車検制度変更の背景と概要
車検制度とは何か
車検(自動車検査)とは、クルマが道路を走るうえで安全性や環境性能などの基準を満たしているかを定期的に国がチェックする仕組みです。普通乗用車の場合、新車購入から最初の車検までは3年、その後は2年ごとに受ける必要があります。軽自動車も同様に2年ごと(新車は初回のみ3年)というサイクルが一般的です。
この車検には「車検証の有効期間」があり、通常は満了日の1か月前から車検を受けても、次回車検までの有効期間が損なわれないという扱いになっていました。しかし、2025年4月(令和7年4月)からは、その「1か月前」という期間が「2か月前」に拡大されることになりました。
なぜ変更されるのか
国土交通省によれば、毎年3月の年度末には車検が集中する傾向があります。これは「社用車や公用車の多くが3月末で決算を迎える企業によって新車登録が増える」「個人ユーザーも4月の自動車税を避けるために車検や買い替えを3月中に済ませる」などの要因が重なっているからです。
この集中により、整備工場やディーラーは予約がいっぱいとなり、利用者も思うように車検の予約が取れず、“車検切れ寸前”になる場合も出てくるほか、整備士の残業や休日出勤の増加といった問題も深刻化してきました。
そうした状況を緩和するため、国土交通省は道路運送車両法施行規則などを改正し、「2か月前でも車検を受けても次の車検期限が変わらない」という方式に変えることを決定しました。言いかえると、たとえば有効期間が6月1日までの車両なら、4月1日以降に受検しても次回の車検期限は6月1日のまま、2年間有効となるわけです。
変更の正式な施行日
この改正施行日は2025年(令和7年)4月1日からとされており、それ以前に受ける車検については、従来どおり「1か月前」ルールとなります。ただし、離島など一部特例的に「2か月前」が適用されていた地域には変更がありません。今回の改正で、その特例が全国一律になるというイメージです。
車検期間延長の詳細と注意点
2か月前でも「早く受けるほど損」はないの?
今回の改正点で一番重要なのは、「車検証の残存期間が切り捨てられない」ことです。従来、1か月より前に車検を受けると、その時点で新たに2年間の有効期間がスタートしてしまい、“残りの期間”が無駄になる=早く受けすぎると損をする仕組みでした。
しかし、2025年4月1日からは「2か月前」に拡張されます。たとえば満了日が6月30日なら、4月30日以降に受けても次の車検満了日は6月30日と変わらないのです。
もし4月20日に受けてしまうとどうなるか? その場合は改正後もまだ1か月以上前ということで、“損をしてしまう”扱いになります。よって、“2か月と1日”前だと有効期限が繰り上がってしまう点に注意しましょう。
2025年3月中に受けるとどうなる?
注意したいのが、2025年3月がまさに施行日前の過渡期に当たることです。改正の適用開始は4月1日からですので、3月中はまだ従来のルールが適用されます。そのため、3月30日や3月31日に車検を受けても、「2か月前」ルールは使えません。
具体例を挙げると、有効期限が5月15日までの車の車検を3月31日に受けてしまうと、次回満了日は2年後の3月30日となり、残りの期間が短縮されてしまいます。一方、4月1日以降であれば、次回満了日はきちんと2年後の5月15日のままなので、損をしないことになります。
なぜ年度末の3月が混むのか
先ほども述べたとおり、多くの法人は3月が決算期です。経費計上の都合から3月中に車検や買い替えを行うケースが多くなります。個人ユーザーにおいても「4月1日の時点で所有しているクルマに自動車税が課税される」という制度の影響を受け、「それなら3月中に手放そう」あるいは「3月中に車検を通そう」という意識が働くわけです。
このように3月に車検や新規登録が集中することで整備工場・ディーラーが大混雑し、当事者にとっても余計な負担となることが問題視されていました。それを解消する狙いが今回の改正にはあるのです。
予約は早めに! 2か月前OKでも“駆け込み”は要注意
車検期間が2か月前に拡大されても、実際の予約は早めに取るほうが良いです。混み合う時期はどうしても集中する可能性はありますし、2か月に拡大されたからといって、1か月前ギリギリで急に申し込む人が大幅に減るとも限りません。
利用者としては、早めに整備工場やディーラーに相談し、余裕を持って車検と整備点検を進めることが大切です。
自賠責保険や費用面はどうなるのか
自賠責保険(強制保険)の取り扱い
車検を受ける際は、自賠責保険にも加入している必要があります。通常、車検の有効期間に合わせて24か月分(2年)の自賠責保険に加入するのが一般的です。現在も自賠責には1か月ごとの契約プラン(最長37か月、最短1か月など)があり、車検期間に合わせて保険期間を調整しています。
今回の制度変更で、車検の「損なし期間」が1か月から2か月に延びることで、自賠責保険も同様に“2か月前からのフライング車検”に対応できるよう政省令が改正されます。
たとえば2か月前に車検を受けた場合でも、しっかり自賠責の残り期間を考慮して契約・更新できます。もし使わない期間が生じても、古い自賠責を中途解約して余剰分を返してもらうことも可能です。
“損しない”保険料の計算
自賠責保険は、月単位で掛け金が設定されています。契約開始日からどれだけ残り期間があるかによって調整されるのですが、1か月単位で計算するため、数日単位での調整は行われません。たとえば2日分の残りがあっても、1か月未満は切り捨てになるケースがある点に注意です。
2か月前から車検を受ける場合、仮に既存の自賠責が1か月以上残っていたとしても、契約の入れ替え(重複)によって無駄が出ないようにするため、解約時期や更新時期をしっかり整備工場や保険代理店と相談すると良いでしょう。
車検費用は安くなる? 高くなる?
今回の改正によって「車検費用が大きく変わる」ということはありません。車検基本料や**法定費用(重量税・印紙代・自賠責保険料)は従来どおりであり、期間が伸びたからといって値上がりするわけではないです。
むしろ、車検の集中が緩和されて各整備工場の負担が分散されることで、工場によっては“余裕を持って整備できる”**結果としてサービス内容が良くなったり、車検費用の割引キャンペーンなどが出てくる可能性も考えられます。
任意保険との関係は?
任意保険に関しては、とくに「車検の有効期限」と直接連動しているわけではありません。しかし、車検期間に合わせて任意保険の更新も同時に行うケースが多いのは事実です。
なぜなら、車検と同時期に保険の更新をすれば、「ついで」に見直しができて便利だからです。今回2か月前から車検を受けられるようになったことで、任意保険の更新も従来より余裕を持ってチェックできるでしょう。万が一の保険切れを防ぐためにも、早めの更新手続きをおすすめします。
改正のメリット
変更によるメリットと想定される効果
- 予約が取りやすくなる
2か月前から車検を受けられることで、年度末(3月)にどうしても集中しがちだった車検の分散が見込まれます。3月に予約が取りづらいからといって慌てる必要がなくなり、もう少し早い時期(2月や1月下旬など)に受検できるようになる可能性があります。 - 整備士・ディーラーの負担軽減
3月に集中していた車検を2月や1月にも分散して行えるようになるため、整備士やスタッフの過重労働を減らし、サービス品質の向上や労働環境の改善が期待されます。 - 車検切れリスクの低減
「忙しくて、つい1か月前に予約し忘れたらもう間に合わない!」というケースが減るかもしれません。あらかじめ2か月前から準備できるので、車検切れを起こす危険性が低くなるでしょう。
実際に“得”になるケースとしては、「車検の予約を早めにできる」「修理などが必要な場合でもゆったり日程を組める」という精神的・時間的余裕が大きいです。費用面で言えば、工場の混雑が緩和され、割引キャンペーンや追加サービスが導入されれば、結果的に車検費用が下がることもあるかもしれません。
また、2か月前から受けられるようになったことで、「2か月近く前倒ししても満了日が変わらない=有効期間が損にならない」のは金銭的にもおトク感があるでしょう。例えばゴールデンウィークや大型連休前に車検を通しておけば、レジャーシーズンに安心してクルマを使えるメリットも考えられます。
改正に備えての具体的なアクション
- 車検証の有効期限をチェック
いつが満了日なのかを再確認し、2か月前時点がいつなのかを把握しておきましょう。 - 早めに整備工場や販売店へ連絡
2か月前OKになっても、急に皆が2か月前から動くとは限りません。結局、3月直前などは今後もしばらく混雑する可能性があるので、電話やネットで早めに予約するのが賢明です。 - 自賠責・任意保険の更新時期も要チェック
車検時期に合わせて保険契約を見直すのがスムーズです。古い保険の残り期間を上手に調整し、無駄のない契約プランを選択しましょう。
まとめ
今回の法改正である「車検を2か月前からでも損なく受けられるようにする」という措置は、利用者にとっても整備業界にとってもメリットが大きいと考えられます。
ただし、2025年3月までは従来ルールのままなので、もし2025年の初春あたりに車検が切れる方は、改正施行日(4月1日)まで待つかどうかを検討してみてください。もしギリギリまで待てるようなら、4月1日以降に受検すれば有効期間がきちんと保持されます。
最終的な“答え”としては、「自分の車検満了日を確認し、2か月前に余裕を持って予約・受検する」ことが最も賢いやり方でしょう。年度末の混雑を避けて、より快適に車検を受けられるチャンスです。もしわからない点や保険との兼ね合いを知りたい場合は、早めに整備工場や保険代理店へ相談してみるのが安心です。