大阪・関西万博開催の開催を控え、訪日外国人(インバウンド)の拡大が見込まれるため、入管と税関検査を一括で行えるシステムを導入すると発表。手続き時間の短縮や混雑解消の効果が期待されます。
日本の入管・税関手続きの背景
日本に海外から入国するときや、日本を出国して再入国するときには、必ず「入管(出入国在留管理庁)」と「税関(財務省関税局)」の審査を受ける必要があります。これらは安全保障や治安維持のために必要な手続きですが、実際に旅行者の立場から見ると、「飛行機を降りてから入国審査場へ向かい、さらに税関で書類を提出して質問を受ける」という二段構えのフローは、時間や手間がかかるという問題点がありました。
特に近年は、新型コロナウイルス感染症の影響による一時的な入国制限の反動もあって、インバウンド(訪日外国人観光客)や海外旅行をする日本人旅客が世界的に再び増える傾向にあります。日本政府としては、ビジネスや観光で来日する外国人を迅速に受け入れつつも、水際対策として厳格な管理を行う必要があり、入管・税関の両面での効率化をどう実現するかが大きな課題となっていました。
そこで注目されているのが、今回導入される「入管と税関手続きワンストップ」という新しいシステムです。これは、従来は別々に行われていた入管手続(パスポートや指紋・顔写真の確認、在留資格の判定など)と、税関手続(免税範囲超過の物品や持ち込み禁止品の有無などをチェックするための申告)を、一つのキオスク端末を介して一括で行うという仕組みです。
たとえば、空港に降り立った外国人が最初に通るのは入国審査場ですが、この新システムでは、入国審査前の流れの中で「共同キオスク」という端末にパスポート情報と二次元コードをかざし、顔写真を撮影して本人確認を行い、同時に税関申告まで済ませることができます。従来は入管で並んで審査を受け、また別の場所で税関検査場へ行き、別の申告書を出す……という流れでしたが、これがワンストップ(ひとまとめ)になることで、時間の短縮や手間の軽減が期待されています。
すでに、羽田空港(第2ターミナル)では一部試験導入を行い、約1万3000人の利用実績を調べた結果、飛行機を降りてから入国審査・税関を通過するまでの時間が平均で約2分間短縮されたという報告があります。2分と聞くと短いようですが、入国ラッシュ時には長蛇の列ができるため、混雑度合いや利用者数全体で見れば大きな効果です。2025年4月1日から、羽田・成田・関西の3つの大空港で本格導入されることが決定し、その後は福岡空港など他の主要空港へも段階的に広げる方針が示されています。
参考資料
各空港(ターミナル)における運用開始時期等(出入国在留管理庁)
実際のニュース報道では、システムを利用した外国人旅行者から「(パスポートの)コードを当てるだけで手続きできたので便利だった」という声が上がっている一方、「もっとシステムの周知をしてほしい」という国内利用者の声も報じられています。システムが新しいだけに、旅行者が事前にオンライン登録を済ませないとスムーズにワンストップ手続が活用できないケースもあるため、利便性を最大化するにはしっかりと告知を行うことが大切です。
また、日本人旅行者の場合でも、帰国時には「入国(帰国)審査」と「税関申告」が必要でしたが、今回のシステムを使うと、パスポートのICチップと顔写真認証による“ウォークスルーゲート”に通るだけで、別途申告書を記入・提出することなく簡単にゲートを通過できる可能性があります。ただし、荷物の中身によっては依然として係員による確認(有人検査)が必要な場合もあるので、「すべて手続きが省略される」というわけではありません。
とはいえ、日本を訪れる外国人や海外からの帰国者にとって、入国までの流れが簡略化されるという点は大きなメリットといえます。次の章では、具体的な仕組みや運用の詳細を見ていきましょう。
新システム「入管と税関手続きワンストップ」の概要と仕組み
共同キオスクとは何か
「共同キオスク」という端末は、旅券情報や顔写真・指紋、税関への申告情報を同時に取得するための装置です。空港の入国動線上、具体的には降機後に入国審査場へ向かう途中などに設置され、オンライン事前登録(Visit Japan Web)をしている旅行者であれば、キオスク端末にて入管・税関に必要な情報を1回の操作でまとめて登録できます。
この「Visit Japan Web」はデジタル庁が提供するウェブサービスで、スマートフォンやPCから事前に必要な個人情報(パスポート番号や渡航情報など)を入力しておくことで、キオスク端末での手続きがシンプルになるという仕組みです。申告が必要な物品の有無などもWeb上で入力しておくため、紙の「携帯品・別送品申告書」を書く手間が減り、空港での滞在時間が短縮されるメリットがあります。
具体的な流れ
- 事前準備(オンライン登録)
渡航前に「Visit Japan Web」にアクセスし、パスポート情報やフライト情報、税関の申告内容を入力・登録。すると専用の二次元コード(QRコード等)が生成される。 - 共同キオスク端末での受付
日本到着後、共同キオスク端末に行き、登録済みの二次元コードをかざす。端末の案内に従ってIC旅券を読み取らせ、顔写真や必要に応じて指紋(外国人の場合)の撮影を行う。ここで、入管・税関に必要な情報を一括して提供し終える。 - 入管審査
- 日本人の場合: 共同キオスクでの処理を終えた後は、ウォークスルーゲート(WTG)か顔認証ゲートへ向かう。WTGのあるターミナルでは、立ち止まらずに歩きながら顔認証が行われるため、従来のように係員の前でパスポートにハンコ(スタンプ)を押してもらう手続きは原則不要となる。
- 外国人の場合: 共同キオスク利用者専用の入国審査ブースが用意されており、列の混雑が少ない形で入国審査を受けられる。通常よりスピーディーに手続きが完了する。
- 税関検査
共同キオスクで申告情報を送信し終えているため、もし免税範囲を超えないなど追加審査不要と判断された場合は、そのまま顔認証ゲートを通過して終了。申告が必要な場合でも、端末で入力済みなので口頭での確認や荷物検査が行われるが、書類の記入や提出を省略できる可能性が高い(ただし、状況によっては有人検査ブースに回されることもある)。
以上のステップを踏むことで、一度に提供した情報を入管と税関の両方が共有・確認できるため、別々の場所での重複した手続きが大幅に削減されるのです。
参考資料
税関・入管における「共同キオスク」の概要(出入国在留管理庁)
運用開始スケジュール
この新システムは、羽田空港・成田空港・関西国際空港の計3空港を対象に、2025年4月1日から順次導入される予定です。すでに羽田第2ターミナルで試験導入がされ、成田空港第3ターミナルや関西空港でも段階的に端末が設置されます。
特に関西空港では大阪・関西万博を2025年に控えており、大量の海外からの来訪者をスムーズに処理する必要があります。そこで端末の数を大幅に増やし、年間を通じて大きな混雑が想定される時期でも対応できるようにする方針です。
なお、将来的には福岡空港など他の主要空港にも拡大される見通しで、最終的には日本の主要な国際空港の多くでワンストップ手続きが可能になると期待されています。
導入の効果と利用者の声
時間短縮・混雑緩和の効果
すでに羽田空港の一部で試験運用された結果、入国手続きの平均所要時間が約2分短縮されたとの報告があります。2分というと、一見するとさほど大きくないように感じるかもしれませんが、海外からの便が一斉に到着するピークタイムには入国審査場や税関検査場が非常に混み合います。そのようなタイミングで少しでも流れが速くなると、乗客全体の待ち時間が累積的に減少し、大きな混雑緩和が期待できます。
試験的にシステムを利用したドイツ人女性のコメントとして、「コードを当てるだけだったので便利だった」との声があり、紙の書類を何度も書く負担や、英語・日本語の両方で書類を理解する必要がある不便さが改善されたと考えられます。外国語に不慣れな旅行者にとって、オンラインであらかじめ入力しておけることは大きなメリットです。
日本人旅行者の場合も、帰国時に電子申告ゲート(税関Eゲート)を使えば申告書を紙で提出する必要がなくなります。IC旅券と顔認証を使って通過できるため、急いで乗り継ぎをしなければならないときなどに大幅に利便性が増すでしょう。こうした「ストレスフリーな入国」の実現は、日本が国際競争力を高めるうえでも重要視されています。
旅行者側からの課題と要望
一方で、日本人利用者の声として、「システムのことをもっと周知してほしい」という意見も出ています。事前登録型のシステムは、あらかじめ情報を入力しておかないと効果が半減してしまいます。空港で初めて「何これ?」となってしまうケースだと、結果的にワンストップ化のメリットを享受できず、手続きに時間がかかったり別の列に回されたりする可能性があります。
また、すべての旅行者がスマートフォンを使いこなしているわけではありません。高齢の方やデジタルに不慣れな方には、オンライン登録の手順そのものが難しいという課題があります。こうした層に向けては、空港でのスタッフによるサポート体制や、より簡単な案内ツールの整備が求められます。
さらに、「紙のスタンプが欲しい」という旅行者の声も根強くあります。日本の出入国スタンプは思い出としてコレクションしている方も多く、完全に電子化されると「旅行の記念がなくなる」という観点から反対の声があるのも事実です。こうした細かな観光客の満足度向上の点も考慮しながら、紙のスタンプを希望する人向けにオプションを残すなどの工夫が今後検討されるかもしれません。
入管・税関の厳格性と利便性のバランス
日本政府は、コロナ禍で実施した厳格な水際対策の実績も踏まえ、「安全確保と利便性の向上を両立する」ことを強調しています。入管ではテロ対策や不法滞在防止、税関では密輸の摘発など、セキュリティ上非常に重要な役割を担っています。
ワンストップ化が進むと、一見すると「手続きが雑になるのでは?」と不安を抱く方もいるかもしれませんが、実は顔認証技術の導入などで精度が上がり、ヒューマンエラーによる見落としを減らす効果も期待されています。
必要に応じて有人ブースに振り分ける仕組みは残されているため、危険物や不正入国のリスクを軽視しているわけではないことも重要なポイントです。
羽田・成田・関西以外への展開
2025年には大阪・関西万博が開催される予定です。それに合わせて関空での導入を充実させるのはもちろん、今後はさらに福岡空港や中部国際空港(セントレア)など、日本の主要な玄関口へも順次システムが導入されていく見込みです。これまで訪日旅行客が集中しがちだった大都市圏だけでなく、地方空港にも導入が進めば、日本各地へスムーズに旅行できる環境が整備されるでしょう。
利用者の声をフィードバックしながら、より直感的に操作できる端末設計や、多言語対応の充実化なども進めていくとのことです。次の第4章では、今後の課題やさらなる展開、そして海外の事例や日本独自の強みを踏まえつつ、ワンストップ手続きの将来像を考えてみます。
今後の展開と課題 – さらなる発展のために
デジタル化のさらなる促進
「入管と税関手続きワンストップ」は、まさにデジタル技術を活用した行政サービス向上の象徴といえます。今後はマイナンバーカードなどの国内向けIDシステムとの連携や、海外でも一般的になりつつある「バイオメトリクス認証(顔、虹彩、指紋など)」の高度化によって、空港の手続きがさらにシームレスになる可能性があります。
たとえば、将来的には搭乗手続きから入国までを一貫して顔認証で行えるシステムが構築されれば、“顔パス” のようにスムーズな旅行体験が実現できるでしょう。日本だけでなく、米国や欧州の主要空港でも同様の試みが進行中であり、国際標準化の動向とあわせて検討が必要です。
個人情報保護の重要性
一方で、個人情報を大量に取り扱うという観点から、セキュリティやプライバシー保護の強化が欠かせません。顔写真や旅券情報、税関申告情報などが不適切に扱われると、個人の権利侵害につながる恐れがあります。国や空港管理会社は、運用にあたって厳格な情報管理システムと監査体制を整備することが求められます。
現行のルールでは、撮影した顔写真や指紋データは本人確認のための照合が済むと速やかに削除されるなど、用途限定で運用されることになっています。今後利用範囲を拡大する際にも、利用目的の明確化と適正な保存期間の設定などがますます重要となるでしょう。
利用者教育・周知徹底
前章でも触れたように、事前登録(Visit Japan Web)が利用のカギとなります。そのためには、航空券の予約段階や旅行代理店の案内、旅行会社のサイト、在外公館(日本大使館・領事館)など、さまざまな窓口で分かりやすく告知する必要があります。そうしなければ、せっかく新システムを導入しても、実際には「使い方が分からない」「知らなかった」という旅行者が多く、行列解消に繋がらない恐れがあります。
さらに、トラブル対応の観点から、空港には多言語対応が可能なスタッフや臨時の案内デスクを配置するなどして、想定外の不具合や入力ミスに対して柔軟にサポートできる体制を築くことが望ましいでしょう。特に大規模イベント(万博やオリンピックなど)の時期には、通常とは比べものにならない数の旅行者が訪れるため、システム・人員ともに冗長性を確保することが求められます。
海外事例との比較
欧米やアジアの大規模ハブ空港では、すでに電子ゲートやオンライン申告を取り入れている事例が増えています。たとえばシンガポールのチャンギ空港では、入国審査から出国手続きまで大幅に自動化されており、国際線トランジット客にも短い乗り継ぎ時間を提供できる仕組みが整っています。
日本の場合も、今回の「共同キオスク」の導入が進めば、海外と同レベル、あるいはそれ以上の利便性を確保できるようになる可能性があります。さらに、日本特有のきめ細やかなサービスや安全性の高さをアピールできれば、世界の空港競争のなかでも優位性を打ち出すことができるでしょう。
まとめと展望
「入管と税関手続きワンストップ」は、日本の空港を利用するすべての人にとってメリットがある革新的なシステムです。オンライン事前登録とバイオメトリクス認証の活用により、手続きの迅速化と安全性を同時に達成しようとする動きは、今後ますます注目されるでしょう。
利用者としては、出発前に事前登録をしっかり行い、空港では案内表示に従って端末を操作することで、最速かつ最もスムーズな入国(または帰国)が可能となります。逆に、事前準備を怠ると、従来通りの長い行列や複雑な書類記入が必要になるケースもあるため、「いかに周知を徹底するか」が成功のカギです。
今後、実際に導入が進むにつれて、現場での運用データや利用者フィードバックが集まります。そのデータを基に新たな改善策を講じ、さらに効果的な「ワンストップ手続き」を目指すことで、日本の空港全体のサービス品質が引き上げられるでしょう。2025年の大阪・関西万博に向けて、国や地方自治体、空港運営会社などが連携し、世界中からの旅行者をスムーズに迎え入れる環境を整えていくことが期待されます。
今後、海外旅行へ行く人や日本に観光で訪れる外国人にとって、このシステムが当たり前になっていく可能性があるため、ぜひ導入状況や使い方を注視してみてください。
もし追加の情報や確認事項が出てきたら、国土交通省、財務省税関、出入国在留管理庁の公式サイトや、旅行代理店・航空会社などの案内をチェックしてみるとよいでしょう。また、Visit Japan Webの登録手順や操作方法は各省庁・関連サイトで公開されているため、旅行前に事前学習しておくと安心です。
日本を行き来するすべての人にとって、より快適で安全な旅の実現につながることを願っています。