2025年5月に成立が進められている年金制度改革法案。その中でもとくに注目されているのが「遺族年金」の見直しです。今まで遺族年金は、主に働き手を亡くした家族の生活を支える“公的な生命保険”のような役割を果たしてきました。しかし今回の改革では、この仕組みに大きな変更が加わろうとしています。
この記事では、特に「こどものいない配偶者」の受給期間がどう変わるのかを中心に、制度の変更点をわかりやすく、かつ丁寧に解説していきます。
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遺族年金とはなにか?
遺族年金(いぞくねんきん)は、家族の働き手が亡くなったとき、その人に生活を支えてもらっていた家族が困らないように支払われるお金のことです。年金というと「老後にもらうもの」というイメージが強いかもしれませんが、実はこのように「もしものとき」に備える仕組みもあります。
遺族年金が支給される条件
亡くなった人が、次のどちらかの年金制度に入っていたことが条件です。
- 国民年金(自営業・パート・学生など)
- 厚生年金(会社員・公務員など)
つまり、「働いて保険料を納めていた」ことが前提です。保険料を払っていたからこそ、残された家族にお金が支払われるのです。
遺族年金の2つの種類
日本の遺族年金は、大きくわけて2種類あります。下の表を見てみましょう。
種類 | 対象者の年金制度 | 主な受け取り対象者 |
---|---|---|
遺族基礎年金 | 国民年金 | 子どものいる配偶者、または18歳までの子ども |
遺族厚生年金 | 厚生年金 | 配偶者、子ども、55歳以上の父母や祖父母など |
それぞれの内容を詳しく説明します。
遺族基礎年金:子どもがいる家庭への支援
「遺族基礎年金」は、国民年金に入っていた人が亡くなったときに支給されます。ただし、誰でももらえるわけではなく、次のような人が対象です。
- 18歳以下の子どもがいる配偶者(妻・夫)
- または、その子ども本人(親がいない場合)
たとえば、父親が自営業で国民年金に加入していて亡くなった場合、18歳未満の子どもがいれば、その子どもか母親が年金を受け取れる仕組みです。
支給される金額は2024年度で年額約107万円(子ども1人の場合)。子どもが2人以上いる場合は、追加で加算されます。
遺族厚生年金:会社員や公務員の家族が対象
「遺族厚生年金」は、厚生年金に入っていた人が亡くなったときに支給される制度です。国民年金よりもカバー範囲が広く、以下のような遺族が対象です。
- 配偶者(妻・夫)
- 18歳以下の子ども
- 父母(55歳以上)
- 祖父母(55歳以上)
ただし、年齢や扶養関係、亡くなった人の加入年数などによって、受け取れるかどうかが変わります。
例:
- 妻が30歳以上で子どもがいない場合 → 受給可能(ただし今後の制度変更で有期化へ)
- 夫が55歳以上で子どもがいない場合 → 受給可能(現行制度では)
支給金額は、亡くなった人がもらえるはずだった厚生年金の約4分の3です。たとえば、年間98万円の年金をもらう予定だったなら、約73万円が遺族年金として支給されます。
保険料を払うことで、万が一のときに遺された家族が生活できるように支えるしくみ。それが遺族年金です。生命保険と違うのは、すべての国民が入る「公の仕組み」であることです。
家族が働いていて、きちんと年金に加入していれば、残された人に一定の生活資金が保証されるのは、社会全体で支え合う“仕組みの力”なのです。
2025年の年金制度改革で、遺族年金はどう変わるのか?
これまで見てきたように、遺族年金は、残された家族の生活を守るためのとても大切な制度でした。しかし、2025年に予定されている年金制度改革法案では、この「遺族年金」の支給条件が大きく変わろうとしています。
ここでは、何がどう変わるのか、なぜ変わるのか、そしてどんな影響があるのかを、順番にわかりやすく解説していきます。
変更のポイント①:支給期間が「生涯」→「原則5年」に!
これまで、30歳以上の妻であれば、夫が亡くなった後に「遺族厚生年金」を一生もらえる仕組みでした。ところが、新しい制度ではそうはいかなくなります。
2028年4月から、段階的に次のような仕組みに変わっていきます:
配偶者の年齢 | 改正前 | 改正後(新制度) |
---|---|---|
30歳未満 | 5年間だけ支給 | 変更なし(すでに5年) |
30歳〜39歳 | 生涯支給 | 5年間だけ支給に変更 |
40歳〜59歳 | 生涯支給 | 将来的に5年間に変更(段階的に) |
60歳以上 | 生涯支給 | 変更なし |
つまり、最終的には60歳未満で夫を亡くした人は、遺族年金を5年間しか受け取れないことになります。
🔍 補足:この変更は「妻」に限らず、条件を満たす「夫」にも適用されるようになります(男女平等の観点から)。
変更のポイント②:受給できる人が増える一方で、金額は大幅ダウン
今回の見直しは、「男女間の差をなくすため」という理由で行われます。現行制度では、男性は55歳以上にならないと遺族厚生年金がもらえないという不公平な部分がありました。
改正後は、男女とも60歳未満で配偶者を亡くした場合には5年分の遺族年金を受け取れるようになります。これは一見、平等に見えるかもしれませんが、問題はその支給額です。
試算で見る衝撃:支給額の差は約2000万円
政府や専門家が行った試算によると、たとえば以下のようなケースで支給額は大きく変わってしまいます。
ケース例:
- 夫:月収45万円、55歳で死亡
- 妻:同い年で、30歳以上・子どもなし
項目 | 現行制度 | 新制度(5年間) |
---|---|---|
年間支給額 | 約73万円 | 約73万円(同額) |
支給期間 | 生涯(87歳まで=32年) | 5年だけ |
総額 | 約2,336万円 | 約365万円 |
差額 | ― | −1971万円 |
つまり、約2000万円近く支給額が減ってしまうことになるのです。
変更のポイント③:有期給付加算や死亡分割などの「配慮措置」も
政府は、これだけの大幅な減額に対して「いくつかの補てん策(配慮措置)」を用意するとしています。代表的なのは次の2つです。
- 有期給付加算(ゆうききゅうふかさん)
5年の短い期間に支払われる金額を、少し増やす制度です。もらえる期間が短くなるぶん、1年あたりの金額を増やしてバランスを取るという考え方です。 - 死亡時分割(しぼうじぶんかつ)
亡くなった配偶者の年金記録(老齢厚生年金の記録)を、残された配偶者の将来の年金に上乗せする仕組みです。これにより、65歳以降の老齢年金が少し増える可能性があります。
ただし、これらの制度がどれほど効果的に機能するかはまだ明確ではなく、「補償としては不十分ではないか?」という声も上がっています。
なぜこんな改正が必要なのか?
今回の変更には、いくつかの「理由」があると政府は説明しています。
- 共働き世帯が増えて、夫に依存しない家庭が増えた
- 男性にも遺族年金を認めるなら、支給のあり方を公平に見直す必要がある
- 財源が限られている中で、持続可能な年金制度を作る必要がある
たしかに、現代の家庭は多様化しており、昔のような「夫が働き妻が家庭を守る」というモデルに合わない人も増えています。しかし、だからといって今までの保障を減らしてよいのか?という議論はまだまだ尽きません。
納得できないという意見が続出
SNSやメディアでは、多くの市民がこの改革案に疑問や不安の声をあげています。
- 「夫が亡くなって5年で年金が切れるなんて無理」
- 「今まで高い保険料払ってきたのに、これじゃただの払い損」
- 「専業主婦の老後は誰が支えるの?」
これまで「一生もらえると思っていた」人にとっては、人生設計そのものが崩れてしまうレベルの影響です。
表向きは「男女平等」の制度改正。でも実態は、「今まであった女性の保障を削る」ことでバランスを取っているだけでは?という意見もあります。
これは「平等」の名を借りた“改悪”ではないか?
今回の遺族年金の制度改正は、政府によって「男女平等」「制度の持続性」「時代に合った制度設計」といった前向きな言葉で説明されています。しかし実際の中身をじっくり見ていくと、その建前とは裏腹に、「生活弱者に大きな負担を押し付ける制度改悪」に見えてならない部分がいくつもあります。
男女平等の名の下で「女性の支援を削る」のは逆行では?
政府は、今回の改革の一つの目的として「男女間の年金支給格差をなくす」と説明しています。たとえば、これまで男性(夫)が遺族年金を受け取るには「55歳以上」という条件がありましたが、今回の改正では男性でも年齢に関係なく受給できるようになります。
これだけを聞けば、「平等になった」と思うかもしれません。しかしその実態は、「女性の受給期間を5年間に制限する」という“保障の引き下げ”によって平等を実現する方式です。
本来あるべき平等とは、「低い方を上げて」公平にすること。
しかし今回の改革は、「高い方を下げて」平等に見せかけているだけなのです。
「働ける社会になったから年金はいらない」は本末転倒
政府は「女性の就業率が上がっている」「共働き家庭が一般的になっている」として、「妻も自分で働けるから遺族年金の終身支給は不要」と考えているようです。
しかしこれはあまりにも机上の空論です。
- 妻が子育てや介護のためにフルタイムで働けない家庭は今も多数ある
- 地方では夫の転勤に合わせて専業主婦になるケースも多い
- 出産や育児でキャリアを中断している女性が再就職するのは容易ではない
- 高齢での再就職は非正規やパートがほとんどで、収入も不安定
こうした現実を無視して、「もう女性は自立できるでしょ?」という前提で制度を縮小するのは、あまりに乱暴です。
「女性が活躍できる社会にする」という目的が、
なぜか「支援を減らすための口実」になってしまっているのです。
年金は“保険”であり、「途中で契約内容を変える」のはルール違反では?
年金制度は、私たちが現役時代にコツコツ保険料を払い込むことで成り立っています。その意味で、年金は税金ではなく保険です。
- 月々、何万円も払ってきた
- 「もしものときには年金が出ます」と約束されていた
- その約束を信じて、生命保険などを最小限に抑えていた家庭も多い
ところが今になって、「やっぱり5年しか出しません」と言われるわけです。
これは、たとえるなら…
「掛け捨てじゃない保険に入っていたのに、途中で“5年で終わりにします”と一方的に言われた」
ようなものです。
こんなことを民間の保険会社がやったら、間違いなく大問題になります。契約違反として、裁判になってもおかしくありません。
国が制度を運営しているからといって、
一方的に契約内容を変えてよいという理屈にはなりません。
「制度の持続性」という言葉が“弱者切り捨て”の言い訳に使われていないか?
確かに、日本の年金制度は少子高齢化の中で厳しい状況にあります。財政的に制度を維持するには改革は必要です。ですが、その改革の「負担」をどこにかけるのかは慎重であるべきです。
今回のように、
- 自立が難しい専業主婦や高齢女性
- 働き口のない中高年
- 子育てや介護に追われる世帯
といった“弱い立場の人”だけにしわ寄せがいく制度変更は、本当に公正と言えるでしょうか?
「制度を守るために、もっとも脆弱な層の生活を削る」
そんな姿勢では、社会全体の信頼も失われてしまいます。
年金制度は、「国民全員で支え合う仕組み」であるはずです。だからこそ、信頼がなければ成り立たないのです。
- 今回の改革は、その信頼を崩しかねない
- 弱者に過度な負担を押しつけている
- 表向きの「平等」や「改革」の言葉の裏に、現実の切り捨てがある
政府はもう一度、制度の“持続性”と“公平性”のバランスについて真剣に議論し直すべきです。
「本当に守るべきは誰なのか?」という原点に立ち返る必要があります。
遺族年金の見直しは、国の将来を見すえた決断かもしれません。だけど、そのしわ寄せが生活に余裕のない人たちに集中していたら、それは“改革”じゃなくて“切り捨て”です。
これからの暮らしをどう守っていくのか。
誰のための制度にしていくのか。
一人ひとりがちゃんと知って、考えて、声を出していくことが大切です。
「知らなかった」では済まされない時代が、もう来ています。
参考資料
年金制度改正法案を国会に提出しました(厚生労働省)
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