山口県が全公立中学校で生成AIを導入!市町連携で進む教育DX

山口県が全公立中学校で生成AIを導入!市町連携で進む教育DX 地方行政

山口県が生成AIを全公立中学校へ導入

山口県は、2025年5月から県内の全公立中学校153校(特別支援学校中学部を含む)に「生成AI」を活用できるサービスを導入する計画を公表しました。対象となるのは、生徒約3万3,000人と教職員で、すでに一部の学校では先行して実証実験が行われています。この全校導入は、都道府県単位での大規模かつ同時期の導入としては全国初であり、多くの教育関係者や保護者、生徒たちの関心を集めています。

今回山口県が活用する生成AIサービスの名称は「スタディポケット」と呼ばれるもので、大きく分けて先生向け(for TEACHER)と生徒向け(for STUDENT)の2種類が用意されています。先生向けには、たとえば授業準備やプリントの作成、アンケートの集計などの支援機能があり、生徒向けには、授業中や家庭学習の時に疑問を解決したり、学習のヒントを得たり、英作文の添削を受けたりする機能などが含まれています。山口県は、とくに「生徒が自ら考え、より深く学ぶきっかけ」として生成AIが活用できるのではないかと期待しています。

なぜ生成AIを導入するのか?

  • 学びの格差是正
    山口県内でも、生徒によって得意・不得意の教科や学力の差があることが指摘されています。生成AIを使うことで、「自分のわからないところを個別に質問しやすい」「何度でも確認できる」といったメリットがあり、生徒一人ひとりに合わせた学習サポート(いわゆる個別最適化)が期待されています。
  • 学力だけでなく、思考力や表現力の育成
    生成AIと対話する際、キーワード入力だけでは十分なやりとりができません。「どんな質問をするか」「追加でどんな情報を求めるか」を考えるために、“問いの設計”が必要になります。つまり、ただ答えをもらうのでなく、自分から上手に問う力が鍛えられる点が、県教育委員会の重要な狙いです。
  • 先生の負担軽減と授業の質向上
    先生は普段、プリント作成や評価用テストの問題作成、保護者向けの通信の作成など、非常に多岐にわたる業務を抱えています。生成AIの活用によって、たたき台の文章や問題例を素早く出してもらい、それを微調整・編集することで、時間的効率を高め、指導の質もより良い方向へ向かう可能性があります。
  • 全国に先んじての先進事例に
    全国でも「生成AI」を教育現場に導入する動きが広がり始めましたが、これほど大規模かつ一斉に動くのは山口県が初めてです。「2024年度に7校で実証し効果が確認できた」ことがきっかけとなり、県と19の市町が連携して、全公立中学校への展開が決定しました。こうしたモデルケースとして全国から注目されています。

これまでの実証実験の成果

  • 7校のモデル校での導入
    2024年度にモデル校7校の2・3年生を対象に実証が行われ、授業中の疑問解消や個別指導、問題解決のためのヒント提供などに役立ったとの報告がありました。生徒が積極的にAIと対話し、自分の苦手分野を再確認したり、新たな視点を得たりする効果が得られたそうです。
  • 保護者や教員からの肯定的な声
    「家庭でわからないところをAIに聞いて、解決できるようになった」「家庭学習へのモチベーションが上がった」「アンケート集計や文書下書きなど校務にも活用できて、先生の事務負担が減った」など、多方面で有用性が認められました。

こうした成果を踏まえ、2025年5月から本格的に「全公立中学校」を対象にした導入がスタートします。次章では、実証校での具体的な活用事例や効果、課題についてより詳しく見ていきましょう。


実証実験から見えた具体的な活用事例と生徒・保護者の声

山口県のモデル校7校(令和6年度当時)では、国語・数学・英語・理科・社会・総合的な学習など、さまざまな教科や場面で生成AIを活用した実践が行われました。以下では、実証報告書や公表記事から読み取れる主な事例をご紹介します。

英語の作文練習・添削

  • 英作文アシストモード
    「スタディポケット」には英作文の添削支援機能があり、生徒が書いた英文を投入すると、スペルや文法のミスだけでなく、「もっとこういう表現を使ったほうが良い」「時制に注意して書いてみよう」といった指摘をしてくれます。
  • 学習者の声
    最初は「答えをそのまま教えてくれない」「長文で返ってくるから読みにくい」と戸惑う声もありましたが、使い慣れるにつれ「アイデアやヒントをくれる」「やりとりの中で覚えるから理解が深まる」という好意的な意見が増えました。

数学の問題作成・ドリル練習

  • 自分専用の問題づくり
    数学が得意な生徒は、生成AIに「二次方程式の応用問題を作って」と指示して問題を生成→自分で解いてみる→再びAIに答え合わせや解説を求める、という使い方が報告されています。得意分野を発展させられる一方、苦手分野の基礎ドリルとしても役立てられます。
  • 多様な難易度に対応
    生成AIに追加で「もう少し難しく」「基礎レベルの問題も欲しい」と伝えることで、レベル調整が可能です。先生が一人ひとりに合わせて問題を作るのは大変ですが、AIを活用すれば短い時間で複数パターンの問題生成が期待できます。

国語の読解学習・表現力向上

  • 読解のヒント・視点の獲得
    国語の小説読解で「この作品のテーマは?」「登場人物の気持ちは?」と問いかけると、生成AIは「印象に残った場面を深掘りしてみたらどうか?」「時代背景を考慮してみよう」など、多角的な視点を返してくれます。これをヒントに自分の考えを練り直すことで、理解が深まったとする声が多かったです。
  • 表現力強化
    自分の感想文をAIに見てもらい、「もう少し具体例を足してみよう」「文が短くまとまりすぎかもしれない」などのフィードバックを得ることで、豊かな表現へと導く事例もありました。

探究学習・総合的な学習の時間

  • グループディスカッションの補助
    生徒会活動のスローガン決定や、探究テーマのアイデア出しなどで、生成AIを「もう一人のアイデアマン」として活用する事例がありました。メンバーが少なく意見が出にくい場合でも、AIが第三者的な視点で案を提示してくれるため、多様なアイデアを比較しやすくなります。
  • 思考の伴走者
    AIが「あなたはなぜそう考えるの?」と問い返してきたり、「何がわかっていないのかを確認しましょう」とコメントすることで、生徒が自らの考えをまとめたり、追加で調べる必要性に気づいたりするきっかけが生まれます。

保護者の声

  • 家庭学習がスムーズに
    「わからないところを家で自分で解決できるようになったので、勉強を見てあげる負担が減った」「勉強を教えるのが苦手だったが、AIが手伝ってくれるので安心」といった好評な意見が多くありました。
  • ICTリテラシーへの不安も
    一方で、「ネット上の情報に間違いが混じっているかもしれない」「AIから返ってくる文章が専門的すぎて、子どもが途中で挫折する可能性がある」といった声もあります。学校側は、誤情報(ハルシネーション)にどう対処するかも含め、指導計画が重要としています。

教員の声

  • 活用次第で利点多数
    「苦手意識の強い生徒が、AIとのやりとりを通じて主体的に学ぶようになった」「授業や校務の効率化が図れた」と高評価する教員が多数報告されています。
  • プロンプト設計が鍵
    ただし「上手に質問を作れるかどうか」が成果を左右するといった課題も浮上。AIに正しいプロンプト(指示文)を投げられないと、期待している回答が得られないことがあります。教員が生徒に対して適切なプロンプトの作り方を教えたり、手本を示したりする工夫が必要とされています。

こうした実証実験での事例とフィードバックを踏まえたうえで、山口県は「自律的な学習態度を育む」「思考力や課題解決力を高める」手段として、生成AIの全県導入を決定しました。次章では、今後の運用計画や課題、そして導入がもたらす未来について考えてみます。


全県導入の運用計画と課題、期待される効果

全県導入の運用計画

  • 2025年5月スタート
    山口県は2025年5月からスタディポケットの本格稼働を開始するとしています。すでに2024年度には7校で実証済みであるため、そのノウハウを活かしつつ、153校すべての現場でスムーズに導入できるよう準備を進めているとのことです。
  • 生徒約3万3,000人+教職員全員にアカウント配布
    生徒向けには「for STUDENT」、先生向けには「for TEACHER」の利用権を配布し、授業・家庭学習・校務などの幅広い場面で活用します。特に今回、先生だけでなく生徒にも平等にアカウントを付与する点が特徴と言えるでしょう。

想定される運用フロー

  1. 授業での活用
    • 国語や英語では表現力を伸ばすための添削指導ツールに。
    • 数学や理科では問題作成・解説をAIに補助させ、思考を深める場に。
    • 社会や総合的な学習では探究活動の“パートナー”としてアイデアや論点を幅広く示してくれる。
  2. 家庭学習での活用
    • 宿題や自主学習でわからない問題に即座にヒントをもらえる。
    • 自分専用の問題やまとめノートを作成しやすい。
    • 得られた回答が正しいかどうかは、別途ファクトチェックが必要となるため、ICTリテラシー指導とセット。
  3. 校務での活用(先生向け)
    • 学級通信の下書き、プリントの問題作成、英作文添削サンプルの作成など、多岐にわたる業務をサポート。
    • 保護者アンケート集計や、その結果の要約など、大量の文章処理が必要な業務を効率化。
    • 先生が時間にゆとりを持てることで、生徒指導や教材研究に集中しやすくなる効果が期待できる。

主要な課題

  1. 情報の誤り(ハルシネーション)への対策
    生成AIは時に誤った情報や根拠不十分な内容を提示することがあります。生徒がそれを誤って鵜呑みにしないよう、ファクトチェックの手順や、複数の資料を照らし合わせる態度の育成が重要です。
  2. ICTリテラシーとプロンプト力の育成
    AIに効果的な問いかけをするには、目的を明確にし、的確なキーワードや追加質問を考える力が必要です。これらは本来、探究学習や情報教育でも扱うテーマであり、今後のカリキュラムの中でどう位置付けるかが検討課題です。
  3. 学力格差の拡大リスク
    「AIを使いこなせる生徒」と「上手く使えず、挫折してしまう生徒」の差が広がる懸念があります。AIは答えを即座に与えてくれませんが、適切に“対話”できる生徒ほど恩恵が大きくなります。学力が低めの生徒にこそ、丁寧なサポートや学習支援が必要となるでしょう。
  4. 家庭の通信環境や端末事情
    山口県はすでに1人1台タブレットの環境整備を進めていますが、家庭によってはネット接続が不十分な場合も想定されます。必要に応じて放課後の補習や校内Wi-Fiの活用が対策として検討されています。

期待される効果

  • 生徒の主体的・対話的で深い学び
    生成AIが「考えるきっかけ」を与え、生徒自身が「どうやって質問しようか」「どうやって論拠を集めようか」と頭を働かせることで、従来の一方向的な学びでは得にくかった思考力・判断力・表現力が鍛えられる可能性があります。
  • 先生の業務効率化と授業の質向上
    校務の一部をAIがサポートすることで、先生がより重要な指導や相談対応に注力できる時間が増える。ひいては「よりわかりやすく、面白い授業づくり」に時間を投資しやすくなるでしょう。
  • 家庭学習が充実し、不登校生徒へのサポートにも
    不登校や長期欠席の生徒でも、家でAIに質問しながら学習を進められる点が評価されています。保護者としては「学校に行けない間、どう補えばよいか」という悩みが少し解消される見込みがあります。

このように、全県導入に際しては大きな期待とともに課題もいくつか見えています。次章では、生成AI導入の意義や、今後の教育現場における新たな可能性・筆者なりの考察をまとめます。


生成AI導入がもたらす未来

山口県が推し進める全公立中学校への生成AI導入は、日本全国の教育関係者にとって画期的な事例です。AI技術はここ数年で急速に発展し、社会のあらゆる分野で活用が進んでいます。教育分野でもオンライン学習やデジタル教材は広がりつつありましたが、「生成AI」を一斉導入するという動きはまだ始まったばかりです。最後に、今回の取り組みの意義と課題を整理しておきたいと思います。

教育現場での生成AI活用の意義

  1. 個別最適な学びの加速
    AIが生徒のレベルや興味、苦手分野に合わせて問題や学習アドバイスを提供できれば、これまでの一律授業では対応しきれなかった部分を補うことができます。
  2. “問い”を作り出す力の育成
    生成AIは単純な答えを教えるだけでなく、むしろ「深掘りのための質問」を投げ返してくる場合があります。どのように上手く質問するか、明確な目的と論拠をもって情報をリクエストするか、自ら学びに向かう力が試されるわけです。
  3. 先生の働き方改革
    校務や事務作業の一部が効率化されれば、そのぶん「授業の研究」「生徒への個別フォロー」「教育相談」など、本来力を注ぎたい部分に時間を割けるようになります。これは間接的に生徒の学習環境を良くする効果が見込まれます。

残る課題と向き合い方

  1. 使いこなせる人・使いこなせない人の格差
    先述のとおり、ICTリテラシーの差によって「生成AIをどう活用して良いかわからず、手が止まってしまう生徒」と「どんどん試行錯誤し、質問を工夫していく生徒」の差が生まれやすいのが現状です。学校は、基礎的なプロンプト設計誤情報への対処法を丁寧に教える必要があります。
  2. 著作権・引用・情報倫理
    AIが生成した文章をどのように扱うかは、まだ法律や社会のルールが十分に整備されていない部分もあります。生徒自身も「自分の提出物はどこまでAIの成果物で良いのか」「参考文献の扱いはどうするのか」などを含めて、先生の指導を受けながら試行錯誤していく必要があるでしょう。
  3. 学力低位層への配慮
    一番効果を期待したい層ほど、うまく活用できずに取り残されるリスクがあります。たとえば「何をどう訊けばいいかわからない」「AIが返す難しい言葉が理解できない」などの問題です。ここは学校現場や先生の工夫、個別指導の強化などが求められます。

「AIはすごいから勝手に全部教えてくれる」と思うと、使いこなしに失敗しやすいです。むしろAIは“わたしたちの頭の中のアイデアを整理したり、可能性を広げたりしてくれる相棒”だと考えるのが大切です。

  • 質問する前に「自分はどこがわからないのか」を整理しよう
  • AIの答えをうのみにせず、複数の情報源で確かめよう
  • わからない言葉や表現があったら自分でも検索しよう
    これらを続けると、「AIを使う力」だけでなく「自分で考えて調べる力」も同時に伸ばせます。

山口県の全公立中学校での生成AI導入は、日本の教育を変える大きな一歩と言えます。もちろん課題も多いですが、実証報告でも明らかになったように、生徒が主体的に学びに向かう場面が増えたり、教員の負担軽減につながったり、家庭学習を支える力になったりといったメリットは十分に期待できます。これから実際に運用が始まると、新しいアイデアや改善点が次々と出てくるでしょう。そうした積み重ねが、次世代の学習スタイルをさらに発展させ、全国へ波及していくはずです。


この取り組みは若い世代が今後発展していくであろうAIとの上手な付き合い方を学ぶ大きなチャンスでもあります。ぜひ正しい使い方を身につけて、自分なりの学び方を広げるきっかけにしていってください。

この記事を書いた人

いまさら聞けない自治体ニュースの管理人。
最近話題のニュースをアウトプットする場としてサイトを更新中。
なるべく正しい情報を届けるように心がけますが、誤った情報があればご一報ください。
本業は地方創生をメインとする会社のマーケティング担当者。

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