性犯罪歴の確認が義務化?日本版DBSのしくみと問題点をやさしく解説

性犯罪歴の確認が義務化?日本版DBSのしくみと問題点をやさしく解説 政府

2026年度から、日本でも「性犯罪歴の確認」が一部の仕事で義務化されるのをご存じですか?
この制度は「日本版DBS(ディービーエス)」と呼ばれ、子どもに接する仕事に就く人が過去に性犯罪をしていないかを国が確認する仕組みです。イギリスで先行して導入されていた制度を参考に、日本でも導入が決まりました。

この記事では、日本版DBSのしくみや対象となる施設・職種、確認の手順、そして制度が抱える課題や今後の展望について、やさしく、わかりやすく解説します。

  1. 日本版DBSとは何か?
    1. なぜ「DBS」という名前?
    2. 日本版DBSのしくみ(イメージ)
    3. どんな人が対象になるの?
    4. 制度の目的は「子どもの安心・安全」
  2. なぜ今、日本版DBSが必要なのか
    1. 子どもへの性犯罪が増えている
      1. 性犯罪被害者の年齢層別割合(2022年 内閣府調査)
      2. 【図解】子どもを狙う性犯罪が増加している背景
    2. 教育・保育現場には“加害が起きやすい環境”がある
      1. 子ども関連施設の3つのリスク
    3. これまでの制度では守りきれなかった
    4. なぜ今、日本版DBSが必要なのか
  3. 日本版DBSの対象と仕組み
    1. どんな事業者が対象になるの?
      1. 日本版DBSの対象事業者の種類と違い
    2. 照会の対象になるのは“どんな人”?
      1. 性犯罪歴を照会すべき対象者のイメージ
    3. どんな性犯罪がチェックされるの?
      1. 照会の対象となる主な犯罪
    4. 犯罪歴はどれくらい前までさかのぼるの?
      1. 性犯罪歴の照会期間
    5. 何度もチェックするの?
    6. 対象と仕組みのポイント
  4. 性犯罪歴の確認方法と具体的な手続き
    1. 性犯罪歴が“ある場合”の特別な配慮
    2. 事業者が注意すべき点
      1. 事業者に課される主な義務
    3. 証明書をどう扱えばいい?
    4. 本人の人権にも配慮された制度
    5. 手続きのポイント
  5. どんな施設が対象?具体例で見る日本版DBSの範囲
    1. すべての施設が対象ではない
      1. 施設ごとの制度適用区分
    2. 義務対象施設とは?
    3. 認定対象施設とは?
    4. 対象外の施設はどうなる?
    5. 施設の対象範囲まとめ
    6. なぜすべての施設を対象にしないの?
    7. 施設の対象範囲の要点
  6. 日本版DBSとSDGsの関係
    1. SDGsとは?
    2. 目標4「質の高い教育をみんなに」との関係
      1. 【目標4の内容】
      2. 【なぜDBSと関係あるの?】
    3. 目標5「ジェンダー平等を実現しよう」との関係
      1. 【目標5の内容】
      2. 【性犯罪とジェンダーの関係】
    4. 間接的に関係する目標
    5. DBSは「未来を守る」ための制度
  7. 日本版DBSの問題点と懸念される課題
    1. プライバシー情報の適切な管理ができるか?
      1. プライバシー保護上の主な懸念
    2. “現職者”に前科があったらどうするの?
      1. 【想定されるケースと問題点】
    3. 対象事業者・対象犯罪の線引きがあいまい
      1. 【例】線引きが難しいケース
    4. 制度の運用は「慎重さ」と「柔軟さ」がカギ
  8. 日本版DBS導入までのスケジュールと今後の展望
    1. 導入までの経緯:主な出来事の時系列まとめ
      1. 日本版DBSの導入スケジュール
    2. 施行までに整備されるべきこと
      1. 施行までに必要な準備項目
    3. 今後の展望と課題
      1. 【今後の注目ポイント】
    4. 「制度はできた」だけでは不十分
    5. 導入はスタート地点、未来の社会をどう育てるかが問われる

日本版DBSとは何か?

「日本版DBS」とは、子どもと関わる仕事に就く人が過去に性犯罪をしていないかどうかを確認するための制度です。正式な名前は少し長くて、「こども性暴力防止法(学校設置者等及び民間教育保育等事業者による児童対象性暴力等の防止等のための措置に関する法律)」といいます。

この制度は2024年6月に国会で可決・成立し、2026年度中の施行を目指して準備が進められています。子どもを性犯罪から守るために、国が新しく設けたしくみです。

なぜ「DBS」という名前?

「DBS」とは、イギリスで使われている制度の名前「Disclosure and Barring Service(ディスクロージャー・アンド・バリング・サービス)」の略です。これは、日本語でいうと「犯罪歴の開示と就業制限のサービス」という意味で、子どもや弱い立場の人を守るために導入されています。

つまり、日本版DBSはこのイギリスの制度をモデルにしてつくられたため、「日本版DBS」と呼ばれているのです。

日本版DBSのしくみ(イメージ)

以下は、日本版DBSの仕組みを表したものです。


① 採用予定の人に性犯罪歴がないか確認したい
  → 事業者が「こども家庭庁」に申請

           ▼

② 本人が必要書類を提出 (戸籍情報など)

           ▼

③ こども家庭庁が法務省の犯罪歴を照会

           ▼

④ 性犯罪歴がなければ「確認書」交付

           ▼

⑤ 性犯罪歴がある場合は、まず本人に通知

このように、本人のプライバシーに配慮しながらも、性犯罪の再発を防ぐための対策として制度が組まれています。

どんな人が対象になるの?

日本版DBSの対象になるのは、主に子どもと関わる仕事をする人たちです。たとえば、以下のような職業があてはまります。

対象になる人の例説明
教師学校の先生。小学校〜高校まで対象になります。
保育士保育園や幼稚園で子どもを預かる人たち。
学習塾の講師(認定施設)民間の塾で子どもを教える先生(認定を受けた事業者のみ)
スポーツクラブの指導者(認定)サッカーや水泳などを教えるコーチ(一定条件を満たす場合)

この制度によって、過去に性犯罪をおこなった人が子どもと関わる仕事に就くのを防ぐことができます。

制度の目的は「子どもの安心・安全」

子どもにとって学校や保育園、塾などは、毎日通う大切な場所です。でもその場所で、もし先生やコーチが性犯罪をしてしまったら、子どもたちの心と体は深く傷ついてしまいます。

日本版DBSは、こうした最悪の事態を未然に防ぐための制度です。国が責任をもって「この人は過去に性犯罪をしていない」ということを確認することで、親も子どもも安心して過ごせる環境をつくることができます。

なぜ今、日本版DBSが必要なのか

子どもと関わる大人による性犯罪は、決して珍しい話ではありません。ニュースでも「教師が児童にわいせつ行為」「塾講師が盗撮」といった事件がたびたび報じられています。

こうした背景のもと、「子どもを性犯罪から守る」ために、日本でもDBS制度の必要性が強く求められるようになりました。

子どもへの性犯罪が増えている

最近の調査によれば、子どもや若者が性暴力の被害にあうケースが年々増えています。

性犯罪被害者の年齢層別割合(2022年 内閣府調査)

年齢層割合
0〜12歳13.1%
13〜19歳28.6%
20〜29歳39.1%
30歳以上19.3%

とくに10代や20代の若者が被害者になるケースが全体の約7割を占めています。さらに、0〜12歳の子どもも1割以上と、深刻な状況です。

【図解】子どもを狙う性犯罪が増加している背景

+-----------------------------+
| 性犯罪の認知件数が増加中 |→ 子どもや若者が狙われている
+-----------------------------+
       ↓
+-----------------------------+
| 学校や保育所などの現場で |→ 教員・保育士による加害も発生
| 加害事例が相次いでいる |
+-----------------------------+
       ↓
+-----------------------------+
| 再犯率も高いというデータ |→ 一度やった人が再び狙うおそれ
+-----------------------------+

つまり、「一度でも性犯罪をしたことがある人」が教育・保育の現場に戻ってしまうと、再び子どもが被害にあうおそれが高いのです。

教育・保育現場には“加害が起きやすい環境”がある

性犯罪は、ただ起きるのではなく、“起きやすい場所”で起こるとも言われます。特に、子どもに関わる現場には以下の3つの特徴があり、性加害の温床になりやすいとされています。

子ども関連施設の3つのリスク

特徴内容
支配性教員や保育士は子どもより強い立場にあり、命令や指示ができる関係にある
継続性毎日接して深い信頼関係ができやすい
閉鎖性教室や保育室など、外から見えない場所で活動することが多く、第三者の目が届きにくい

これらの環境は、加害者にとって「見つかりにくく、やりやすい」条件がそろってしまうことになります。

これまでの制度では守りきれなかった

実は過去にも、教員や保育士による性犯罪を防ぐ制度は少しずつ整備されてきました。

  • 教員 → 性犯罪で免許失効、採用時にチェックできる
  • 保育士 → 同様に登録取り消し制度あり

しかし、前提となるのは「免許が失効していること」。つまり、以下のようなケースではチェックできません。

☓ 教員免許が失効していない
☓ 保育士登録が残っている
☓ 学習塾や認可外施設など、制度の対象外

これでは、過去に性犯罪をしていても、見逃して採用される可能性があるのです。

なぜ今、日本版DBSが必要なのか

  • 子どもへの性犯罪が増加している
  • 教育・保育の現場には加害が起こりやすい要素がある
  • 既存の制度ではカバーしきれない

このような課題を受けて、「制度として性犯罪歴をチェックする仕組みをつくる」ことが、日本版DBSの目的です。子どもが安心して過ごせる環境をつくるための大きな一歩だといえるでしょう。

日本版DBSの対象と仕組み

日本版DBSは、「子どもと関わる仕事」に就く人を対象に、性犯罪歴の有無を確認することを事業者に義務づける制度です。ただし、すべての事業者が一律で対象になるわけではありません。制度の運用には、「義務対象」と「認定対象」の2つの枠組みがあります。

どんな事業者が対象になるの?

まず、下記のように事業者のタイプで対応が分かれます。

日本版DBSの対象事業者の種類と違い

対象区分内容具体的な施設例
義務対象法律により、犯罪歴の確認が必須となる事業者学校、幼稚園、認可保育所、児童養護施設など
認定対象一定の条件を満たし、認定を受けた場合のみ対象学習塾、スイミングスクール、学童クラブ、ダンス教室など
対象外現時点では制度の対象外となっている事業者家庭教師、個人ベビーシッター、医療機関など

つまり、「公的に認可された施設」は義務、「民間運営の施設」は条件付き、「完全な個人営業」は対象外という整理になっています。

照会の対象になるのは“どんな人”?

日本版DBSでは、新しく採用する人だけでなく、すでに働いている人も対象になります。しかも、正社員だけでなく、派遣社員、業務委託、ボランティアも対象です。

性犯罪歴を照会すべき対象者のイメージ

子どもと接する仕事をする人
 ├── 正社員(教師、保育士など)
 ├── アルバイト(塾講師、学童スタッフなど)
 ├── 派遣スタッフ
 ├── 業務委託(外部講師、清掃員など)
 └── ボランティア(地域の読み聞かせ、部活のコーチなど)

対象者は「接する頻度」や「業務の内容」ではなく、“子どもに接する可能性があるかどうか”で判断されます。

どんな性犯罪がチェックされるの?

対象となるのは、次のような重大な性犯罪や条例違反です。

照会の対象となる主な犯罪

犯罪名内容
強制性交罪暴力や脅しによって性交を強制する行為
不同意性交罪同意のない性交(暴力がなくても)
強制わいせつ罪無理やりわいせつな行為をすること
迷惑防止条例違反痴漢や盗撮などの行為

一方で、下着の窃盗やストーカー行為などは、性暴力と直接関係しないと判断され、今のところ対象外となっています。

犯罪歴はどれくらい前までさかのぼるの?

犯罪歴の確認は、「どれだけ昔の犯罪でも無制限に調べられる」わけではありません。刑罰の種類によって、照会できる年数が決まっています。

性犯罪歴の照会期間

判決内容照会できる期間
実刑(懲役など)刑の終了から20年間
執行猶予付き判決判決が確定してから10年間
罰金刑罰金を払ったあと10年間

この期間は、通常の「刑の消滅(前科が帳消しになる期間)」よりも長く設定されています。これは、子どもへの悪影響を防ぐために、より慎重な対応が求められているからです。

何度もチェックするの?

はい、一度調べて終わりではありません。日本版DBSでは、5年ごとに再度照会を行うことが義務づけられています。たとえば、ある先生が5年前に調査を受けた場合、次は5年後にまた確認されます。

対象と仕組みのポイント

  • 対象事業者は「義務」「認定」「対象外」に分かれる
  • 子どもに関わる全ての立場の人が対象(正規・非正規問わず)
  • 性犯罪の前科が一定期間チェックされる(最長20年)
  • 情報は厳密に扱われ、漏えいには罰則あり

性犯罪歴の確認方法と具体的な手続き

日本版DBSでは、子どもに関わる仕事に就こうとする人が「過去に性犯罪をしていないか」を、国(こども家庭庁)が確認する仕組みになっています。

この手続きには、事業者(会社など)と本人、そして国の機関が関わります。プライバシーを守りながらも、しっかりと子どもの安全を確保できるように工夫されています。

性犯罪歴が“ある場合”の特別な配慮

日本版DBSでは、もし対象者に性犯罪歴があったとしても、すぐに事業者へ結果が伝わることはありません。

まずは「本人にだけ通知」が届きます。そして本人には、以下の選択肢が与えられます。

  • 結果に誤りがある場合:2週間以内に訂正を請求
  • 内定を辞退する or 退職する:事業者には結果が知らされない

このしくみによって、プライバシーを守りながら本人の意思を尊重することが可能となっています。

事業者が注意すべき点

性犯罪歴の確認を受けた事業者には、以下のような義務が課されます。

事業者に課される主な義務

義務内容詳細説明
確認記録の帳簿作成・保管誰をいつ確認したかを記録に残し、厳重に管理しなければならない
定期的な再確認(5年ごと)最初だけでなく、継続的に確認を行うことが必要
情報の漏えい禁止犯罪歴の情報を他人に漏らすと、法的に罰則を受ける可能性がある
性犯罪歴が確認された場合の対応配置転換、業務変更、または解雇など、子どもと接触させないための措置を講じる義務がある

証明書をどう扱えばいい?

こども家庭庁から交付される「犯罪事実確認書」は、性犯罪歴が“ない”という証明です。これは事業者の判断材料であり、採用の可否を決める権利は事業者側にあります

たとえば、

  • 確認書あり → 採用OK
  • 確認書が交付されない → 採用見送り

といった対応になります。

本人の人権にも配慮された制度

この制度では、「子どもを守る」という目的が最優先されますが、同時に、対象者本人の人権にも十分な配慮がされています。

  • 情報は外部に漏れない
  • 誤情報の訂正が可能
  • 結果を知られずに辞退する道がある

このように、日本版DBSは単なる「ふるい落とし」の制度ではなく、公平性とプライバシー保護のバランスを取った制度設計になっているのです。

手続きのポイント

  • 確認は「事業者 → 本人 → こども家庭庁 → 法務省」の流れで行う
  • 性犯罪歴がある場合は、本人に通知 → 訂正・辞退が可能
  • 情報漏えいには厳しい罰則あり
  • 再確認は5年ごと、現職者も確認対象になる

どんな施設が対象?具体例で見る日本版DBSの範囲

日本版DBSでは、「子どもに接する仕事」をしている人を対象に性犯罪歴の確認を行いますが、その“仕事場”である施設や事業所がどこまで対象になるのかはとても重要なポイントです。

施設には「義務対象」「認定対象」「対象外」の3つの区分があり、制度の適用の仕方が異なります。

すべての施設が対象ではない

まず最初に大事なのは、「子どもに関係するすべての施設が自動的に対象になるわけではない」という点です。

施設ごとの制度適用区分

区分対応内容主な例
義務対象法律により照会が義務学校(小中高)、幼稚園、認定こども園、保育所、児童館、児童養護施設、放課後等デイサービス
認定対象一定条件のもと照会が可能学習塾、スイミングクラブ、ダンススクール、学童クラブ(認可外)、民間の英会話教室など
対象外現行制度では確認の必要なし家庭教師、個人のベビーシッター、病院やクリニックなどの医療機関

義務対象施設とは?

これらの施設は、法律で定められた「義務」の対象です。つまり、子どもに接する職員を採用する場合、必ず性犯罪歴の照会をしなければならないというルールがあります。

具体的には次のような施設です:

  • 小学校、中学校、高等学校(すべての公立・私立)
  • 幼稚園、保育所、認定こども園
  • 児童養護施設、児童館、放課後等デイサービス
  • 児童発達支援センター など

これらは国や自治体の認可を受けて運営されているため、強制的に制度が適用されるのです。

認定対象施設とは?

認定対象とは、「希望する事業者が、一定の基準を満たして国の認定を受ければ、性犯罪歴を確認できる」仕組みです。

これには以下のような民間の施設が該当します:

  • 学習塾(進学塾、補習塾など)
  • スポーツクラブ(子ども対象の水泳、サッカー、体操など)
  • ダンス教室、音楽教室、芸能スクール
  • 民間の英会話スクール、学童クラブ(認可外) など

認定を受けた施設は、「認定済みである」ことを広告・ウェブサイトなどで表示できるため、保護者や利用者に対して「安全性の高い施設である」という信頼につながります。

対象外の施設はどうなる?

一方、完全に個人で運営している事業者は、制度の対象外とされています。たとえば、

  • 個人の家庭教師
  • ベビーシッター(派遣ではなく個人契約)
  • 医療機関の看護師や受付職員

などです。

ただし、今後は「制度の対象をもっと広げるべきではないか?」という議論もあり、将来的に拡大される可能性があります。

施設の対象範囲まとめ

義務対象]
◎ 小中高・幼稚園・保育園
◎ 放課後デイ・児童施設
  → 法律で義務、必ず照会

[認定対象]
○ 学習塾・スポーツ教室
○ 民間の学童・英会話
  → 希望すれば認定・照会可能

[対象外]
× 家庭教師(個人)
× ベビーシッター(個人契約)
  → 現時点では対象外

なぜすべての施設を対象にしないの?

一見すると「全部義務にすればいいのでは?」と思うかもしれません。しかし現実には、

  • 照会に必要なシステム・人員の負担
  • 小規模事業者への影響(コスト・手間)
  • プライバシー保護とのバランス

といった理由から、段階的に進める方針となっています。

施設の対象範囲の要点

  • 義務対象:公的に認可された施設(学校・保育園など)
  • 認定対象:希望すれば制度に参加できる民間施設(塾や教室など)
  • 対象外:現時点では制度の範囲に含まれない個人事業(家庭教師など)
  • 今後の議論で制度の対象拡大が検討される可能性あり

日本版DBSとSDGsの関係

日本版DBSは、子どもを性犯罪から守ることを目的とした制度です。そしてこの取り組みは、国際的な目標である「SDGs(エスディージーズ)」にも深く関係しています。

SDGsとは?

まずSDGsとは、「持続可能な開発目標(Sustainable Development Goals)」の略で、世界中の人たちがよりよい未来をつくるために、国連で決めた17の目標です。2030年までの達成を目指して、世界中の国や企業、地域が取り組んでいます。

目標4「質の高い教育をみんなに」との関係

【目標4の内容】

すべての人に包摂的(誰一人取り残さない)で公正な質の高い教育を提供し、生涯学習の機会を促進する

この目標では、誰もが安全で安心できる教育を受けられることが大切だとされています。

【なぜDBSと関係あるの?】

教育の現場に性犯罪歴のある大人がいたら、子どもは安心して学べるでしょうか? 答えはもちろん「NO」です。

日本版DBSは、子どもに接する大人の性犯罪歴をチェックすることで、安全な学習環境を守る制度です。つまり、質の高い教育を提供する土台として、日本版DBSはとても重要な役割を担っているのです。

目標5「ジェンダー平等を実現しよう」との関係

【目標5の内容】

ジェンダー平等を達成し、すべての女性と女の子のエンパワーメント(力をつけること)を実現する

【性犯罪とジェンダーの関係】

性犯罪の被害者は、女性や女の子が多いというデータがあります。特に子どもへの性暴力では、その多くが女児を対象にしたものです。

日本版DBSは、性犯罪を未然に防ぐことを目的としているため、女性や女の子が安心して暮らせる環境をつくる取り組みとして、SDGsの目標5にも貢献しているといえます。

間接的に関係する目標

さらに、以下のSDGsとも関連があります:

目標番号内容関連する理由
目標3すべての人に健康と福祉を性犯罪による心の傷を防ぐことが、子どもの心の健康につながる
目標16平和と公正をすべての人に法制度を整え、公平な社会をつくるために役立つ

DBSは「未来を守る」ための制度

日本版DBSは、「今を生きる子どもたちの安全」を守るだけではなく、これからの未来社会を持続的に成長させていくための仕組みでもあります。

SDGsの実現は、国だけでなく地域や事業者、私たち一人ひとりの行動にかかっています。日本版DBSを正しく運用し、社会全体で子どもを守る文化を育てていくことは、SDGsの理念そのものといえるでしょう。

日本版DBSの問題点と懸念される課題

日本版DBSは、子どもを性犯罪から守るという大きな目的を持った制度ですが、すべてが完璧というわけではありません。現場での混乱やプライバシーの問題など、導入にあたっての課題も多く指摘されています。

ここでは、制度運用のうえで懸念されている3つの主要な課題を見ていきましょう。

プライバシー情報の適切な管理ができるか?

性犯罪歴は、極めてデリケートな「要配慮個人情報」にあたります。

もしその情報が外部に漏れてしまえば、本人にとって社会的な信用を失うだけでなく、誤解や偏見によって就職や生活に深刻な影響を与える可能性があります。

プライバシー保護上の主な懸念

問題点説明
情報漏えいリスク帳簿や証明書の保管方法によっては、第三者に見られる危険がある
社内共有の範囲があいまい誰まで情報を共有してよいか(校長だけ?教頭まで?)のルールが不明確
誤情報による不利益の可能性誤った前科情報で不採用になると、本人の権利侵害につながる

これまで性犯罪歴を確認するという文化がなかった日本の民間事業者にとって、情報管理体制を整えるハードルは高く、混乱が予想されます

“現職者”に前科があったらどうするの?

日本版DBSでは、新規採用者だけでなく現職者も確認対象です。しかし、実際に性犯罪歴が確認された場合、どう対応すべきかについてはまだ明確なルールがありません。

【想定されるケースと問題点】

  • 教員Aが勤務10年目で、実は15年前に性犯罪の前科があった
  • 日本版DBSの導入後、それが発覚した

この場合、「すぐに解雇できるのか?」「配置転換だけで済ませるのか?」「本人が反省しているなら許容されるのか?」といった点で、現場は迷います。

対応が遅れると、他の保護者から「なぜそんな人が働いているのか」と批判されるおそれもあります。

対象事業者・対象犯罪の線引きがあいまい

現在の制度では、法律で定められた施設(学校や保育園など)は義務対象、その他の塾やスクールなどは認定制度とされていますが、「どこまでが対象か?」という基準にはグレーゾーンがあります。

【例】線引きが難しいケース

事業内容対象かどうか(現状)課題
地域のこども食堂(ボランティア)明確ではない子どもと密に接するが制度の網から漏れる可能性
訪問型の家庭教師・保育者現時点では対象外密室での接触があるにも関わらず、照会義務がない
送迎バスの運転手雇用形態によって判断が異なる子どもに接する機会が多いのに、業務委託だと対象外になることもある

また、照会対象の犯罪についても、「迷惑防止条例違反(痴漢・盗撮)」は含まれていても、「ストーカー規制法違反」や「下着の窃盗」などは含まれません。これで本当に万全なのか?という疑問が残ります。

制度の運用は「慎重さ」と「柔軟さ」がカギ

日本版DBSは、確かに社会にとって意義のある制度です。しかし、運用における配慮や整備が不十分なままだと、逆に現場を混乱させたり、個人の人権を損ねたりする危険もあります。

今後は、こども家庭庁などによるガイドラインの明確化や、制度の見直し、そして現場の声を吸い上げる仕組みが求められます。

日本版DBS導入までのスケジュールと今後の展望

日本版DBSの導入は、ある日突然決まったわけではありません。社会問題としての深刻さと、再犯防止の必要性を背景に、国や有識者が慎重に議論を重ねて制度が設計されてきました。

導入までの経緯:主な出来事の時系列まとめ

以下に、日本版DBSが検討・成立されるまでの重要な流れをまとめます。

日本版DBSの導入スケジュール

年月出来事と内容
2023年6月「性犯罪歴等確認の仕組みに関する有識者会議」開催開始(こども家庭庁)
2023年9月有識者会議による報告書公表。制度設計の大枠が示される
2024年3月「こども性暴力防止法」政府が閣議決定
2024年6月国会で法案が全会一致で可決・成立。「日本版DBS」正式に法制度として成立

このように、1年をかけた検討と国会審議を経て、2024年に法律として成立したのが日本版DBSです。

つまり、2026年度中にスタートすることが法律で定められており、それまでに制度の詳細を詰めていく準備期間が設けられているのです。

施行までに整備されるべきこと

現在は、こども家庭庁を中心に、以下のような準備が進められています。

施行までに必要な準備項目

内容詳細説明
ガイドラインの作成どんな場合に配置転換・解雇が妥当かなど、運用ルールを明文化
認定制度の詳細整備学習塾やクラブなどが認定されるための要件を明確化
情報照会のシステム構築こども家庭庁・法務省との間で円滑に照会を行うためのデータ連携・申請フォームの整備
現職者の照会ルール整備いつ・どのように現職者を対象にするのかのタイムラインを設定
研修・周知の徹底教育・保育業界に向けた周知・説明会や職員研修を実施

今後の展望と課題

今後、日本版DBSがスムーズに導入・定着するためには、次のような点に注目が必要です。

【今後の注目ポイント】

  • ガイドラインがどこまで明確に整備されるか
    → 解雇や配置転換の判断に迷わないルールが求められる
  • 認定制度のハードルが適正か
    → 中小の学習塾などでも参加しやすい基準が必要
  • 制度の対象が今後広がるか
    → 家庭教師や個人事業主なども将来的に対象になる可能性
  • 照会システムが安全かつ効率的に機能するか
    → 情報漏えいを防ぎつつ、負担を減らせる運用体制が不可欠

「制度はできた」だけでは不十分

法律が成立しても、それを「どう運用するか」で実効性は大きく変わります。たとえば、

  • 現場が混乱しないような説明・教育
  • 子どもにも理解できる形での広報
  • 加害者の再犯防止のための支援制度との連携

など、「制度の運用」「周辺の環境整備」が鍵となります。

導入はスタート地点、未来の社会をどう育てるかが問われる

日本版DBSは、子どもを守るための制度として2026年度から始まります。しかしこれは「ゴール」ではなく、「スタートライン」です。

これから制度を育てていくのは、国だけでなく、地域や教育機関、保護者、そして私たち一人ひとりの意識です。子どもが安心して過ごせる社会をどう築いていくか——その第一歩が今、踏み出されたばかりです。

この記事を書いた人

いまさら聞けない自治体ニュースの管理人。
最近話題のニュースをアウトプットする場としてサイトを更新中。
なるべく正しい情報を届けるように心がけますが、誤った情報があればご一報ください。
本業は地方創生をメインとする会社のマーケティング担当者。

管理人をフォローする
政府
管理人をフォローする
タイトルとURLをコピーしました