旧優生保護法補償金の概要と背景
そもそも旧優生保護法とは何だったのか
旧優生保護法(きゅうゆうせいほごほう)は、1948年から1996年まで存在した法律で、当時の目的は「不良な子孫の出生を防止する」というものでした。ここで言う「不良な子孫」とは、障害や病気などを持つ人たちが産む子どもを指す、といった差別的な考えが含まれていました。具体的には、本人の同意がなくても不妊手術を行える(強制不妊手術)内容が含まれており、多くの人権侵害を引き起こしたとされています。
旧優生保護法では、障害や特定の病気をもつ方々が対象となり、またはその疑いがあるだけで、不妊手術(子どもが産めなくなる手術)や人工妊娠中絶が行われたケースがありました。これらが、のちに大きな問題として表面化し、「国は憲法違反の制度を作っていたのではないか」という指摘にまで発展しました。
- 参照データ
- こども家庭庁「旧優生保護法補償金等に係る特設ホームページ」
https://www.cfa.go.jp/kyuyusei-hoshokin
- こども家庭庁「旧優生保護法補償金等に係る特設ホームページ」
なぜ新しい法律(補償金等支給法)が必要になったのか
その後、多くの被害者や支援者たちが「当時の不妊手術が違法だった」として国を相手に訴訟を起こすようになりました。そして、2024年(令和6年)7月3日、最高裁判所は「旧優生保護法の規定は憲法違反であり、国に損害賠償責任がある」という判決を言い渡しています。
これを受け、国会では迅速な被害救済が必要との考えから、2024年10月8日に「旧優生保護法補償金等支給法」(正式名称:旧優生保護法に基づく優生手術等を受けた者等に対する補償金等の支給等に関する法律)が成立。同年10月17日に公布され、2025年(令和7年)1月17日に施行されました。
この法律は、旧優生保護法のもとで不妊手術や人工妊娠中絶を強いられた方々に対して、**「国が謝罪と補償を行う」**という、過去の過ちを認める形で成立したものなのです。
- 参照データ
- こども家庭庁「旧優生保護法補償金等支給法 概要」
https://www.cfa.go.jp/kyuyusei-hoshokin - 各都道府県HP(例:千葉県、埼玉県、徳島県など)にも同法施行の情報あり
- こども家庭庁「旧優生保護法補償金等支給法 概要」
誰が対象になるのか
法律の対象者
(1) 不妊手術を受けた本人
- 昭和23年(1948年)9月11日から平成8年(1996年)9月25日までの間に、旧優生保護法の規定で不妊手術(優生手術)を受けた方。
- このとき、本人の同意がなかった(強制)・医師や親による申請があったなど、実際に自分の意思とは関係なく手術を受けた人も含まれます。
(2) 特定配偶者
- 不妊手術を受けた「本人」と結婚(事実婚含む)していた人、あるいは手術が原因で離婚した人などが該当します。
- 「手術日から2024年10月16日までの間に結婚していた」「手術前に離婚したが、その離婚原因が優生手術だった」など、国に書類で認められれば支給対象になります。
(3) 上記(1)か(2)の方がすでに亡くなっている場合
- 配偶者や子・父母・孫・祖父母・兄弟姉妹・甥姪など、法定で定められた優先順位の近しい親族が「遺族」として請求することができます。
ポイント
- どんな方でも自動的に支給されるわけではなく、「請求手続き」が必要。
- 書類が見つからなくても自分で証拠を集めて申請できる仕組みになっています。
- 参照データ
支給の種類
この新しい法律では、主に3種類の「支給金」が用意されています。
- 補償金
- 不妊手術を受けた本人:1,500万円
- 特定配偶者:500万円
- 過去に国や自治体から損害賠償を受け取っていても、差額があれば追加支給があります。
- 優生手術等一時金
- 不妊手術を受けた本人(生存している人):320万円
- すでに(1)の補償金をもらっていても、こちらも受け取ることができます。
- 人工妊娠中絶一時金
- 中絶を強いられた方(生存している人):200万円
- ただし、すでに「優生手術等一時金(上記2番)」をもらった人は受け取れません。
- 参照データ
請求の流れと手続き
いつからいつまで請求できるの?
- 請求受付の開始は 2025年(令和7年)1月17日(法律の施行日)。
- 請求期限は施行日から5年後の 2030年(令和12年)1月16日までです。
つまり、2025年1月17日~2030年1月16日までに、書類をそろえて請求しないといけません。期限を過ぎると原則請求できなくなるので、できるだけ早めに相談することが重要です。
どんな書類が必要?
主に以下の書類を、住んでいる(居所をおいている)都道府県に提出します。
- 請求書(本人か遺族か、または特定配偶者かによって書式が異なる)
- 本人確認書類(住民票や運転免許証など)
- 通帳やキャッシュカードのコピー(振込口座を確認するため)
- 診断書
- 不妊手術跡があるかどうかの医師による診断、もしくはその費用の領収書など
- ただし、すでに別の一時金を受け取っている場合などは不要の場合あり
- 遺族が請求する場合
- 死亡した本人と自分の続き柄がわかる戸籍や除籍謄本
- 先順位の親族がいないことを示す資料
ほかにも、過去に不妊手術や中絶手術が行われたという証明になる書類(医療機関の記録、自治体の公文書など)があれば提出すると認定がスムーズになります。見つからない場合には、親戚の証言なども参考にされます。
弁護士によるサポート制度
「どんな手続きが必要か分からない」「自分で書類を揃えるのが大変」という方向けに、国から派遣された弁護士が無料でサポートしてくれる事業があります。
自治体の窓口か専用ダイヤルへ「弁護士サポート希望」と伝えれば、無料でサポートが受けられます。
この法律の意味と今後の課題
この法律がもたらす意義
- 国の謝罪と責任の明確化
旧優生保護法は、当時の社会背景や国の方針とはいえ、本人の意思に反して障害のある人々などへ不妊手術を行った大きな人権侵害です。その責任を国として正式に認め、謝罪の言葉を法の前文に明記しました。 - 賠償に近い形での補償金
2024年の最高裁判決で「憲法違反」と認定されたことで、損害賠償責任が国にあるとされました。今回の補償金等支給法は、迅速に被害を救済するための特別措置ともいえます。
実際の請求・認定のハードル
- 証拠書類の散逸
昔の公文書やカルテが破棄されている場合も多く、被害を受けた方が「自分は確かに手術を受けた」と証明しづらい状況があります。 - 高齢化・時間切れ
不妊手術や中絶手術を受けた時期が古いため、当事者やその家族がすでに高齢になっているケースが多いことから、早期に情報提供・相談をしないと**請求期限(2030年1月16日)**を逃してしまう危険があります。
今後の課題と再発防止
- 差別や偏見をなくす社会づくり
旧優生保護法の背景には、障害や病気のある人に対する差別的な考え方が存在しました。再び同じ過ちを繰り返さないためには、すべての人の尊厳を尊重し合う社会が不可欠です。 - 真の意味での救済を
補償金の支給は一歩前進ですが、「お金の補償だけで十分とは言えない」との声もあります。強いられた手術による心身の傷は大きく、当事者や家族が受けた苦しみを癒すにはさらなる支援や社会的理解が必要です。
私たちはどうすればいい?
旧優生保護法補償金等支給法は、過去に国が行ってきた人権侵害行為を正式に認め、被害者へ補償と謝罪を行うという、とても大きな社会的意義があります。一方で、高齢化などの理由もあり、多くの方々は自分が補償を受けられるのか分からずに困っている可能性もあります。もし該当すると思われる方やご家族がいれば、以下を検討するとよいでしょう。
- まずは相談窓口へ
お住まいの都道府県の窓口に連絡すれば、担当者が書類の準備方法や弁護士サポートの案内をしてくれます。 - 証拠がなくてもあきらめない
古いカルテや書類が見つからなくても、親族・友人の証言など、少しずつ事実を集めることで審査に進めます。 - 時間に余裕をもって請求を
請求期限は2030年1月16日までと決まっています。期限を過ぎると補償を受けられないので、少しでも心当たりがあれば、早めに行動しましょう。
この法律は、差別や偏見がもたらす苦しみがどれほど大きいかを私たちに示す、重要な一歩です。 お金の問題だけでなく、過去の歴史を反省し、今後は誰もが自分らしく生きられる社会を作るきっかけにすることが大切です。