デジタル行財政改革会議の背景と目的
デジタル行財政改革会議は、日本が直面している少子高齢化・人口減少社会のなかでも、行政サービスを維持・強化し、地域を元気にしていくために「デジタル技術を最大限に活用しよう」という考え方から生まれた改革の取り組みを検討する場です。
このサイトを見てくれるみなさんでもイメージしやすいように、まずは「どうしてこの会議が始まったのか」「何を目指しているのか」を順番に見ていきましょう。
- 人口減少と高齢化
日本では、若い人の数が減り、お年寄りが増えるという変化が続いています。働く人や子育て世代が減っていく中で、これまでと同じやり方で医療や学校、交通などの公共サービスを支えるのは難しくなると考えられています。
例えば、教師不足や介護の担い手不足、高齢化が進む地域のバスやタクシーなどが利用しづらくなる問題などがすでに顕在化しています。こういった課題に対して、テクノロジーを活用することで、少ない労力で必要なサービスを届けたり、住民が遠い役所まで行かずに手続きできるようにしたりする必要があるのです。 - デジタル技術の活用
「デジタル」とは、パソコンやスマートフォン、インターネットなどを使って、今まで手作業や紙ベースだった仕事を効率化したり、オンラインで手続きを進めたりすることを指します。
例えば、書類にハンコを押すために役所へ行っていたところを、スマホやパソコンからデータで提出できるようにすると、その分時間やお金を節約できます。また、現場で働く教師や介護職員・保育士などが、紙の報告を何度も書かなくてもよいようにする仕組みづくりが大事だと言われています。 - 行財政改革会議の目的
「デジタル行財政改革会議」は、国が持つルールや規制を見直しながら、各分野(交通・教育・介護・子育てなど)の具体的な改革を推進し、財政面(お金)と行政のやり方の両方を見直すことを目指しています。以下のようなポイントが重要視されています。- 現場負担を減らしつつサービスを良くする
テクノロジーを使って業務を自動化し、人手不足でも質の高いサービスを維持する。 - 規制・制度を見直す
古いルールが邪魔をしているケースはないかを確認し、時代に合う形に変えていく。 - データに基づいて成果を測る(EBPM)
政策を進めるうえで「何がどれだけ成果を出しているか」をデータでチェックしながら、柔軟に修正していく。
- 現場負担を減らしつつサービスを良くする
- 掲げるキーワード:デジタル田園都市国家構想
政府では、「都会だけでなく地方も含めて、デジタルの力で豊かな生活環境を作ろう」という基本方針を「デジタル田園都市国家構想」と呼んでおり、その実現へ向けた大きな柱の一つが「デジタル行財政改革会議」です。
地域の交通や学校などがデジタル化すれば、買い物が不便な人もネットで手軽に注文できたり、オンライン授業で教育格差を減らしたりすることができると期待されています。
- デジタル行財政改革会議は、人口減少・高齢化時代に行政サービスを保つための「デジタル技術」の活用を促進する場。
- 規制や制度をデジタル時代に合わせて見直し、現場の負担を減らすと同時に質の高いサービスを実現することを狙っている。
- 「デジタル田園都市国家構想」と連携し、都会だけでなく地方部でもデジタル化を進め、暮らしを豊かにすることが大きなゴールのひとつ。
交通分野のデジタル改革
デジタル行財政改革会議の中で、特に地方部の交通に関する問題が大きくクローズアップされています。中学生の皆さんの生活でも、通学バスが減ったり、親がいないと移動しにくかったりすると不便ですよね。こうした交通問題をデジタル技術でどう解決しようとしているか、見ていきましょう。

- タクシー・バスのドライバー不足
地方で特に深刻なのが、バスやタクシーの運転手さんがいなくなること。お客さんが減って収入が安定しない地域だと、運転手の確保が難しくなります。そこで提案されているのが「タクシー・バス事業の規制緩和」や「ライドシェア」の制度づくりです。- 規制を緩和して、二種免許を取りやすくする、もしくは空き時間で車を出せる人がフレキシブルに乗客を運べるようにする、などが検討されています。
- 「ライドシェア」とは、自家用車を持つ人が運転手になって必要な人を送迎し、料金を受け取れるようにする仕組みです。ただし安全面の確保は必須なので、法整備が課題です。
- 自動運転技術の活用
もう一つの柱が「無人の自動運転バスやタクシーの普及」を後押しすることです。例えば、AIを使った遠隔監視で走らせることで、深夜や郊外など運転手の確保が難しい場所でも運行が続けられると期待されています。- 全都道府県での初期投資支援や、道路インフラの整備、交通事故の処理ルールの検討など、国が全面的にサポートする仕組みを作る。
- 交通弱者と呼ばれるお年寄りや学生が、家の近くから気軽に移動できる社会の実現を目指している。
- ドローンによる物流革命
さらに、地方ではスーパーや病院が遠い人もいます。こうした問題を解決するために、ドローンを使って荷物を届けたり、災害時に医薬品を運んだりする取り組みも検討されています。- ドローンを飛ばすためには安全面の確保や飛行ルートの調整が必要なので、手続きを簡素化しながらも事故を起こさないルールづくりが進められています。
- 山間部などのバス便・宅配便が時間がかかる地域に対しても、ドローンが活躍できるようになると期待が大きいです。
- KPI(重要業績評価指標)の設定
改革が本当にうまくいっているかどうかを数字でチェックする方法として「KPIを設定しよう」という流れがあります。交通分野で言えば、- 自動運転サービスが導入された地域の数や、乗客の満足度
- ライドシェアを活用した利用者数やタクシー・バスの運転手不足解消率
などの数字を定期的に追いかけ、計画通りに進んでいるかを確認します。もし遅れている場合は、原因を分析して取り組みを修正するサイクルを回します。
- 地方の交通課題を解決するために、タクシー・バスの規制を柔軟にしてドライバー不足を補う仕組みが検討されている。
- 自動運転やドローン物流など先端技術の導入により、交通弱者へのサービス向上を目指している。
- 改革の進み具合を客観的に評価するために、KPIを定めて進捗を管理する方針。
このように交通分野では、人手不足という大きな課題が浮き彫りになっていますが、デジタル技術を活用すれば、少ない人員でもサービスを維持・向上できる可能性があると期待されているのです。
教育分野のデジタル改革
次に、学校や教師の負担を軽くし、児童・生徒一人ひとりに合った学びを実現するための教育分野のデジタル改革について解説します。

- GIGAスクール構想とデジタル機器の共同調達
文部科学省は「GIGAスクール構想」という取り組みを行い、小中学校で一人一台の端末や高速通信環境を整えています。ただ、各自治体がバラバラに端末を調達しているとコストがかさんだり、機種のスペックがバラついたりする問題が起こりがちです。- 都道府県や市町村が共同で調達し、同じスペックの端末をまとめて買うことで費用を抑える。
- 学校現場で故障した場合のサポート体制も共有できる。
- 校務DXによる教師の負担軽減
先生方が日々、出欠確認やテストの採点、保護者へのお知らせ文書などたくさんの事務作業を抱えています。そこで、校務支援システムをクラウド化することが計画されています。- 紙やFAXを使わなくても、オンライン上で保護者や教育委員会との連絡ができる。
- 教師が事務作業に追われずに、授業や生徒とのコミュニケーションに集中できる。
- 入学手続きなどで必要な入力作業を減らす仕組みも検討。
- オンライン教育の活用促進
少人数の学校や離島部などでは、専門性の高い授業を受けづらい場合があります。そこにオンライン授業を組み合わせることで、遠隔地から講師を招き、リアルタイムで授業を配信したり、家庭でもネット環境を活かして学べるようにしたりする狙いがあります。- オンライン指導者の配置要件を見直して、都市部の優秀な先生がオンラインで指導できるようにする。
- 部活動や課外授業でもデジタル教材を充実させる。
- デジタル教材・学習データの利活用
国は一つのアカウントで複数の教材を利用できる仕組みを目指し、学習履歴や習熟度をデータで把握できるようにして、個々の生徒に合ったサポートを実現しようとしています。- 宿題の進み具合やテストの結果をデータで集め、苦手な分野を先生が早めに把握できる。
- 遠隔地の優秀な講師や教材を活用して学習の機会を広げる。
- 教育ダッシュボード(KPIの見える化)
「どの学校でデジタル化が進んでいるか」「校務DXがどれくらい先生の時間を生み出しているか」を数値化し、改善を図る仕組みがあります。これを「ダッシュボード」と呼び、定期的に公開・更新することで全国の状況が比較できるようになります。
- 学校のICT環境を整え、教師の事務作業を減らし、生徒が学ぶ機会を増やす。
- オンライン教育やデジタル教材の拡充により、どこに住んでいても質の高い学びが受けられるようにする。
- 学校現場の進捗状況をダッシュボードで可視化し、実際に効果が出ているかチェックしながら調整を進める。
学生にとって、こうした改革は身近な学校生活を大きく変える可能性があります。「紙が多い」「先生が忙しすぎる」といった問題を緩和し、授業の質を高めることが大きなゴールの一つなのです。
子育て・介護・医療分野のデジタル改革
少子高齢化社会では、子育て世代や介護が必要なお年寄り、医療サービスが求められる人が増えます。ここでは、その負担をデジタル技術でどうやって軽減していくのかを解説します。

- 子育て支援:ワンストップ化とDX
- 出生届のオンライン化
赤ちゃんが生まれたときの手続きは紙が多く、保護者の負担が大きい問題があります。これをオンラインで完結できるようにしようという試みです。 - 保育DX
保育園の入園手続き(いわゆる「保活」)や保育士が記録する書類をデジタル化して、保育士が子どもと向き合う時間を増やす狙いがあります。
- 出生届のオンライン化
- 介護DX:人手不足と生産性向上の両立
- 介護ロボット・ICT機器の導入促進
介護現場では記録や移乗介助など、人手が多く必要な作業が山積みです。そこで、ロボットやICT機器を導入すると、人の負担を減らして効率よくサービスを提供しやすくなります。 - 介護報酬改定への反映
ロボットやICTを活用して生産性が向上した施設には、介護報酬での加算を行い、導入しやすい仕組みを整えています。
- 介護ロボット・ICT機器の導入促進
- 医療DX:オンライン診療や電子処方箋など
- 高齢化が進むと医療ニーズが上がりますが、医師や看護師の数には限りがあります。そこでオンライン診療の拡充や、処方箋の電子化(紙の処方箋を減らす)を推進し、患者が病院に行く手間や医療スタッフの事務負担を削減することが目指されています。
- リフィル処方と呼ばれる仕組みでは、症状が安定していれば、同じ薬を何度か再処方してもらえるようにして通院回数を減らす、などの改善も検討されています。
- 災害時のデジタル活用
さらに、医療・介護施設が被災したときの情報共有や、災害時の被災者支援・住家の被害認定などをデジタル化し、スピーディに対応できるようにする方策も盛り込まれています。- 避難所での受付業務や物資の配布をスマホやマイナンバーカードを使って迅速化しようというアイデアです。
- 子育てや介護の分野では、書類の多さや手作業が負担になっています。デジタル化により手続きをシンプルにして、現場での人手不足を緩和する。
- 医療でもオンライン診療やリフィル処方などで負担を減らしながら、高齢者が多い時代に合わせた仕組みを整えようとしています。
- 災害時にもデジタル技術を使えば、避難所や医療支援の情報をすぐに共有できるなどのメリットが期待されます。
国・地方のデジタル基盤の共通化とEBPM
ここでは、国と地方自治体が共通に使うシステムやデータを整備する狙いと、その効果を評価しながら改善していく方法(EBPM: Evidence-Based Policy Making)について説明します。
- 国と地方のデジタル基盤を共通化するメリット
- システム開発費の削減
これまでは各自治体が個別にシステムを作るため、合計すると莫大な費用がかかっていました。共通のシステムを使うことでコストを下げ、保守もしやすくなります。 - 住民サービスの向上
申請手続きや証明書のオンライン発行をより広範囲にわたって実現し、自治体をまたぐ場合でもスムーズに手続きできるようにします。
- システム開発費の削減
- ガバメントクラウドへの移行
全ての地方公共団体が標準準拠システムへ移行し、セキュリティを確保しつつ「クラウド」上で行政サービスを提供する取り組みが進められています。これを「ガバメントクラウド」と呼びます。- 各自治体が個別サーバーを保有するよりも安定的で災害にも強い。
- 全国的に仕様がそろうので、別の市町村に引っ越しても手続きが同じ流れでできるメリットもある。
- ベース・レジストリ整備(法人・不動産登記など)
法人情報や不動産登記情報のデータベースをきちんと整理(デジタル化)することで、さまざまな行政手続きを効率化します。- 企業が新しくできたり引っ越ししたりするときの手続きを減らす。
- 不動産登記や住民票情報などもワンストップで連携できるようにする。
- EBPM(エビデンスに基づく政策立案)とダッシュボード
- 政策を作るとき、データや数字を根拠として「どんな手段が最も効果的か」を判断します。
- 行政事業レビューシートや基金シートなどを公開し、予算の使いみちや成果を透明化。
- 「ダッシュボード」で重要指標を公開して進捗を“見える化”し、改善の必要があれば柔軟に修正します。
- 国と自治体のシステムをクラウドで共通化することで、コスト削減とサービス改善を同時に実現。
- 法人・不動産登記などの基礎データを整え、いろんな手続きを簡単にできるようにする。
- 効果測定(KPIやダッシュボード)で“数字に基づいた政策判断”を行い、結果を公開してさらなる改善に生かす。
まとめ
最後に、デジタル行財政改革会議が全体としてどんな方向を目指し、私たちの生活がどう変わるのかを改めて整理します。
- 狙い:人手不足の時代に合わせた行政サービスのアップデート
日本では人口減少が加速し、高齢化が進んでいます。これまで人がやってきた作業をそのまま続けると、人手や財源がどんどん足りなくなります。そこで、デジタル技術を使って効率化することで、少ない人手でも高品質なサービスを提供できる社会を目指しています。 - どの分野でも「デジタル完結」の原則
- 交通では自動運転やライドシェア、ドローン物流。
- 教育ではGIGA端末やクラウド型校務支援システム。
- 子育て・介護・医療でもオンライン申請・診療・ロボット活用など。
全分野で、紙や対面中心だった手続き・サービスをできる限りデジタル化しようという動きが共通しています。
- 利用者起点・EBPMの徹底
「住民や事業者が使いやすいサービスか?」という視点が徹底され、数字(データ)で成果を測りながら、うまくいっていないところは素早く軌道修正します。
国が地方公共団体の現場の実態をモニタリングし、成功事例を他の地域へ広げるなど、全国的な連携を進めていきます。 - 将来の展望:デジタル田園都市国家構想
最終的には、地方に住んでいても都会と変わらない水準の教育・医療・交通サービスを受けられ、生活を楽しめる社会を作ろうとしています。そのために、多額の予算をかける一方で、基金や事業の見直しを行い、「無駄をなくす改革」も同時に進めています。 - 結論:中学生から見たデジタル行財政改革会議の意義
- 身近な学校生活がデジタル化で便利になる
→ 先生の負担が減り、対話の時間が増えるかもしれません。部活動やオンライン授業など新しい学びの形も。 - 将来、介護や医療、交通などの仕事の仕方も変わる
→ 自動運転やロボット活用が進むので、皆さんが大人になる頃には仕事のあり方が大きく変わっている可能性があります。 - 地域の魅力を活かせる社会へ
→ 地方にもオンラインで仕事を持ち込めたり、遠隔医療・遠隔教育が普及して都市と同じくらい便利になるかもしれません。
- 身近な学校生活がデジタル化で便利になる
デジタル行財政改革会議は、国や自治体が古い仕組みを見直し、デジタル技術で行政やサービスをより良い形にアップデートするための一大プロジェクトです。少子高齢化や人手不足が深刻化する時代において、紙や対面中心のアナログなやり方のままでは立ち行かなくなる可能性が高いです。
そこで、交通や教育、子育て、介護、医療といった生活に密着した分野でDX(デジタルトランスフォーメーション)を進め、データを活用して政策の効果を高めようというのがデジタル行財政改革会議の最大のポイントです。
将来この改革が進めば、もっとスムーズに学べたり、地域で暮らしやすくなったりする可能性が大いにあります。政府や自治体が取り組む仕組みを知ることで、私たち一人ひとりも「デジタルの力を使って社会を良くしていく」仲間になれるのです。