ふるさと住民登録制度とは何か?
2025年、日本政府は「地方創生2.0」と呼ばれる新たな構想を打ち出しました。その中核を成すのが、「ふるさと住民登録制度」です。この制度は、住んでいない地域であっても、個人が継続的に関わっていれば、その地域の“住民”として登録される仕組みです。これは、これまでの「定住者=住民」という枠組みを柔軟に広げる、画期的な取り組みです。
この制度が目指しているのは、「地域との関わりの見える化」です。つまり、今まで漠然と存在していた「応援してくれる人たち」を、制度によって把握し、地域とつなぎ続けることができるようにするのです。
どんな人が「ふるさと住民」になるのか?
「ふるさと住民」とは、その地域に実際に居住していなくても、何らかの形でつながりを持っている人々です。
たとえば、大学進学や就職で都市に移ったものの、実家がある町をずっと応援し続けている人。あるいは観光で何度も訪れて、その土地の魅力に惹かれた人。テレワークを活用して月に数日だけ地方で働く人も、ふるさと住民になり得ます。
彼らは「住民票」は持っていませんが、「心の中ではそこに住んでいる」と言ってもよい存在です。そうした人々を制度によって“もう一つの住民”として迎え入れるのが、この「ふるさと住民登録制度」なのです。
想定している人物像
- 都市部に住んでいるが、実家がある地方に頻繁に帰省する人
- 過去に住んでいたことがあり、その地域を応援したいと思っている人
- 観光やボランティアで何度も同じ地域を訪れているリピーター
- 二拠点生活をしているフリーランスやリモートワーカー
- 地元産品を買ったり、ふるさと納税で応援したい人
アプリで簡単登録、そして“第2の住民票”が発行される
この制度の最大の特徴は、誰でも手軽に参加できる点にあります。登録は専用アプリを使って行われ、操作も非常に簡単です。ユーザーは、関わりたい自治体を選んで登録申請をすれば、自治体側が「登録証(第2の住民票)」を発行してくれます。
この「第2の住民票」は、自治体にとっては登録者とつながる手段であり、登録者にとってはその地域との絆の証となります。制度はすでに一部の自治体で試験的に始まっており、将来的には全国に拡大していく予定です。
制度の仕組みはどうなっているのか?
制度の基本的な流れは次のようになります。
- 登録希望者がスマホアプリから地域を選び、登録申請をする
- 自治体は登録証を発行し、ふるさと住民として認定する
- ふるさと住民は、イベント情報やボランティア募集、特産品の案内などを受け取る
- ボランティア活動、副業、観光、ふるさと納税などを通じて地域に貢献する
登録から情報提供、地域活動への参加まで、すべての流れが一本の線でつながっており、非常にシンプルかつ効果的な設計です。
この制度は「来てください」と一方的に呼びかけるのではなく、「関わってくれてありがとう」と応える構造になっていることが、従来の移住政策との大きな違いです。
なぜこの制度が今、必要なのか?
ここ数年、日本は深刻な人口減少と少子高齢化に直面しています。特に地方では若者が減り、担い手不足が地域の経済・医療・福祉など、あらゆる分野に影を落としています。東京などの大都市には人が集中しすぎて、住環境や教育、労働のバランスが崩れつつあります。
1. 地方の人口減少と少子高齢化
- 若者が都市部に集中し、地方では高齢者の割合が増加
- 労働力や担い手が不足し、地域の産業・医療・福祉などに支障が出始めている
2. 東京一極集中の弊害
- 都市に過剰な負担(通勤ラッシュ、住居不足、待機児童問題)
- 地方が活力を失い、地域経済も疲弊
そこで注目されたのが、「移住ではなく関与」という新しい形です。地域に定住してもらうのではなく、住まないけれども継続的に関わる人々、つまり「関係人口」を増やすことが、地方再生の鍵になると政府は判断しました。
ふるさと住民登録制度は、その“関係人口”を見える形にし、制度として整備することで、都市と地方が支え合う新しい社会構造を生み出そうとしているのです。
制度の仕組みをわかりやすく図解で読み解く
この制度の仕組みを以下のように整理できます。
- 登録者はスマホアプリから自治体を選び「ふるさと住民」に登録
- 自治体が登録証を発行(第2の住民票)
- 登録者に対して以下のような情報やサービスが提供される
- 地元のイベント案内
- 特産品販売、ふるさと納税の情報
- ボランティア・副業機会
- 登録者が地域に関与し、地域経済や担い手として貢献
- 地域にお金が落ちる(消費)
- 祭りや事業に参加する人が増える
- 二拠点居住や移住へのステップとなる
このように「呼び込む」ではなく「関わりを育てる」スタイルが、この制度の最大の特徴です。
本当に意味があるの?登録数だけが目的じゃない
政府は今後10年間で実人数1000万人、延べ1億人登録という目標を掲げています。これだけ見ると「数字稼ぎでは?」と疑いたくなる人もいるかもしれません。
しかし、実はこの制度の真の狙いは数字ではありません。重要なのは、「関係の質」です。
- 登録した人が実際にイベントに参加したか?
- 地元とのやり取りがどれだけ生まれているか?
- 地域の産業・行政がそれを受け止めているか?
こうした“つながりの中身”がどれだけ育つかが、制度の成否を分けるのです。
「関係人口」ってなに?
「関係人口」という聞きなれない言葉の正体
「関係人口(かんけいじんこう)」という言葉を聞いて、ピンとくる人はまだ少ないかもしれません。でもこの言葉、これからの日本の地方にとって、とても重要なキーワードです。
まず、一般的に「人口」といえば、その地域に住んでいる人の数(定住人口)を意味します。そして観光などで一時的に訪れる人は「交流人口」と呼ばれます。
その間にあるのが「関係人口」です。つまり、
住んではいないけれど、継続的に地域と関わっている人たち
これが「関係人口」です。
交流人口との違いは「継続性」と「深さ」
たとえば観光で温泉地を訪れて一泊するだけの人は、「交流人口」にあたります。でも、その地域が好きで毎年同じお祭りに参加したり、ふるさと納税を続けたり、地元のボランティアに参加している人は、明らかにただの観光客以上の存在ですよね。
この「交流人口」と「定住人口」の間にあるグラデーションこそ、「関係人口」のポイントです。
分類 | 地域との関係 | 関わり方の例 |
---|---|---|
定住人口 | 住んでいる | 生活、仕事、子育てなどすべて地域内 |
関係人口 | 関わり続けている | ボランティア、ふるさと納税、イベント参加 |
交流人口 | 一時的に訪れる | 観光、出張、買い物 |
つまり「関係人口」とは、「地元じゃないけど、地元のように思って関わってくれる人たち」のことなのです。
どんな人が「関係人口」になるの?
政府や総務省が想定している「関係人口」には、さまざまなタイプがあります。
出身地を応援したい都市在住者
大学や仕事の関係で都市に住んでいても、ふるさとのお祭りには毎年帰って手伝う。こんな人は関係人口そのものです。
二地域生活をしている人
週末だけ田舎に家を借りて滞在するような「二拠点生活者」。地元の草刈りを手伝ったり、イベント運営に関わるようになれば、まさに地域にとっての担い手です。
地域のリピーターやファン
ある特定の町や村が好きで、年に何度も訪れる人。観光というより、「顔なじみの地域」があるという感覚で、地域との絆を大事にしています。
遠隔副業ワーカー・テレワーカー
最近増えているのがこのパターン。普段は都市部のIT企業に勤めながら、地方自治体のプロジェクトにリモートで参加し、月に数回現地にも訪れるという副業スタイルです。
こういった人々を制度化して可視化するのが、「ふるさと住民登録制度」なのです。
なぜ「関係人口」を増やすことが重要なのか?
地方自治体にとって、最大の課題は人口減少と高齢化です。人が少なくなることで、地域経済が縮小し、病院・学校・バスなどのサービスも維持できなくなる恐れがあります。
そこで「関係人口」が果たす役割はとても大きいのです。
1. 地域経済を支える存在に
例えば、毎年特産品を購入してくれる人、観光で訪れるたびに地元のお店を利用する人、ふるさと納税で応援する人。これらすべてが、地域にとっての経済的支援者となります。
2. 地域活動の仲間に
お祭りの手伝いや、草刈り、空き家活用プロジェクト、子どもたちへの勉強支援など、地域で活動してくれる関係人口は、担い手不足の解消に貢献します。
3. 将来の移住候補に
関係人口として関わっているうちに、「いっそ引っ越そうかな」と思う人もいます。実際、二拠点生活から移住に至るケースも多く報告されています。
関係人口の成功事例に学ぶ
総務省発行の資料では、いくつかの成功事例が紹介されています。
- 宮城県気仙沼市「気仙沼ファンクラブ」
市外在住者を対象に、メールマガジンや店舗特典などで関係を継続。会員数は2万人以上。 - 新潟県南魚沼市「帰る旅」
何度も同じ地域に通い、宿泊施設を手伝うことで関係性を深める。宿泊費の免除特典もあり。 - 岐阜県山県市「副業マッチング」
都市部のIT人材が、商工会議所の業務支援をリモート+月数回の滞在で行う。副業報酬・旅費支給。
こうした事例からわかるのは、関係人口には多様なスタイルがあり、それぞれが地域にとってかけがえのない力だということです。
参考資料
「ふるさと住民登録制度」の創設について(総務省)
ふるさと住民登録のメリットと特典
登録すると何がうれしいの?
「ふるさと住民登録制度」は、ただ「名前を登録する」だけの制度ではありません。むしろ大切なのは登録することで何が得られるのか?という「メリット」と「特典」の部分です。
政府や自治体は、関係人口の人たちにとって「続けて関わりたくなるような特典」を用意しています。こうした特典があることで、関係が続きやすくなるのです。
それでは、具体的なメリットを見ていきましょう。
登録者にとっての5つのメリット
1. 地域の最新情報が届く
登録すると、イベント情報や特産品セール、観光案内などがスマホに届くようになります。たとえば、
- 収穫祭のお知らせ
- 地元のお祭りのライブ配信
- 限定の地元野菜セット販売
など、「応援したい地域の今」がリアルタイムでわかります。
2. 公共施設の住民料金での利用
自治体によっては、図書館、体育館、美術館などを地元の人と同じ料金で使える場合があります。これは「第2の住民」として認められているからこその特典です。
3. 特産品・お土産の割引や特別販売
ふるさと納税の案内だけでなく、登録者限定のネット販売、会員価格での地元産品提供もあります。お米や日本酒、伝統工芸品など、地元の魅力が身近になります。
4. 地域の人とのつながりができる
登録者向けに開催されるオンライン交流会、現地イベント、地域づくりワークショップに参加すれば、地元の人と直接つながることができます。
これがやがて「帰る場所」や「もうひとつのふるさと」になるのです。
5. 副業・ボランティア・滞在補助金などの案内が届く
自治体によっては、ふるさと住民を対象に副業案件やボランティア参加の募集情報を配信しています。また、短期滞在時の補助金制度なども利用できることがあります。
総務省資料にある4つの実例を詳しく見てみよう
【事例①】宮城県気仙沼市「気仙沼ファンクラブ」
- 会員数:約2万人(2025年時点)
- 特典:
- メールマガジンで地元の話題をお届け
- 会員証で店舗の割引、美術館の入館料が安くなる
- ポイント:出身者以外でも参加OK。気仙沼に「関わりたい」気持ちをカタチにできる制度
【事例②】新潟県南魚沼市「帰る旅」
- 取組内容:「帰る旅」として何度も地域に通い、宿の手伝いをすれば宿泊費が無料に
- ポイント:旅を通じて地域の人と信頼関係を築き、“帰る場所”としての関係を深める
【事例③】岐阜県山県市の副業マッチング
- 参加者:都市部IT企業の社員
- 内容:商工会議所の業務をITツール導入で効率化支援(月数回の勤務)
- 条件:
- 月に1回以上の滞在
- 月20時間以上の勤務
- 特典:報酬+旅費支給
- ポイント:副業というスタイルで、スキルを地域の役に立てられる001010766
【事例④】福島県「ふくしま×テレワーク支援補助金」
- 対象:福島県外の企業・個人事業主など
- 支援内容:
- 宿泊費、交通費、コワーキングスペース利用料などの補助
- ポイント:「少しだけ関わってみたい」を応援する制度。地方体験のハードルがぐっと下がる
登録しただけで満足?それでは意味がない
注意点として、「ふるさと住民」に登録しただけでは何も変わりません。特典を受け取り、地域と関わるには“能動的な関与”が求められるのです。
関係人口を「見える化」しても、それが単なる数合わせでは意味がありません。
- 登録者が実際に何をしたのか?
- 地域とのやり取りは生まれているか?
- 登録が続いているか?
こうした「関係の質」を高めることが、制度の価値を決めるのです。
地域側にもあるメリット
この制度で得をするのは登録者だけではありません。自治体にも以下のような大きなメリットがあります。
- 担い手不足の解消:イベントやプロジェクトに関係人口が加わる
- 経済的支援:ふるさと納税や特産品購入で地域収入が増える
- 移住・定住へのきっかけ:関係人口から移住者が生まれる可能性も
つまり、「ふるさと住民登録制度」は地域と都市の“ゆるやかな共存”を促す仕組みでもあるのです。
登録は“応援のサイン”、関わりは“未来の資産”
「ふるさと住民登録制度」は、関わる側にも地域側にも“得”になる関係づくりの仕組みです。ただの数字集めではなく、互いの想いと行動を重ね合わせるためのプラットフォームとも言えるでしょう。
登録するだけでも価値はあります。でも、実際に何かを始めてみると、それは単なる応援ではなく、あなた自身の「もう一つの居場所」になるかもしれません。
参考資料
「ふるさと住民登録制度」の創設について(総務省)