地方公務員の「地域手当」とは?支給額や対象地域をわかりやすく解説

地方公務員の「地域手当」とは?支給額や対象地域をわかりやすく解説 地方行政

地方公務員として働くうえで、見落とされがちだけれど実は重要なのが「地域手当」です。
この手当は、勤務地の物価や民間の賃金水準に応じて、給与に上乗せされるしくみで、都市部と地方で支給額に大きな差があります。たとえば東京都特別区では20%の支給率がある一方、他地域では4%程度にとどまることも。
本記事では、「地域手当とは何か」「どの地域でいくら支給されるのか」「転勤した場合の扱いは?」など、制度の基本から注意点までわかりやすく解説します。

地域手当とは?

地域手当とは、勤務する地域の物価水準や民間の給与水準などを考慮して、公務員に支給される手当のひとつです。たとえば、東京や大阪のように物価や住宅費が高い都市で働く職員と、地方の物価の安い地域で働く職員が、同じ職種・等級でも同じ給与額では生活に大きな差が出てしまいます。この差を少しでも補うために設けられているのが「地域手当」です。

支給対象となるのは、原則として全ての常勤職員で、給与(俸給)とは別に毎月支給されます。支給額は、「基本給」や「扶養手当」などを合算した月額に、あらかじめ決められた支給割合(%)をかけて計算されるため、勤務地によって大きく変わります。

たとえば、同じ月給25万円の職員でも、東京都特別区に勤務すれば20%分=5万円の地域手当が上乗せされる一方、4%の地域では1万円しか支給されません。これだけで月収に4万円の差が出るわけです。

このように、地域手当は地方公務員の生活に直結する重要な給与要素であり、「どこで働くか」によって待遇が変わることを意味します。異動や転職を考える際にも、この手当を踏まえて検討することが大切です。

なぜ地域によって手当が違うのか?

地域手当が地域ごとに異なる理由は、主に「民間の賃金水準」と「生活コスト」の違いにあります。たとえば、東京都心と地方都市では家賃、食料品、交通費などの物価に差があり、それにともなって民間企業の給料水準も大きく変わります。

公務員は、民間企業の給与をベースに決められる「人事院勧告制度」によって給与が設定されています。したがって、地域手当も民間の給与とのバランスを保つために導入された制度であり、同じ仕事でも、勤務地によって支給割合を変えることで給与の「地域格差」を調整しています。

もうひとつの背景は、人材の確保です。たとえば、東京や大阪といった都市部では民間企業の給与水準が高いため、公務員として人材を確保するためには一定の待遇改善が必要です。地域手当は、そのための「誘因」としての役割も担っています。

実際に、東京都特別区などでは支給割合20%と最も高く設定されています。これは、都市部での生活コストや民間水準との格差を埋めるために、最も高い補填が必要とされていることを意味しています。

対して、地方圏では民間給与も相対的に低く、生活コストも安いため、地域手当は4~8%程度と低めに設定されている傾向があります。こうした地域差は、国全体のバランスをとるうえでも必要とされているのです。

とはいえ、「実際の生活費や家賃は地域内でも差がある」「自治体内でも地域によって負担が異なる」といった指摘もあり、今後の見直しが求められる部分でもあります。

参考資料
国家公務員の諸手当の概要(人事院)

支給額の決まり方

地域手当の支給額は、「どの地域で働いているか」「どれくらいの基本給をもらっているか」によって決まります。仕組みはシンプルで、以下の計算式に基づいて毎月支給されます。

支給額 =(俸給 + 扶養手当 + 一部の調整手当など)× 支給割合(%)

支給割合は勤務地によって異なり、たとえば次のような数値が設定されています。

地域区分(級地)主な地域支給割合
1級地東京都特別区20%
2級地東京都(特別区を除く)16%
3級地横浜市、大阪市、名古屋市など12%
4級地千葉県、兵庫県、福岡県など8%
5級地茨城県、広島県、静岡県など4%

たとえば、月額基本給が25万円で、支給地域が「1級地(支給割合20%)」であれば、
25万円 × 20% = 5万円が地域手当として上乗せされ、合計月収は30万円になります。

一方、同じ基本給で「4級地(8%)」の場合は、
25万円 × 8% = 2万円となり、月収は27万円にとどまります。

このように、勤務地の地域区分によって最大で数万円の差がつくため、実質的な給与を考えるうえで、地域手当は非常に重要な要素です。

また、地域手当は「賞与(期末・勤勉手当)」の計算にも影響します。賞与の支給額は、基本給+地域手当+その他手当の合計額をもとに算出されるため、手当の高い地域で働くほど、ボーナスも多くなります。

ただし、支給割合は人事院規則により変更されることがあるため、将来的な変動リスクも念頭に置いておく必要があります。特に、制度見直しのタイミング(現在は令和10年3月末までの経過措置あり)では、支給水準に修正が入ることもあります。

級地とは?全国の地域区分一覧

「級地(きゅうち)」とは、地域手当の支給割合を決めるために、全国をいくつかのグループに分類したものです。人事院によって定められており、それぞれの地域が1級地から5級地に振り分けられています。級地の数字が小さいほど、物価や民間賃金水準が高く、それに応じて支給割合も高くなっています。

以下は、令和7年(2025年)4月時点の代表的な級地の例と支給割合です。

級地支給割合主な該当地域
1級地20%東京都特別区(23区)
2級地16%東京都(23区以外)
3級地12%横浜市、大阪市、名古屋市、さいたま市、千葉市など
4級地8%千葉県、兵庫県、広島県、福岡県、静岡県など
5級地4%茨城県、栃木県、三重県、奈良県など

たとえば、同じ「兵庫県」でも、神戸市(3級地)と他市町(4級地)で支給割合が異なる場合があります。これは都道府県単位ではなく、市区町村単位での物価や民間給与水準を考慮しているためです。

この「級地」の情報は、各自治体の給与条例や職員向けの人事通知などに記載されており、地域手当の根拠にもなっています。採用試験の受験者や異動予定の職員は、自分が配属される(された)地域がどの級地にあたるかを確認することで、見込まれる地域手当の額を事前に把握することができます。

なお、級地区分や支給割合は固定ではなく、数年ごとに人事院の見直しが行われることがあります。そのため、同じ地域に勤務していても将来的に支給額が変わる可能性がある点にも注意が必要です。

異動保障とは?転勤後も地域手当が続く?

地域手当は、勤務地の物価や民間給与水準に応じて支給されるため、転勤や異動によって支給割合が大きく変わることがあります。とくに、高支給地域(例:東京都特別区20%)から低支給地域(例:4%)へ異動すると、給与が大幅に減少する可能性があります。

このような急激な収入変動を緩和するために設けられているのが「異動保障」と呼ばれる制度です。

異動保障の仕組み

異動保障とは、高支給割合地域から低支給地域へ異動した場合でも、一定期間は以前の地域手当を段階的に引き下げて支給する制度です。

具体的には、以下のように支給割合が3年間にわたって徐々に減っていきます。

年数支給割合の扱い
1年目旧勤務地の支給割合と同じ
2年目旧勤務地の支給割合 × 80%
3年目旧勤務地の支給割合 × 60%
4年目以降新勤務地の支給割合に完全移行

たとえば、東京都特別区(20%)から広島県(8%)に異動した場合、次のように推移します:

  • 1年目:20%のまま支給
  • 2年目:20% × 80% = 16%
  • 3年目:20% × 60% = 12%
  • 4年目以降:正式に8%へ

この制度により、職員は生活設計にある程度の余裕をもって対応でき、異動にともなう収入の急減を避けることが可能になります。

異動保障の対象

異動保障はすべての異動に適用されるわけではなく、「6か月を超えて勤務した地域から異動した場合」などの条件があります。つまり、短期間の出向や研修などによる異動では対象外となることもあるため、詳細は所属自治体の人事規程を確認する必要があります。

逆パターン(低支給地域→高支給地域)

なお、低支給地域から高支給地域へ異動した場合には、異動後すぐに新しい地域の支給割合が適用されます。この場合、地域手当は即座に増えるため、異動による収入アップが見込まれるという逆のパターンも存在します。

地方公務員と国家公務員で制度は違う?

地域手当の仕組みは、地方公務員と国家公務員で大枠は共通していますが、実際の運用や支給割合、対象地域には違いがあります。ここでは、両者の制度の違いについてわかりやすく整理してみましょう。

共通する基本の仕組み

まず、両者に共通しているのは以下の点です:

  • 地域の物価や民間賃金水準に応じて手当を上乗せする仕組みであること
  • 支給割合は「級地」という地域区分によって決まること
  • 手当は毎月支給され、賞与(期末・勤勉手当)にも影響すること
  • 異動による収入の急減を避ける「異動保障」制度があること

このように、根本的な制度設計は国も地方も似ています。これは、地方公務員の給与制度が国家公務員の制度をベースに作られているためです。

実は違う「支給地域」と「割合」

しかし、実際には違いも多く、特に次のような点が異なります:

  • 支給地域の細かさ:国家公務員は全国の府省庁に一律の基準が適用されますが、地方公務員は自治体ごとに支給地域や割合を独自に定めていることが多く、同じ県内でも市町村によって支給状況が異なる場合があります。
  • 支給割合のばらつき:国家公務員の地域手当は1級地〜5級地と決まっていますが、地方自治体ではそれに準拠しつつも、10%や15%など独自の割合を設定している例もあります。
  • 条例による差異:地方公務員の給与は「条例主義」によって運用されており、各自治体が議会で決定した給与条例に基づいて支給されています。そのため、同じ地域にあっても「都道府県職員」「市町村職員」「教育委員会職員」で支給基準が異なることがあります。

例:東京都のケース

たとえば、東京都の特別区職員(区役所職員など)は国家公務員と同様に「1級地」で20%の地域手当が支給されています。一方、東京都下の市町村職員は16%またはそれ以下と設定されている場合もあり、都内であっても差が出ます。


このように、同じ「公務員」というくくりでも、国家と地方では実態が異なります。自分の所属先の給与条例や人事情報を確認することが、正確な手当額の把握には不可欠です。

地域手当の課題と今後の見直し

地域手当は、公務員の給与制度の中で地域格差を調整する重要な仕組みですが、いくつかの課題や改善の余地も指摘されています。ここでは、制度の問題点と今後の見直しの方向性について解説します。

課題①:地域内の格差が見えにくい

地域手当は、基本的に「市区町村単位」で一律の支給割合が設定されていますが、同じ自治体内でも生活コストや通勤費、住宅事情には大きな差があります。たとえば、東京都の中でも中央区と多摩地域では家賃相場や生活費に差がありますが、手当の支給割合は同じです。

このように、「地域手当では実態を十分にカバーしきれていない」という声が現場から上がることもあります。

課題②:物価や経済状況の変化に追いつかない

現在の地域手当の支給割合は、人事院が定める「級地区分」に基づいて数年ごとに見直されますが、急激な物価上昇や地価変動には対応が遅れる場合があります。

たとえば、観光地化によって家賃が急上昇している地域や、災害後に住宅供給が絞られた地域では、手当が現実に追いついていないことがあります。

課題③:人材確保の観点での見直しニーズ

地方自治体にとっては、人材確保の観点から「地域手当を強化したい」というニーズもあります。特に、若手人材の流出を防ぐために、都市部と競合できる待遇を用意したいという事情があります。

一方で、財政的に余裕がない自治体では、地域手当の引き上げが難しく、結果として「待遇面で魅力を出せない」というジレンマを抱えています。

今後の見直し方向

現在、令和10年(2028年)3月31日までは人事院規則による経過措置期間とされており、それ以降の運用ルールについては見直しが検討されています。この見直しでは、以下のようなポイントが議論の対象になると考えられます:

  • 細分化された級地制度の再編成
  • 柔軟な手当設定(範囲や割合)の導入
  • 物価・地価のリアルタイム反映
  • 離島・へき地への特別加算の拡充

実際に、一部の自治体では「地域手当に加えて住宅手当や通勤手当の上乗せ」など、独自のインセンティブ制度を導入しており、今後はこうした柔軟な運用が全国的に広がる可能性もあります。

参考資料
国家公務員の諸手当の概要(人事院)

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