給特法って何?“先生の働きすぎ”を止める法改正の中身とは

給特法って何?“先生の働きすぎ”を止める法改正の中身とは 地方行政

「先生は残業しても残業代が出ないって本当?」そんな疑問の背景にあるのが「給特法」と呼ばれる法律です。長年、教育現場の過重労働を放置してきたこの制度が、いま大きく見直されようとしています。今回の法改正は、果たして先生たちの働き方を本当に変える一歩になるのでしょうか。その内容と課題をやさしく解説します。

給特法とは?なぜいま見直されるのか

学校の先生は、授業をしたり、子どもたちの相談にのったり、行事や保護者対応をこなしたりと、非常に多くの仕事をしています。しかし、こうした多忙な働きに対して、他の公務員のように「残業代」が支払われているわけではありません。その代わりに、月給の4%分を一律で「教職調整額」として支給する制度が存在します。この制度が「給特法」と呼ばれる法律によって定められているのです。

この給特法は1971年に作られました。当時は先生の仕事も今ほど多くなく、4%の上乗せで十分とされていました。しかし、50年以上経った今、教育現場は大きく変化しています。授業の準備や成績処理に加え、部活動の指導や保護者対応、さらに不登校やいじめといった複雑な問題にも向き合わなければならず、先生の働く時間は非常に長くなっています。

例えば、ある調査によると中学校の先生の4割以上が、月に45時間を超える時間外勤務をしています。にもかかわらず、もらえる教職調整額は一律4%のまま。この状況に対して「定額で働かせすぎではないか」との批判が強まり、給特法の見直しが求められてきました。

給特法改正の中身を読み解く

今回の改正案で最も注目されるのは、教職調整額を段階的に引き上げる点です。2026年1月には5%、その後も毎年1%ずつ増やし、2031年には10%にする計画となっています。これは教員の負担が大きい現状を少しでも反映しようという動きですが、一気に上げるのではなく、あくまで「段階的」である点に慎重さが表れています。

さらに、ただ給料を増やすだけでなく、働く時間自体を減らす取り組みも重視されています。政府は、2029年度までに先生の「時間外在校等時間」を平均30時間程度に、将来的には20時間程度にまで減らす目標を掲げています。これを実現するために、小学校では「教科担任制」を拡大して、授業の分担を見直す方針が示されました。また、各教育委員会には、教員の業務量を管理し、健康を守るための計画を立てて公表することが義務付けられます。

このほか、校務をまとめる「主務教諭」の新設や、特別支援学級・学級担任に関する手当の見直しなども盛り込まれています。特に学級担任には新たに月3,000円の加算が導入される一方、従来の複式学級などに対する特別手当は廃止される動きもあり、現場からの不安の声も聞かれます。

教職調整額の段階的引き上げイメージ

年度教職調整額(%)備考
20265%改正開始年
20276%
20287%
20298%月30時間目標の年
20309%
203110%段階的引上げ完了予定

本当に先生たちは救われるのか?

この改正が「働きすぎ」の解決になるのかというと、まだ慎重な見方が必要です。というのも、今回の改正は給料の増額にはつながりますが、残業そのものを禁止したり罰則を設けたりするものではありません。学校現場の人手不足が解消されない限り、「計画上は残業を減らす」としても、実際の業務量は変わらない可能性があるのです。

また、給与が名目上で上がったとしても、同時に物価が上がれば実質的な生活の改善にはつながらないという問題もあります。2020年代に入ってから、食料品やエネルギーなど生活に必要な品の値段が大きく上昇しています。仮に月給が2~3万円増えても、支出が同じかそれ以上に増えていれば「暮らしやすくなった」とは言い難いでしょう。

さらに「計画を立てた」というだけで、現場の負担が軽くなるとは限りません。目標を達成しようとするあまり、タイムカードの打刻だけを工夫して、実際の業務は家に持ち帰って…という事例も懸念されています。

私たちの教育をどう支えるか

今回の給特法改正は、教育界にとって久々の大きな動きです。しかし、それはゴールではなく「スタート地点」であるべきです。教員の給与制度を見直すことは重要ですが、そもそも学校の仕事量が多すぎるという根本的な問題にも取り組まなければなりません。

保護者や地域社会も、学校に過剰な期待や要求を寄せすぎていないか、今一度振り返る必要があります。教育の質を保つには、先生が健康に働ける環境が前提です。先生がいきいきと授業を行えるようになることが、子どもたちの学びの質を高めることにもつながります。

教育は国の未来をつくる仕事です。だからこそ、短期的な数値だけでなく、先生の声、子どもの声、そして学校全体の姿をしっかりと見ながら、今後の改革を進めていく必要があります。

給特法改正をめぐる国会での議論

給特法の改正案は、2025年2月に政府から国会に提出され、まずは衆議院で、次に参議院で審議されました。この法律の見直しは、先生たちの働き方を変えるだけでなく、将来の教育のあり方にも関わる大事な問題です。そのため、国会では与野党の議員たちが多くの意見を交わしました。

衆議院での議論:修正のカギは「目標の明記」

衆議院では、当初の法案に対して「これだけでは働き方改革が進まない」という声が相次ぎました。特に野党の議員からは、「残業時間を減らすための具体的な数値目標がないと意味がない」という意見が出されました。そこで、法案には次のような修正が加えられました。

  • 教員の「時間外在校等時間」を2029年度までに月平均30時間程度に削減するという目標を付則に明記
  • 2026年度から中学校で35人学級を導入できるよう、定数改善に向けた措置を取ること
  • 各教育委員会に「業務量管理と健康確保のための計画」の策定を義務付け、その内容を総合教育会議で報告・共有すること

このように、数値目標とそれに基づく計画策定を法律に組み込むことで、「単なる方針」ではなく「義務」として責任を持たせる形になりました20250414085。

参議院での質疑:現場とのずれや制度の実効性を問う声

参議院では、より具体的な現場の課題にも目が向けられました。たとえば、教員の仕事量を減らすには授業時数の削減が不可欠だという観点から、文部科学大臣は「特に持ち授業数が多い小学校に対して、教科担任制の拡充によって対応したい」と答弁しました。これは、国会でもっとも注目された発言のひとつであり、小学校教育のあり方にも波及する議論です。

また、「計画を立てるだけでは働き方は改善しない」という懸念も出されました。特に、「形式的に計画を達成するためにタイムカードの打刻時間だけを調整し、実際の労働時間が減らないのでは?」という不安には、多くの議員が共感を示しました。

与党と野党のスタンスの違い

与党はおおむね「段階的な調整でも前進である」と評価する一方で、野党側は「給特法そのものの抜本的見直しが必要だ」との立場を崩していません。たとえば、れいわ新選組は法案に反対し、「10%への引き上げでは足りない」「根本的に残業代が出る仕組みに変えるべきだ」と主張しました。

国会の議論では、先生たちが仕事として行っている業務(教材研究や保護者対応など)が「自発的」とみなされ、法的に労働時間としてカウントされないことへの批判も強く出ました。実際、埼玉教員超勤訴訟の判決を受け、「制度自体に欠陥があるのではないか」という問題意識が共有されています。

検討条項の設置:将来的な見直しの含みも

国会の審議の結果、法律には「施行から2年を目処に再検討を行い、必要なら教職調整額の率の見直しなどを含めた対応を行うこと」という検討条項も設けられました。これは「もしも現場の状況が改善しなければ、もっと大きな改革をする用意がある」という、ある意味での“保険”のような位置づけです。


国会では、「10%という数値の妥当性」「1%ずつの段階的引き上げの根拠」「本当に働き方改革が進むのか」「教員の仕事のどこまでが労働とみなされるべきか」といった多くの課題が議論されました。修正案にはこれらの声がいくらか反映されていますが、法律が成立したからといってすぐに現場の働き方が劇的に変わるわけではありません。

今後は、政府や文部科学省がどれだけ実行力を持って施策を進められるか、また、現場の声をどうくみ取るかが問われる段階に入ったと言えるでしょう。

現場の教員たちは何を思っているのか

給特法の改正案が発表されてから、全国の教員たちからはさまざまな声が寄せられています。それらは単なる「歓迎」や「批判」といった二元的な反応ではなく、「嬉しい反面、不安もある」「一部の改善だけでは足りない」といった複雑な感情にあふれています。ここでは、そのリアルな声を紹介しながら、現場が直面している葛藤を読み解きます。

「給料が増えても、仕事は減らない」

まず多かったのは、「給料が増えるのは嬉しいが、それだけで長時間労働が解決するわけではない」という声です。ある中学校教員は、「月に3万円程度増えたとしても、夜10時まで残って仕事をしていたら意味がない。体がもたない」と語っています。給特法によって4%から10%へと教職調整額が上がること自体は歓迎されつつも、「根本の仕事量が変わらない限り、焼け石に水」とする現場感覚が強くあります。

特に、授業の準備や評価、保護者対応、部活動指導など、膨大な「見えない労働」がある現場では、時間外勤務の削減が制度上の目標だけで達成できるとは考えにくいのです。

「本当に残業時間は減るのか?」

政府が掲げる「月30時間」や「将来的には20時間」の目標に対しても、教員たちは懐疑的です。というのも、過去にも何度か「働き方改革」が提唱されてきたものの、実際の現場ではほとんど改善が見られなかったという経験があるからです。

小学校の先生は「残業時間を減らせと指導されるけど、授業数が多すぎて無理。担任の先生はすべてを自分で抱えている」と漏らしています。また、最近では「タイムカードの打刻時間だけ調整され、実際には家に仕事を持ち帰っている」という“数字合わせ”も一部で起きており、「見かけだけの改革になるのでは」との懸念が広がっています。

「教員同士の分断を生む制度にならないか?」

もう一つ注目すべき声は、手当の再編がもたらす職員間の不公平感です。改正案では、学級担任に月3,000円の加算がされる一方で、複式学級などで支給されていた「多学年学級手当」が廃止される方向となっています。これに対し、複式学級を担当しているある地方の小学校教員は、「担任でない教員の負担が軽いわけではないのに、報酬が減るのは納得がいかない」と不満を述べています。

また、新設される「主務教諭」には月6,000円の加算が予定されていますが、「給与の差でモチベーションを管理しようとするよりも、職場の風通しやチームでの支え合いのほうが大切」とする声もあります。こうした給与構造の変化が、現場の協力体制に悪影響を与えることを危惧する教員も少なくありません。

「そもそも給特法があるから問題が起きるのでは?」

改正内容以前に、「給特法という制度自体をやめるべきでは?」という根本的な問いも現場から上がっています。なぜなら、給特法の仕組みでは「先生がどれだけ働いても、一定の定額手当しか出ない」ために、結果として過労が正当化されてしまうからです。

北海道教職員組合などは「定額働かせ放題」と批判し、「廃止や抜本的見直しこそが必要」と街頭で訴えています。特に、長年この制度のもとで苦しんできたベテラン教員たちは、改正が一時しのぎにならないよう、さらなる法的改革を求めています。

現場の声から浮かび上がる「制度」と「実態」のギャップ

これらの声を総合すると、制度としての改正がたとえ前向きなものであっても、それが現場の実情に合っていなければ、十分な成果は望めないという現実が見えてきます。多くの教員が、今回の改正を「はじめの一歩」として評価する一方で、「この一歩だけで終わっては困る」と感じています。

また、制度の運用が現場に過度な負担や不公平感をもたらさないように、今後は教育委員会や管理職の対応のあり方、さらには保護者や地域社会の理解と協力も重要になります。

海外の教員はどのように働いているのか?

アメリカ:残業には労働時間の対価がつく「契約労働」の原則

アメリカでは、多くの教員が学区(School District)との契約に基づいて働いています。年ごとに雇用契約が結ばれ、労働条件や授業時間、休暇日数、報酬の仕組みなどが明確に定められています。特筆すべきは、契約外の労働には「超過勤務手当」が支払われるか、もしくは「代休」が認められている点です。

また、アメリカの学校では部活動の指導は基本的に「有償の別契約」とされることが一般的です。したがって、「部活で土日に出勤しても報酬がない」という日本のような状況は生まれにくいのです。

フィンランド:高い専門性と短い勤務時間のバランス

教育水準が高いことで知られるフィンランドでは、教員の待遇も手厚く整えられています。まず、教員免許を取るには修士号が必要で、教職は「高度専門職」として社会的評価が高い存在です。

勤務時間においても、日本と比べて「学校にいる時間」が圧倒的に短く、1日あたり4時間程度の授業を担当すれば、あとは授業準備や研修の時間として使える仕組みになっています。授業外の業務が多い日本とは異なり、制度設計自体が「働きすぎ」を防ぐ形になっているのです。

ドイツ:授業時間が報酬の基準、厳格な時間管理

ドイツの教員も公務員として働くことが多いですが、労働時間は非常に厳格に管理されています。たとえば、「週に何時間授業を担当するか」が給料の基本になるため、授業時間が多いほど給料は上がります。

さらに、書類仕事や会議といった授業以外の業務に関しても、明確に時間配分が設定されており、定められた時間を越えて働くことは原則としてありません。教師は放課後の時間を自宅で使うことも多く、「職員室に夜まで残る」という文化は存在しません。

韓国:成績評価や昇進に厳しいが、業務は分担されている

日本と文化的に近い韓国でも、教員の業務量は多いものの、「業務の分担制度」が整っており、日本のように「すべてを担任が1人でこなす」ことは少ないとされます。また、職位による昇進制度が厳しく、勤務評価や研修成果が昇格に直結します。

韓国では教員労働組合の力も強く、過度な残業には声が上がりやすいため、法制度が追いつかない場合でも現場からの改善圧力が働きやすいという特徴もあります。

比較して見える、日本の特徴と課題

各国と比べると、日本の教員は「授業以外の業務量が多すぎる」「勤務時間の管理が不明確」「部活動が無償で負担になる」といった特徴が際立ちます。さらに、給特法によって「残業代が出ない仕組み」が制度的に固定されているため、過重労働が温存されやすい状況にあります。

一方、欧米諸国では「授業時間=報酬の基準」とする明快な制度や、業務分担・時間管理の徹底、そして教員が社会的に専門職として扱われる点などが制度の前提となっており、これが労働環境の違いにつながっています。

制度設計の視点を変える必要がある

給特法の改正によって、日本の教員の待遇が少しずつ改善される兆しは見えていますが、海外の制度と比べるとまだ多くの課題が残されています。特に「教員の働き方を授業中心に組み直す」「時間外労働には正当な対価を」「学校外の活動には別契約で対応する」といった考え方は、今後の日本の教育政策にとって重要なヒントとなるでしょう。

この記事を書いた人

いまさら聞けない自治体ニュースの管理人。
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本業は地方創生をメインとする会社のマーケティング担当者。

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