「改正ギャンブル等依存症対策基本法が成立 広告・誘導行為は違法に

「改正ギャンブル依存症対策法が成立|広告・誘導行為は違法に 政府

2025年6月、ついに「改正ギャンブル依存症対策法」が国会で成立しました。今回の改正で注目を集めているのは、オンラインカジノの広告や誘導行為が“明確に違法”とされた点です。SNSの投稿、ブログでの紹介、ランキングサイトの運営──こうした行為も違法とされる可能性がある今、私たちが知っておくべき新ルールとは?
この記事では、改正法の背景や具体的な内容、残された課題までをわかりやすく解説します。

なぜ改正が必要だったのか?

2020年代以降、オンラインカジノの利用者は急増しました。これはスマートフォン一つでギャンブルにアクセスできるという利便性が背景にあります。実際、警察庁の調査では、オンラインカジノにアクセスした人のうち、75%が実際に金銭を賭けていたことが明らかになりました。

また、SNSや検索サイトに表示される「おすすめカジノランキング10選」や、「高額当選の秘訣!」といった広告が、違法性を意識しないまま人々をギャンブルへ誘導している実態もありました。特に若年層を中心に「広告で見たから大丈夫だと思った」という認識が広がっており、これが依存症を深刻化させていました。

こうした社会背景の中で、与野党は一致して「ギャンブル等依存症対策基本法」の改正案を提出し、2025年6月18日に改正法は成立しました。

改正法の要点

2025年6月に成立した「改正ギャンブル等依存症対策基本法」の最大の柱は、オンラインカジノに関する違法広告・誘導行為の明確な禁止です。

これまでもオンラインカジノ自体は日本国内で違法とされてきましたが、その違法性が「曖昧に受け取られていた」ことが大きな問題でした。たとえば、「海外にサーバーがあるから合法」「おすすめランキングサイトで紹介されているから安心」などの誤解がSNSや広告を通じて広がり、結果的に多くの人が違法なオンラインカジノに手を出してしまっていました。

そのため今回の改正では、第九条の二という新しい条文を設け、次のような行為を「明確に禁止」しました。

第九条の二:禁止行為の中身

条文では、以下の2点がポイントとなっています。

① 違法オンラインカジノサイトの提示の禁止

インターネットを利用して、国内の不特定多数に対して「違法なオンラインギャンブルを提供するサイトやアプリ」そのものを紹介する行為を禁止。

→ これは、いわゆる「リーチサイト(カジノを紹介するまとめサイト)」の運営も対象となります。
たとえば、「おすすめカジノ10選」「ボーナスが多いカジノランキング」などを掲載し、そこからカジノサイトにリンクを張るような行為は、違法な提示とされます。

② 誘導情報の発信の禁止

SNS投稿やブログ記事などで「勝ちやすいカジノ」「実際に儲かった」などの経験談を語ってサイトに誘導する行為も禁止されます。

→ 「広告」や「明確な推薦」でなくても、「興味を引いてリンクを貼る」だけでも規制の対象となる可能性があります。

このように、インターネット上の表現行為を広く対象に含めている点が、従来と大きく異なる点です。

なぜ「罰則なし」なのか?削除を促すための「違法明記」

この改正法には、実は罰則規定がありません。つまり、違反した場合にすぐに「逮捕」「罰金」といった直接的な刑事処罰が科されるわけではありません。

ではなぜこの法改正が有効なのか?それは、「違法である」と法律に明記されたこと自体が、大きな効力を持つからです。

たとえば以下のような仕組みで効果が期待されています。

  • SNS運営会社や検索エンジンに対し、「これは法律違反に該当します」と通知し、該当広告の削除を要請できる。
  • 「インターネット・ホットラインセンター(警察庁委託の監視機関)」が、違法情報として迅速に削除対応できる。
  • プロバイダーに対して、サイトのブロッキング(アクセス遮断)を促す法的根拠が得られる。

つまり、罰則がなくても「インフラレベル」での抑止が可能となるわけです。これは、「スピード感ある対応」「実効性の高い削除」を目的とした柔軟な仕組みといえます。

なぜ広告が問題だったのか?

ここであらためて「なぜ広告や誘導がそんなに問題なのか?」という根本を考えてみましょう。

依存症に詳しい専門家や医療現場の声によると、ギャンブル依存症の多くが「広告やSNSでの刷り込み」によって引き起こされているといいます。

特に以下のような事例が問題視されていました。

  • 若者がYouTuberやSNSインフルエンサーの「カジノで100万円勝った」投稿を見て安易に始めてしまう
  • 無料ボーナスの広告に誘われ、気軽な気持ちで登録した結果、負けを取り戻そうとして高額課金に陥る
  • 日本語で作られた海外カジノサイトの多くが、利用者に違法性を十分に周知していない(※警察庁調査では、利用禁止の表示があるのは2/40サイトのみ)

このように、広告が「依存への入り口」になっていたという点で、広告の制限・明確な違法化が急務となったのです。

今後の運用と社会的影響

この法改正をもとに、今後は以下のような運用が想定されます。

  • 広告やサイトの通報が増え、「削除されやすくなる」環境整備
  • SNS上での誘導投稿が減少(→アルゴリズムによる検出と非表示も可能に)
  • プロバイダーが該当サイトの日本からのアクセスを遮断
  • 違法情報の削除件数が可視化され、自治体・政府の施策評価につながる

また、政府は外国政府に対しても「日本人向けのオンラインカジノサイト提供を控えるように」と要請を行っており、国際的な協調体制による対応も始まっています。


今回の法改正は、「何を言ったか」よりも「どのように見せて誘導したか」が問われる時代の到来を示しています。広告や紹介という形をとらずに「個人の感想」「体験談」などを装って違法サイトに導く行為も、今後は違法とされる可能性があります。

この流れは、「違法性が曖昧だったネット上のギャンブル誘導行為に明確な線引きをした」という点で画期的です。依存症を防ぐための社会的な「バリア」を高めることが、今回の改正法の意義といえるでしょう。

法制定までの経緯と背景

日本におけるギャンブル依存症対策は、もともと単独で動いていたわけではありません。実際のきっかけは、2016年12月に成立した「特定複合観光施設区域の整備の推進に関する法律(通称:IR推進法)」です。

このIR推進法により、国内でも一定の条件下でカジノを含む統合型リゾート(IR)の整備が認められるようになりました。その際に大きく議論されたのが、「ギャンブル依存症の増加への懸念」でした。

与野党を問わず国会では、「依存症対策なしにカジノ開設は認められない」との意見が相次ぎました。そのためIR推進法には附帯決議として、次のような趣旨が盛り込まれたのです。

「カジノにとどまらず、他のギャンブル・遊技等に起因する依存症を含め、包括的な依存症対策を国が主導で構築すること」

これを受け、政府は同年12月、「ギャンブル等依存症対策推進関係閣僚会議」を立ち上げ、厚生労働省や内閣府などが連携して対策を検討し始めました。

2018年:基本法の成立と体系化された支援体制

こうした流れの中で、2018年(平成30年)7月に「ギャンブル等依存症対策基本法」が国会で成立し、同年10月に施行されました。この法律は、ギャンブル依存症を「個人の意志の問題」ではなく、「社会で支援すべき疾患」と捉えるもので、非常に画期的でした。

この法律により、日本におけるギャンブル依存症対策は以下の3つの柱で体系化されました。

  1. 基本理念の明確化
     依存症の予防、進行の防止、回復支援が連動した仕組みが必要であること。
  2. 国・自治体・事業者・市民の責務明記
     対策は医療、福祉、教育、法務など広範な分野が連携して推進されるべきであること。
  3. 推進計画の策定
     政府は3年ごとに「ギャンブル等依存症対策推進基本計画」を更新。都道府県も地域事情に応じて「都道府県推進計画」を定める努力義務を負うことになりました。

この法律ができたことで、相談窓口の整備、医療拠点の確保、依存症者支援団体への支援などが本格的に始まりました。たとえば、神奈川県久里浜医療センターが全国拠点機関となり、各都道府県に相談・治療拠点が整備されていきました。

それでも残った「オンライン」という抜け穴

しかし、こうして構築された支援体制にはひとつの大きな抜け穴がありました。それが、オンラインカジノの問題です。

この法律が施行された当時、主に想定されていたギャンブルは以下のようなものでした。

  • 公営競技(競馬、競輪、競艇など)
  • パチンコ・パチスロ
  • IR(統合型リゾート)に設置されるカジノ

これらは物理的な施設を持ち、法律上も事業者が明確に存在するため、ルールや対策の導入がしやすかったのです。

ところがオンラインカジノは、以下のような問題を抱えていました。

問題点内容
運営元が海外取り締まりの権限が及びにくい
匿名で利用可能本人確認が不十分な場合も多い
違法性の認識が希薄日本語の広告や紹介記事が多数
広告が日常に浸透SNSやYouTubeで容易に接触

こうした実情に対し、2021年以降は芸能人・スポーツ選手のオンラインカジノ関与が報道され、社会的関心が一気に高まりました。警察庁も監視体制を強化し、「リーチサイト」や「アフィリエイト広告」が依存症の引き金となっている実態を警告するようになります。

そして2025年:違法性の明文化という「歯止め」

こうした社会の動きを受けて、与野党が共同で改正案をまとめ、2025年6月に「ギャンブル等依存症対策基本法」の改正法が成立するに至りました。

今回の改正によって、オンラインカジノに関する誘導行為を禁止する条文が新設されただけでなく、その違法性を広く周知する努力義務が政府と自治体に課されました。これは、啓発活動の中に「オンラインカジノは違法です」と明確に盛り込むことを意味しています。

これにより、法の趣旨が「既存のギャンブルからの依存症対策」から「デジタル社会における依存リスクの抑止」へと、アップデートされたのです。

今回の法改正には、自民党・立憲民主党・日本維新の会・公明党・国民民主党・共産党などが賛成に回り、超党派の協力が実現しました。このような一致は、ギャンブル依存症を政治的な争点ではなく、社会課題として解決すべきという共通認識が浸透した結果といえるでしょう。

一方で、れいわ新選組が「罰則がないこと」を理由に反対したように、法律の実効性を問う声も依然根強く残っています。今後は、周知徹底の方法、広告削除の運用、そして依存症からの回復支援体制の拡充が、政策としてどこまで進むかが試金石となります。

「違法」とは書かれているが、罰則がない――それでも抑止力になるのか?

2025年6月に成立した改正ギャンブル等依存症対策基本法は、オンラインカジノの広告や誘導行為を「明確に違法」と位置づけたことが大きな前進と言われています。しかし同時に、この法律には刑事罰や行政罰などの「罰則規定」が一切盛り込まれていないという点で、懸念の声も多く上がっています

法律に明記された禁止行為は、たとえば次のようなものです:

  • 日本語で作られた違法オンラインカジノの「紹介サイト」の運営
  • SNSを通じた「おすすめ」「勝てるコツ」などの投稿
  • アフィリエイト収入を得るための誘導リンクの設置

これらを「やってはいけないこと」とした点は評価されますが、「違法」と書いてあるだけでは、やった人に罰が下るわけではないのが実情です。現時点では、違反行為に対する罰金や逮捕、業務停止などの法的制裁は存在しません

こうした法設計に対し、反対したれいわ新選組は「実効性に欠ける」「見せかけの規制にすぎない」と批判しています。

プラットフォームとの連携による「間接的な抑止」が狙い

では、罰則がないこの法律には意味がないのかといえば、必ずしもそうではありません。実はこの改正法は、SNS企業やインターネット関連企業に**「削除の根拠を与えること」を目的としています**。

たとえば、以下のような活用が期待されています。

  • SNS事業者に対し、違法情報としての削除を要請
    → 「違法である」と法に書かれていることで、投稿を削除する理由が明確になります。
  • 検索エンジンがサイトをインデックスから除外
    → 違法性が明文化されているため、リーチサイトを検索結果から排除しやすくなります。
  • プロバイダによるアクセス遮断(ブロッキング)要請
    → サイト自体への接続を技術的に不可能にする措置が正当化されます。

さらに、警察庁が委託する「インターネット・ホットラインセンター」が、改正法を根拠として削除要請を積極化していくとされています。つまり、罰則がない代わりに、情報流通インフラの側から遮断していくという戦略です。

ただし、この「削除頼み」の方式には、次のような限界もあります。

削除対応だけでは追いつかない“イタチごっこ”

違法サイトや違法広告は、基本的に匿名で簡単に作られ、すぐに別の場所に移転するという特徴があります。たとえば:

  • ブログ形式でオンラインカジノを紹介 → 削除されたら別のドメインで再投稿
  • SNSで「おすすめカジノ」を紹介 → アカウントBAN後に別アカウント作成
  • YouTubeやTikTokなどでの動画紹介 → 一部削除されても再投稿が可能

このような「イタチごっこ」の構造の中で、削除ベースの対応はどうしても後手に回りがちです。

しかも、削除の判断をするプラットフォーム側には「表現の自由」や「法的リスク」も絡んでくるため、削除に消極的になるケースも想定されます。たとえば、特定の投稿が「単なる体験談」であるか「違法な誘導」かの判断が微妙な場合、プラットフォーム側は慎重になります。

「違法性の周知」が鍵となる

今回の改正法では、国や自治体に対して「違法オンラインカジノの存在や違法性を周知徹底すること」が義務づけられました。具体的には、次のような取り組みが想定されています。

  • 各地の消費生活センターでの啓発チラシの配布
  • 警察による注意喚起ポスターの掲出(映画館や駅など)
  • 教育現場や成人式でのリスク教育
  • SNSでの「正しい知識」を発信する啓発アカウントの開設

しかし、こうした取り組みを行うのは主に自治体やNPOであり、その実施体制や人員にはバラつきがあるのが現実です。予算や専門知識の有無によって、啓発が十分にできている自治体と、手が回らない地域が生まれています。

また、相談窓口の整備にも地域差があり、「最寄りの支援センターにたどり着けない」「ネット相談の仕組みがない」といった課題も報告されていますsiryou1。

依存症の「予防」も重要だが、「回復支援」はさらに遅れている

改正法は依存症の予防を主軸にしていますが、すでに依存症に陥ってしまった人への回復支援の整備も大きな課題です。

ギャンブル依存症はアルコールや薬物と同様、専門的な医療・カウンセリング・支援グループとの継続的な関わりが不可欠です。しかし、医療機関で対応できるところは限られており、特に地方では「専門医がいない」「相談できる場所がない」というケースもあります。

さらに、就労支援や社会復帰の取り組みも十分とはいえず、「相談してもどうにもならなかった」と挫折する依存症者が後を絶ちません。


今回の改正ギャンブル等依存症対策基本法は、法律としては一歩前進です。しかしその効果を発揮するには、

  • プラットフォームとの連携による削除実施
  • 自治体ごとの周知活動の強化
  • 医療・相談支援の体制拡充
  • 依存症に関する社会的理解の深化

が不可欠です。なかでも重要なのは、私たち一人ひとりが「違法性を知る」「誤解に流されない」「支援につなげる意識を持つ」ことです。

法の力と社会の力、両方が噛み合わなければ、真の依存症対策にはなりません。法律の意義を活かすかどうか――その鍵は、実は社会全体の理解と行動に委ねられているのです。

参考資料

ギャンブル等依存症対策基本法及び基本計画の概要等について(首相官邸)
ギャンブル等依存症対策基本法の一部を改正する法律案(衆議院)

この記事を書いた人

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