
住民や患者の混乱
- 中には「同じ日に検診と診察ができるなら、時間が省けて助かる」と思う人もいますが、「初診料が余計にかかるなら日にちを変えたほうがいいかも?」と混乱を招くこともありえます。
- 「メタボ検診と診察は別個の扱い」と説明されても、患者さんからすれば「いっぺんに見てくれたらいいのに」と感じる場合も多いでしょう。
今後どんな影響がある?
- 医療保険者による過去請求の見直し
一部の保険者が「過大請求された分」の返還を求める動きが出る可能性があります。医療機関側がすぐに対応できるかどうかは未知数です。 - 診療報酬の取り扱いガイドラインの強化
厚生労働省から、より具体的な算定ルールが示される可能性があります。メタボ検診後にすぐ診療が必要になった場合は、どう算定すべきか、さらにわかりやすい基準がつくられるかもしれません。 - 受診者が日にちを分ける動き
病院が「同日には診察を受けられません」と対応を厳格化する動きが増えるかもしれません。これによって、受診者の手間が逆に増える懸念もあります。
いずれにせよ、今回の件は「メタボ検診」という仕組みが定着しつつある中で、診療と検診の境目が曖昧になりがちな実情が浮き彫りになった事例といえます。中学生レベルで見ても、「検診」と「治療」は別物として扱われ、医療費の計算がそれぞれ異なる仕組みを持っている、というポイントが大切です。
今後の在り方とまとめ
最後に、「メタボ検診」と「初診料」の問題を契機に、今後どのような対策や改善が考えられるのかを展望し、まとめます。市民や患者さんの負担を軽くしつつ、医療機関が不必要な誤請求をしないようにするために、いろいろなアイデアが議論されています。
より明確なルールづくり
- 算定基準の詳細な周知
これまでも規定はありましたが、解釈の幅が生じやすかったのも事実です。「メタボ健診と同日の診療には◯◯の手続きが必要」「問診重複をどう扱うか」など、さらに踏み込んだガイドラインが必要でしょう。 - 研修やガイドブック
医師だけでなく、事務スタッフ向けにも「事務処理のフローチャート」がわかりやすく示されれば、ルールに沿った正確な請求がしやすくなります。
IT化・オンライン化の推進
- 電子カルテと検診結果の連動
メタボ検診で得たデータ(腹囲、血圧、血糖値など)を電子カルテに自動で取り込み、同時に「初診料は算定不可」という注意喚起が表示されるシステムを導入すれば、二重請求を減らせる可能性があります。 - オンライン診療との接続
メタボ検診を受けて「数値が高いから受診をすすめます」と言われた場合、オンライン診療でフォローできる仕組みがあれば、受診者の時間的な負担が下がり、医師側も記録が一元管理しやすくなる利点があります。
患者の理解を深める工夫
- 同日受診は本当にお得?
もし、メタボ検診と診療を同日に行うことで初診料が正当に算定されないなら、二重請求のリスクがなくなる代わりに、別の日に受診するとかえって移動回数が増えるなど、一長一短があります。患者の選択肢としてメリット・デメリットをわかりやすく示すアナウンスが必要です。 - 公的啓発活動の強化
「メタボ検診を受けると、自分の健康を守れる上に、医療費の増加を抑えられる」という観点を、さらに広く発信していくことで、健診の受診率アップと誤請求の減少につなげる動きが期待できます。
制度全体の見直しの可能性
- 後期高齢者や75歳以上の健診との違い
メタボ検診は40~74歳を対象としていますが、75歳以上の健診は別途で行われます。こうした制度区分の煩雑さも含め、「同日に診療を受けたらどうするのか」というルールは高齢者向け健診などでも似た議論を呼びそうです。 - 重症化予防とのバランス
本当に治療が必要なのに、「初診料がどうなるかわからないから病院に行きづらい」となっては本末転倒です。重症化予防のためにも、ルールを徹底しつつ、患者さんの受診が遠のかない制度設計が大事です。
まとめ
「メタボ検診」は、日本の医療費の適正化と国民の健康増進を目指す大切な取り組みです。一方で、検診と治療の境界が不明瞭になりやすく、初診料などの診療報酬の取り扱いがあいまいになるケースがあるとわかりました。
今後、初診料の誤算定問題への対応としては、
- 国や保険者によるルールの再整理・周知徹底
- 医療現場での事務システムやIT支援の充実
- 患者側に対して、同日受診のメリット・デメリットを周知
などが期待されます。わかりやすくまとめると「検診はあなたの将来の健康を守るために大事なチャンス。でも同じ日に診療も受けると、ルール上、変にお金がかかるかもしれない。医療機関や国がルールをきちんと守ってくれれば安心だから、そのしくみ作りが急務だね」ということになるでしょう。
参考資料
- 特定健診・保健指導について(厚生労働省)
- 特定健康診査・特定保健指導に関するQ&A集(厚生労働省)