総務省が公開している、令和3年度および令和6年度の都道府県・政令指定都市普通会計当初予算に関する資料を基にコロナ禍(令和3年)とコロナからの回復時期(令和6年)を比較してみました。
「普通会計」って何だろう?
「普通会計」とは?
地方公共団体(都道府県や市町村)は、お金の出入りを管理するために大きくいくつかの会計を持っています。そのうち、自治体の基本的・一般的な仕事(学校や病院の運営補助、道路整備、上下水道以外のインフラ整備など)を扱うのが「普通会計」と呼ばれる部分です。
たとえば、水道などの事業は「企業会計」という独立した形で管理される場合がありますが、「普通会計」はそれ以外の仕事をまとめた主な会計だと思ってください。
当初予算とは?
自治体が1年間に使えるお金の「計画」=「予算」のうち、最初に決められるのが「当初予算」です。年度の途中でお金が足りなくなったり、足りすぎたりすると補正予算が組まれたりしますが、まずは4月から翌年3月までのおおまかな支出入をまとめたのが「当初予算」となります。
なぜ都道府県と政令指定都市をまとめているの?
日本国内では、都道府県(47自治体)と、特に大きな人口・面積を持つ「政令指定都市」(20市が該当します:札幌市、仙台市、さいたま市、千葉市、横浜市、川崎市、相模原市、新潟市、静岡市、浜松市、名古屋市、京都市、大阪市、堺市、神戸市、岡山市、広島市、北九州市、福岡市、熊本市)が存在します。いずれも人口・経済規模が大きく、独自の予算規模を持つため、国全体の地方自治体のお金の動きを見る際には都道府県と政令指定都市の情報が特に重視されています。
令和3年度資料と令和6年度資料の違いについて
- 令和3年度資料([引用:)では、コロナ禍への対応が本格化した時期であり、国からの特別交付金や地方創生臨時交付金などが予算に大きく影響しています。
- 令和6年度資料([引用:)では、コロナ禍から回復する動きがある一方、エネルギー価格や物価高騰への対応・支援策が盛り込まれており、財源確保のための「定額減税減収補塡特例交付金」や「減収補塡債」など、新しい仕組みが出てきています。
ここまでが「普通会計」や「当初予算」の基本的な考え方の紹介です。次のセクションでは、各資料に掲載されている主な数字や特徴を、もう少し具体的に見ていきましょう。

「令和3年度」予算の特徴
令和3年度当初予算の概観
「令和3年度資料([引用:)」には、都道府県と政令指定都市が発表した当初予算の合計値がまとめられています。主なポイントは以下のとおりです。
- 歳入(収入)面の大きな特徴
- 地方税:新型コロナウイルスの影響により、法人関係税の落ち込みが懸念されましたが、地域によって増減はさまざま。
- 地方交付税:自治体間の財源格差を埋めるための国からの交付税は、例年同様に大きなウェイトを占めています。
- 国庫支出金:国から特定の事業のために交付されるお金で、新型コロナへの対応として、大きく増減した項目が目立ちます(例:コロナ緊急包括支援交付金など)。
- 歳出(支出)面の大きな特徴
- 人件費:職員給・退職手当などを含み、自治体の大きな固定費。令和3年度は退職手当債の発行が一部の自治体で検討・利用されました。
- 普通建設事業費:道路整備や公共施設の建設・改修など、投資的経費にあたる部分。地方債を使って整備を進めるケースが多いです。
- 扶助費:高齢者や生活困窮者への福祉費用など。コロナ禍における生活支援の増加もあり、一部自治体では大きく伸びています。
新型コロナへの対応
令和3年度時点では、コロナ対策が最も大きなテーマでした。資料を見ると、新型コロナウイルス感染症緊急包括支援交付金や地方創生臨時交付金など、名前に「コロナ」または「臨時」とつく国庫支出金や特例交付金が各自治体の収入源に追加されています([引用:, p.19など多数ページで言及])。
令和3年度の地方債発行状況
- 地方債を発行する目的は、主に大型の公共事業(道路や橋の修繕・新設など)や財政不足に対応するためです。
- 臨時財政対策債:国の代わりに自治体が借金し、その後国が返済に必要な交付税を手当てする仕組み。令和3年度はコロナの影響で税収が大きく減ることが懸念され、財源不足を補うための「臨時財政対策債」発行額が増加した自治体が多い傾向でした。
ただし、実際にどの程度増えたかは自治体ごとに差があるため、表の数字を見ながら傾向を探る必要があります([引用:, p.22以降参照])。
まとめ
令和3年度当初予算は、コロナ対応が色濃く反映されており、国庫支出金や特例的な交付金・債の発行が注目を集めました。また、投資事業(建設事業費など)も、災害復旧やコロナ禍への景気刺激策として一定の金額が確保されていたことがわかります。
「令和6年度」予算の特徴
令和6年度当初予算の概観
次に「令和6年度資料([引用:)」の概要を見ていきます。令和6年度はコロナ対策からの出口を探りつつも、物価高騰やエネルギー価格上昇など、新たな課題が加わりました。
- 歳入面
- 地方税:コロナ禍からの経済回復を背景に、法人事業税など一部で税収の回復が期待されています。ただし原材料やエネルギーコスト上昇などで企業利益が圧迫されるリスクもあり、地域差が出る見込み。
- 定額減税減収補塡特例交付金:物価高対策として、定額減税が行われる場合、自治体の税収が減る分を国が特例交付金で補填する仕組みが導入されています。
- 減収補塡債:税収が思った以上に減ってしまう可能性がある自治体向けに、新しい債券が認められるケースがあり、いくつかの自治体で計上が見られます([引用:, p.24参照])。
- 歳出面
- 人件費:令和6年度は退職者が増える自治体も多いため、退職手当の見込みが令和3年度に比べて増加している例があります。
- 扶助費:高齢化や生活保護、少子化対策などに充当する費用が増えており、物価高への生活支援策も加わり、一部で大幅に増えているのが特徴です。
- 物件費:コロナ特例が終了あるいは縮小となり、消毒費や感染対策費の一部は減少する一方、物価高に伴う事務経費(燃料費・電気代など)の増加が見込まれます。
令和6年度の新しいキーワード
- 定額減税減収補塡特例交付金:大きな特徴のひとつで、物価高などの影響を緩和するため、実際に各家庭や企業への減税措置を行う際の「減った分の税収」を国がフォローします。
- 退職手当債:退職手当を地方債でまかなう手法で、短期的に大きなお金が必要になる退職金支払いに対処するための債券。令和6年度で新たに盛り込まれた例も見られます。
- 公共施設等適正管理推進事業債:施設の老朽化対策を計画的に行うための債券。自治体によって発行額の増減がありますが、インフラ老朽化が全国的に課題となっており、今後も継続利用される見込みです。
令和6年度の地方債
- 臨時財政対策債が大幅に減っている自治体もあり、令和3年度までのコロナ禍での税収落ち込みほど深刻には想定していない、という読み取りができます。
- 一方で、行政改革推進債や脱炭素化推進事業債など、新しい政策分野に対応する債券が増加していることが「令和6年度資料」からわかります([引用:, p.24-25参照])。
まとめ
令和6年度当初予算では、コロナ禍の落ち着きと物価高騰への備えが同時進行している状況が予算に反映されています。減収補塡特例交付金や退職手当債など、新しい仕組みがいくつか追加されている点が特筆されます。
引用:令和3年度 都道府県・政令指定都市 当初予算額(普通会計)
引用:令和6年度 都道府県・政令指定都市 当初予算額(普通会計)