待機児童って本当にゼロなの?保育園に入りたいのに入れない理由をわかりやすく解説

地方行政

「待機児童」とは何か?その定義の裏にある複雑な実態

待機児童とは、保育園や認定こども園などの保育施設に申し込んだにもかかわらず、定員の都合やその他の理由で入所できず、保育を受けられない未就学児童のことです。行政上は「保育の必要性が認定されており、かつ特定教育・保育施設や地域型保育事業への利用申込をしているが、利用に至っていない児童」と定義されます。

しかし、実際の集計には“除外4類型”と呼ばれる項目が設けられており、この条件に該当する児童は「待機児童」として数えられません。たとえば、保護者が特定の園のみを希望しているケース、求職活動を一時中断している家庭、認可外保育施設を利用している世帯、育児休業中で復職時期が未定の保護者などが該当します。

このため、待機児童数が減少しているという統計上の見かけとは裏腹に、実際には保育の受け皿が足りていない家庭が多く存在しているという現実があります。これらは「保留児童」「隠れ待機児童」と呼ばれ、2024年時点でも7万人規模の存在が推定されています。

数字のマジック?減少した「待機児童」の背後にある事実

厚生労働省の調査によると、令和6年4月時点での待機児童数は2,567人とされています。これは2017年のピーク時(26,081人)と比べて約10分の1であり、数字だけを見れば「日本の保育事情は大きく改善された」と感じるかもしれません。

しかし、その実態は決して単純ではありません。まず、待機児童ゼロとされる自治体の数は1,524(全体の87.5%)に達しているものの、実際に待機児童が存在している自治体は217もあります。また、待機児童が再び発生した自治体も53あり、一度はゼロを達成しても、持続的に保育ニーズに応えられていない地域が存在していることがわかります。

こうした自治体の多くでは、地域内の開発により急激に転入者が増えたり、施設の急な閉鎖、あるいは保育士の退職によって受け入れ定員が想定より大幅に下回るといった事態が発生しています。つまり、待機児童数が減った背景には、施策の成功だけでなく、統計の枠組みによる除外や偶発的な人口変動などが影響しているのです。

地域によって全く違う「保育の逼迫度」:都市 vs. 過疎

待機児童数は全国平均で見ると低くなっているものの、地域別の差は依然として大きな課題です。たとえば東京都や埼玉県、滋賀県、沖縄県など都市部では、定員充足率が90%を超えるケースが多く、保育ニーズに対して供給が追いつかない状況が続いています。

一方、地方や過疎地域では、そもそも申込者数が減少しており、定員に対する利用率(定員充足率)は70%台まで落ち込んでいる地域もあります。以下の表は、都市部と過疎地における2024年4月時点の定員充足率を比較したものです。

区分利用定員数利用児童数定員充足率
都市部1,849,415人1,693,702人91.6%
過疎地域223,774人170,475人76.2%

(出典:こども家庭庁「保育所等関連状況取りまとめ 令和6年4月1日」)

このように、「待機児童」は都市部でこそ発生しやすい一方で、地方では施設の維持が困難という二重の問題が存在します。国はこれを受けて、過疎地域における保育機能維持のためのモデル事業を令和7年度から実施する方向で動いています。

年齢による格差:特に厳しい1~2歳児の入所

さらに注目すべきなのは、年齢別の待機児童分布です。令和6年の調査では、待機児童2,567人のうち、**1〜2歳児が2,178人(全体の約85%)**を占めており、特にこの年齢層で保育の逼迫が深刻であることがわかります。

これは、育児休業明けのタイミングと重なる1歳児クラスでの申込が集中するためです。育休期間が終わる時期に、保育園に入れないと仕事に復帰できないため、保護者にとっては「この1年が勝負」という意識が強く、激しい競争が起きます。

こうした背景もあり、1〜2歳児向けの小規模保育施設や企業主導型保育の整備が進められているものの、保育士不足により受け入れ枠を拡げられないというボトルネックが存在します。

待機児童問題の原因:制度・構造・人材不足の多層的要因

保育士不足が招く受け皿の機能不全

待機児童問題の根本にあるのは、「受け皿が足りない」という現実です。ここで言う「受け皿」とは、保育園などの施設だけでなく、そこで働く保育士やスタッフも含まれます。つまり、施設の定員は空いていても、保育士の数が足りなければ子どもを受け入れられないのです。

令和6年時点でも、多くの自治体が「保育士の確保が困難だったことが待機児童の発生につながった」と答えています。特に三重県四日市市や兵庫県西宮市、東京都世田谷区などの待機児童が多い地域では、保育士不足によって想定していた定員まで子どもを受け入れることができなかったという実態があります。

また、保育士の資格を持っていても実際に働いていない「潜在保育士」は全国に約100万人以上いるとされ、厚生労働省も復職支援や研修制度、職場環境の改善などの取り組みを行っています。それでもなお、保育士の離職理由には「人間関係」「業務負担の大きさ」「賃金の低さ」などが挙げられており、改善には時間と構造改革が必要です。

共働き世帯の増加とニーズの高度化

保育需要の増加には、社会の働き方の変化も影響しています。特に大きな要因は、共働き世帯の増加です。内閣府によると、2024年時点で共働き世帯の割合は全体の約75%に達しており、ほとんどの家庭で両親が仕事を持っている状態です。

これにより、保育園に子どもを預ける必要のある家庭が急増し、特に朝早くから夜遅くまで開いている施設、病児保育、休日保育など多様な保育ニーズが求められるようになっています。

しかし、これらのニーズに対応できる施設は限られており、施設が対応できないと「特定の園しか選べない=待機児童にカウントされない」状態になります。これは“隠れ待機児童”の一因ともなっています。

保育政策と統計の限界:「除外される現実」

前章でも触れたように、国の待機児童数の定義では「除外4類型」に該当する児童をカウントから外しています。以下のようなケースです:

除外されるケース実際の状況
特定の保育園のみ希望希望以外は通えない事情があっても「わがまま」とされ除外
求職活動を休止本来は仕事を始めたいが預け先がなく断念した人も除外される
育児休業中で復職日未定復職の意思があっても条件が整っていないと除外対象
認可外保育やベビーシッターなどを利用している利用せざるを得ない状況でも「入所している」とみなされカウント外0000140763

このように、制度上「見えない子どもたち」が非常に多く、実際の保育ニーズとのギャップが生じています。こうした見えない待機児童を含めた“潜在的待機児童”の実数は、公表値の数倍にのぼる可能性があると指摘されています。

地域ごとの偏在:保育が余る地方と足りない都市

都市部では人口集中や共働き率の高さから保育園のニーズが非常に高く、一方で地方では少子化の影響で施設の稼働率が下がっています。これは保育施設の「地域的ミスマッチ」とも呼ばれ、以下のような状態が見られます。

  • 東京都や埼玉県、滋賀県などでは90%以上の定員充足率だが、なおも待機児童が発生
  • 長野県や高知県などでは70%台の定員充足率でも、施設の維持が困難

このミスマッチは、単に施設の数を増やすだけでは解決しません。自治体ごとの人口動態、住宅開発、交通事情などを加味した、柔軟な保育行政が求められています。

構造的課題:制度の複雑さと行政の縦割り

日本の保育制度は非常に複雑です。保育園は厚生労働省、幼稚園は文部科学省、認定こども園は内閣府というように、複数の省庁が所管しており、制度の一元化が進みにくい構造になっています。

これにより、保護者がどの制度に申し込めばよいのか迷いやすくなり、また自治体の現場でも調整に多大な労力が必要です。2023年に発足した「こども家庭庁」はこうした縦割り行政の打破を掲げていますが、実効性はこれから問われる段階です。

6. 女性の就労支援とのバランス:保育はインフラか?

最後に見落とせない視点は、「保育とは何か?」という社会的な問いです。保育は単なる子守りではなく、女性の社会参加、少子化対策、子どもの発達支援といった複数の国家的課題と密接に関係しています。

保育の提供体制が整っていないということは、女性がフルタイムで働く選択肢を持てないことを意味します。これは経済成長にも影響し、国全体の生産性にもマイナスです。その意味で保育は「社会の基盤=インフラ」であり、長期的視点での政策投資が必要です。

待機児童対策と今後の見通し:制度・地域・現場が一体となった取り組みとは?

受け皿拡大と柔軟な保育サービス

待機児童問題への対策として、国は2001年から「待機児童ゼロ作戦」を皮切りに、複数の保育政策を展開してきました。その中でも近年の中心的な施策が「新子育て安心プラン」です。これは2021年度から2024年度までの4年間で約14万人分の保育の受け皿拡大を目指す国家戦略です20240830_policies_hoiku…。

ところが、2023年度の実績を見ると、受け皿の拡大量が6.4万人に対し、縮小量が7.2万人に達し、差し引きで0.8万人の縮小という予想外の結果となりました。これは、施設そのものが閉園したり、保育士不足により実質的に稼働できない施設が出てきたことが大きな要因です。

また、保育の多様化への対応として、以下のような新しい保育サービスも導入・支援されています。

  • 幼稚園の空き教室を活用した預かり保育の推進
  • 小規模保育や家庭的保育の定員上限を緩和
  • ベビーシッター利用支援(企業負担型の助成制度)
  • 「こども誰でも通園制度」(2026年4月から全国で給付化予定)

これらの取り組みは、保育施設に入れなかった家庭のニーズを柔軟にカバーするものとして、今後も重要性が増すと見られています。

地域密着型の対策と成功事例

国の支援だけでなく、自治体も独自に待機児童対策を進めています。特に都市部での待機児童対策は喫緊の課題であり、以下のような具体的な成功例があります。

東京都港区

  • 保育施設の空き部屋を活用して1歳児の定員を60人分拡大
  • 保育コンシェルジュ制度を導入し、保護者と施設のマッチングを支援
  • これにより、待機児童ゼロを達成

滋賀県守山市

  • 小規模保育施設を積極的に導入し、近隣住民との合意形成を図る
  • 保育士不足に対しては、地域内での合同研修と人材バンクを活用

こうした地域の取り組みは、全国のモデルケースともなりつつあります。特に、保育コンシェルジュなどの“人”による支援が効果的であることが再認識されています。

量と質の両立がカギ

保育士不足の解消なくして、待機児童問題の抜本的な解決は不可能です。そこで、国と自治体が連携して保育士確保に取り組んでおり、主に以下のような施策が実施されています。

  • 潜在保育士の復職支援(研修・支援金・就職斡旋)
  • 保育補助者の活用促進(30時間以下の勤務でも補助金対象)
  • ICT導入による業務効率化(書類作成、出欠管理の自動化)
  • 処遇改善加算による昇給・手当支給

また、最近では保育士の就労を後押しするために、保育士自身の子どもが優先的に保育園へ入れる制度を採用する自治体も増えてきました。保育士にとって働きやすい環境を整えることが、結果的に地域全体の保育力を高めるという好循環が期待されます。

少子化と働き方改革がカギを握る

待機児童の数が今後どのように推移していくかを考える上で、無視できないのが少子化と働き方の変化です。

まず、就学前児童数そのものが減少しているため、全国的な申込者数は減少傾向にあります。実際、保育の申込者数は2021年をピークに連続して減少しており、2024年には約2,797,199人にまで減っています20240830_policies_hoiku…。

ただし、女性の就業率は上昇傾向にあり、特に25〜44歳の就業率は2023年で80.8%に達しています。さらに、2024年10月からは社会保険の適用範囲がパート・アルバイトにも拡大されるため、これまで扶養内で働いていた人が労働時間を延ばし、保育のニーズが再び高まる可能性があります。

このように、単純な人口の減少がそのまま待機児童数の減少に結びつくとは限らず、労働政策と保育政策は密接にリンクしているのです。

データと政策の継続的な検証と柔軟性が必要

最後に重要なのは、「対策を打って終わり」ではなく、継続的なモニタリングと柔軟な方針転換です。たとえば、「待機児童ゼロ」を掲げた横浜市では、2013年にゼロを達成したものの、保留児童は依然として多数存在し、問題の“見かけの解決”にとどまっていたという反省があります。

これを教訓に、国や自治体は今後、

  • 待機児童の定義の見直し(除外4類型の再評価)
  • 地域別のニーズを可視化するデータの整備
  • 民間・企業との連携による新しい保育モデルの構築

といった、より本質的な改革に取り組む必要があります。

子どもを預けることが「特別なこと」じゃない社会へ

待機児童という言葉を聞くと、「保育園に入れない子どもがいる」というイメージを持つ方が多いと思います。でも、もう少し深く見ていくと、それは子どもだけの問題ではなく、保護者の働き方、保育士さんの環境、地域のあり方など、いろいろな要素が関わっていることがわかります。

たしかに、国の発表では待機児童の数はずいぶん減ってきました。でも、その一方で「数には入っていないけど、本当は保育が必要なのに預けられない」家庭がまだたくさんあります。希望する保育園がいっぱいで入れなかったり、そもそも働くための保育先が見つからなくて仕事を諦めたり……そんな声も決して少なくありません。

保育園に子どもを預けること。それが“特別な努力をしないとできないこと”になってしまっている今の状況は、本来あるべき姿ではないはずです。子どもを預けたいと思ったときに、安心して預けられる。保育士さんが疲れすぎず、やりがいを持って働ける。そんな環境が当たり前になる社会を、私たちは目指していかなければなりません。

この問題は、保護者だけでなく、地域や社会全体のテーマです。「うちは関係ない」と思う人もいるかもしれません。でも、子どもを育てることを、みんなで支え合える社会にすることは、きっと誰にとっても暮らしやすい未来につながります。

待機児童という言葉がいつかニュースから消える日が来るとしても、それは単に「数字がゼロになった」からではなく、「誰もが自然に子育てできる社会になったから」と言えるように——そんな未来を、少しずつでも形にしていけたらと思います。

参考資料

保育所等利用待機児童の定義(厚生労働省)
「新待機児童ゼロ作戦」について(概要)(厚生労働省)
令和6年4月の待機児童数調査のポイント(こども家庭庁)

この記事を書いた人

いまさら聞けない自治体ニュースの管理人。
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本業は地方創生をメインとする会社のマーケティング担当者。

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