山で遭難したら救助が有料に!?富士山で進む「山岳救助の新ルール」って?

山で遭難したら救助が有料に!?富士山で進む「山岳救助の新ルール」って? 地方行政

富士山での遭難が相次ぐ中、「山岳救助にお金がかかるかも!?」というニュースが話題になっています。これまで当たり前だった“無料の救助”が見直されようとしている今、なぜそんな流れになっているのか?その背景やルールの内容を、わかりやすく解説します。

なぜ今「山岳救助の有料化」が議論されているのか?

山での救助が無料だったこれまで

山での遭難事故。これは命にかかわるとても重大な問題です。登山中にケガをしたり、道に迷ったり、悪天候で動けなくなったりすることは誰にでも起こり得ます。これまでは、こうした遭難者を助けるために出動する防災ヘリや救助隊の活動費用は、ほとんどが「税金」でまかなわれてきました。つまり、遭難した人がどんな理由であっても、救助は「無料」だったのです。

しかし今、その「無料救助」に対して「それで本当にいいの?」という疑問の声があがっています。とくに注目されているのが富士山です。

富士山で何が起きている?

富士山には「開山期間(7月上旬〜9月上旬)」と「閉山期間(秋〜春)」があります。閉山期間は雪や風が強く、登山道も閉鎖されているため、とても危険な時期です。それなのに、装備が足りないまま、危険を理解せず登る人たちがあとを絶ちません。

たとえば2025年4月、1人の中国人大学生が1週間のうちに2回も遭難し、静岡県と山梨県の救助隊がそれぞれ出動しました。そのうち1回は「山頂に忘れたスマホを取りに行った」というものでした。このような「無謀な登山」に対して、地元の市長たちは「税金で救うのはおかしい」と発言。救助の有料化を検討し始めたのです。

どれくらいお金がかかっているの?

防災ヘリが1時間飛ぶのにかかる費用は、およそ40万〜50万円。しかも山岳救助はとても危険で、過去には救助隊員がヘリの事故で亡くなったケースもあります。埼玉県ではすでに救助費用を「5分ごとに8,000円」請求する制度を導入しており、平均で1回の救助に約10万円の請求がされます。

このような高額な費用が、登山者本人ではなく、関係のない一般市民の税金で支払われていることに、疑問を持つ人が増えてきました。

なぜ有料化の声が高まっているのか?

背景にあるのは「自己責任」という考え方です。命をかけて登山するなら、それにふさわしい装備や準備をするべきです。にもかかわらず、Tシャツにスニーカーなど軽装で登る人や、スマホで気軽に救助を呼ぶ人が目立つようになりました。こうした行動に、「まるでタクシーを呼ぶみたいだ」と不満をもらす地元の人も少なくありません。

また、山岳遭難の件数が増えているのは、スマホや通信技術が発達し「助けを呼べるから大丈夫」と安易に考える人が増えたためとも言われています。

賛成と反対、それぞれの意見

有料化に賛成する人たちは、「無謀な登山を減らすための抑止力になる」と考えています。実際、埼玉県では制度導入後、遭難件数が約半分に減ったというデータもあります。「山岳保険に入るべき」「軽い気持ちで登る人に税金を使うのは不公平」といった声も多く聞かれます。

一方で反対する人たちは、「お金がかかると知っていたら、助けを呼ぶのをためらってしまうのでは?」という心配をしています。命が助かるかどうかのときに、費用の心配で通報が遅れたら本末転倒です。しかも、第三者が通報した場合や、支払いが難しい人のケースをどう扱うかなど、実際の運用には課題がたくさんあります。

富士山の特別な事情

富士山は国内外から多くの登山者が訪れる人気スポットです。しかしその一方で、閉山中はヒマラヤにも匹敵するほど厳しい環境だといわれています。山小屋もトイレも閉まり、風速20メートルを超えることも珍しくありません。そんな場所に無防備で入山すれば、遭難するのも当然です。

しかも、富士山は静岡県と山梨県にまたがっており、救助体制やルールも違うことから、協力し合う必要があります。

どこまでが「無謀な登山」?救助有料化をどのように進めるべきか

無謀な登山ってどんな登山?

「無謀な登山」という言葉を聞いたとき、多くの人は「装備が不十分」「天候を無視している」「経験がないのに高い山に登る」などを思い浮かべるでしょう。たとえば、雪が残る4月の富士山に、軽装で入山することはまさに無謀そのものです。

実際に2025年春、ある中国人大学生は閉山中の富士山に入山し、1週間で2度も遭難しました。しかも2回目は「山頂にスマホを忘れたから取りに戻った」という理由。防災ヘリが飛べず、救助隊が徒歩で8合目まで登り、7時間かけて救助しました。このような登山が「無謀」であることは明らかです。

ただし、「どこまでが無謀か」はとてもあいまいで、人によって基準が異なります。これを明確にしないと、救助の有料化を進めるのは難しいのです。

「ルールを破った登山者だけ有料」はできるのか?

多くの人が「ルールを守らずに登った人は、自分で救助費用を払うべきだ」と考えています。でも、ここには大きな問題があります。まず、「ルール」とは何でしょうか?富士山には国と県と市町村が関わっていて、それぞれに違うガイドラインや条例があります。

たとえば、開山期間であれば誰でも登れますが、閉山期間中は「登山計画書」を出せば一応登ることは可能。でも現実には、雪で道が見えなくなっていたり、風が強すぎたりしてとても危険なのです。この「登っても良いけど自己責任」のグレーゾーンが、ルール違反かどうかの判断を難しくしています。

また、「軽装だったかどうか」や「天気予報を確認していたか」など、個々の判断を客観的に証明するのはとても難しいです。結局のところ、「誰に請求するのか」「どこまでなら無料なのか」を決めるルール作りが不可欠です。

誰が請求する?運用の難しさ

「救助費用を請求する」と一言でいっても、誰がどのように請求するのかは別問題です。たとえば北アルプスでは、山の土地が国のものだったり、市のものだったりとバラバラです。警察が動く場合、費用は無料。でも、防災ヘリを使えば有料。そのとき、請求書を出すのは誰?受け取るのは誰?という細かい話が、まだ決まっていません。

しかも、救助の連絡は登山者自身でなく、通りすがりの人や家族が「○○さんが連絡がとれない」と通報するケースもあります。その場合、「本人に請求してよいのか」という新たな課題が出てきます。

さらには、支払いができない人はどうするのか。海外からの旅行者や、高齢者、学生などは、10万円近い費用をすぐには払えないかもしれません。

こうした運用の細かいルールが整っていないまま、先に「有料化だけ」を進めると、混乱を招く可能性があるのです。

すでに始まっている取り組み

実はすでに一部の県では有料化が実施されています。たとえば、埼玉県では指定された山域で防災ヘリが出動した場合、「5分ごとに8,000円」を遭難者に請求する制度があります。平均の救助時間は約1時間で、1回の救助で約10万円です。

この制度の目的は「儲けること」ではなく、「安易な登山や救助要請を減らすこと」にあります。実際、制度導入後、遭難件数が年間41件から24件へと減少しました。

また、山梨県では2025年秋の議会で救助有料化の条例案が提出される予定です。静岡県もそれに歩調を合わせています。特に富士山のような県境にまたがる山では、同じルールを両県が持たないと混乱を招くため、協調が必要になります。

山岳保険の活用という選択肢

「登山者に自己負担を求める」という意味では、「山岳保険」への加入を義務づける、という方法もあります。保険に入っていれば、いざというときの救助費用も保険でカバーされます。

最近では、1日だけの「ワンデイ山岳保険」もコンビニやネットで手軽に加入できます。登山前に装備チェックをするとともに、保険に入ることで、自分の命を守る意識が高まる効果も期待できます。

埼玉県などでは「登山者に対して保険加入を促すポスター」を山小屋や登山口に掲示して啓発を進めています。これも、有料化とセットで取り組むべき大事な施策です。

人命救助に「お金」をかけるのは正しいのか?

命の価値に差をつけていいの?

山岳救助の有料化について議論が進む中で、よく聞かれるのが「命に値段をつけていいのか?」という疑問です。

たとえば、山でケガをして動けなくなった人が「お金がないから助けを呼ばなかった」として命を落としたとしたら――。そんな未来を想像すると、「お金がないと助けてもらえない社会」は、なんだか冷たく感じます。

日本では、救急車や消防車が無料で使えることが当たり前になっています。だからこそ「助けが必要なときは迷わず呼べる」社会ができています。山でも同じように、誰でも平等に救助を受けられることが重要ではないでしょうか?

ところが、実際には「平等」と「現実」がぶつかる問題があります。

助ける側にも命のリスクがある

山岳救助は、ただの「お手伝い」ではありません。時には、強風で飛ばされそうなヘリに乗って出動し、雪山で何時間も歩いて探し回り、やっとの思いで助けるのです。まさに命がけの仕事です。

実際、過去には救助中にヘリが墜落して、操縦士や隊員が亡くなったケースがいくつもあります。彼らは「人を助けたい」という気持ちで行動していますが、同時に、無謀な登山者のために命を落とすのは「不公平だ」と思う人も多いのです。

つまり、命の価値を考えるときには「助けられる側」だけでなく、「助ける側」の命も同じように重いという視点が必要です。

公費(税金)でどこまで助けるのか?

もうひとつの問題は、「誰がその救助費用を払うのか?」ということです。現在、防災ヘリや山岳救助にかかる費用は、多くの場合「税金」でまかなわれています。つまり、登山しない人や興味のない人も、その費用を負担しているということです。

たとえば1回のヘリ救助でかかる費用は約40万〜50万円。1人の遭難者のために、税金がそれだけ使われているのです。「旅行で好き勝手登った人のために、なぜ自分たちの税金が使われるのか」と疑問を持つのも当然かもしれません。

税金は教育、医療、防災など、いろいろな目的で使われます。限られたお金の中で「本当に必要な人のために使うべきだ」という考え方も理解できます。

海外ではどうなっている?

日本では「救助は無料」が一般的ですが、世界ではそうとは限りません。

ヨーロッパでは、山での遭難救助が有料の国がたくさんあります。スイスやフランス、イタリアなどでは、登山前に「山岳保険」に入ることが義務づけられていることも多く、救助費用はその保険から支払われます。

たとえばスペインから来た観光客は「日本で救助が無料なことに驚いた」とコメントしています。逆に言えば、海外では「助けてもらうには、責任も果たす」という考えが浸透しているのです。

こうした事例を見ると、日本でも「無料だからこそ安易に呼ぶ人が増えてしまっている」のかもしれません。

「自覚を促すため」の有料化という考え方

有料化に賛成する人たちが主張するのは、「罰金ではなく、注意をうながす仕組み」としての役割です。

たとえば、「冬の富士山に登ると、もし遭難したとき10万円以上かかるかもしれない」と知っていたら、軽い気持ちで登ろうとする人は減るはずです。これが「抑止力(よくしりょく)」という考え方です。

お金を取ること自体が目的ではなく、「山は危険なんだ」「登るなら覚悟が必要なんだ」と自覚してもらうための仕組みとして、有料化が考えられています。

埼玉県ではこの仕組みを導入してから、山岳救助の件数が半減したという結果も出ています。つまり、一定の効果があるのです。

やっぱりバランスが大事

とはいえ、「お金を払えない人はどうするの?」という問題は残ります。だからこそ、保険制度や公的な補助、第三者通報時の特例など、柔軟な仕組みが必要です。

完全に「全額自己負担」ではなく、「無謀な登山者には一部負担を求める」「保険でカバーする」「善意で通報されたケースは無料」など、状況に応じた対応が求められるのです。

また、何より大切なのは、「人を見捨てない」という社会全体の価値観です。人を助けることは大切な行為ですし、それが失われてしまえば、社会全体の信頼感もなくなってしまいます。

山岳救助の有料化、導入すべきか?わたしたちの答え

救助有料化、なぜこれほど話題になるのか?

これまで3章にわたって、山岳救助の有料化について考えてきました。「登山中に遭難した人を助けるのに、なぜお金が必要なのか?」「それって冷たすぎるんじゃない?」と感じた人もいるかもしれません。

でも現実には、閉山中の富士山で無謀な登山をする人が後を絶たず、命を守るために動いている救助隊や自治体が大きな負担を感じているのです。ヘリコプター1時間の費用は50万円近くかかると言われています。これが何度も何度も続けば、さすがに「ちょっと待ってよ」と言いたくなるのは当然でしょう。

特に、最近はSNSなどの影響もあって「軽い気持ちで登山する人」が増えています。「スマホでSOSすれば、どうせ助けてくれるでしょ」と考える風潮は、登山者自身の安全意識を低くする原因にもなっています。

こうした背景から、「救助費用は、少なくとも一部でも登山者が負担すべきでは?」という議論が大きくなってきているのです。

導入に向けた3つの前提条件

では、実際に救助有料化を進めるにはどうすればよいのでしょうか?以下の3つの条件がとても大切です。

  1. ルールの明確化
    • どんな登山が「無謀」とされるのか、はっきりさせること。
    • たとえば「閉山期間中」「装備不十分」「登山計画書なし」などを基準に。
  2. 保険制度の整備
    • 事前に保険に入っておけば、費用がカバーされる仕組み。
    • 1日数百円で入れる「ワンデイ保険」などを広く案内。
  3. 例外と柔軟な対応
    • 子どもや高齢者、第三者による通報など、事情によっては費用免除。
    • 経済的に困難な人への配慮も忘れない。

これらがしっかり整えば、「お金がないから助けを呼べない」という悲劇を防ぎつつ、登山者の安全意識も高めることができます。

救助を「タダ」にしないことで生まれる変化

実は、有料化には「儲けるため」ではなく「警告としての意味」があります。

たとえば道路のスピード違反に罰金があるのと同じで、山でも「ちゃんと準備しないと自分に負担がくるよ」というメッセージを登山者に送ることができます。それが結果的に、命を守ることにもつながるのです。

埼玉県の例では、制度導入後に遭難件数が減っています。「有料だから呼ばない」ではなく、「ちゃんと準備してから登ろう」と考える人が増えたからです。

つまり、救助の有料化は、命を軽く扱うための制度ではなく、命をより重く考えさせる制度でもあるのです。

最後に

すべての人が安心して登山を楽しめるようにするために、そして救助する人の命も守るために――。

山岳救助の有料化は、「条件付き」で導入すべきだと考えます。

その条件とは、

  • 無謀な登山であった場合に限ること
  • 事前に保険加入などの選択肢を提示すること
  • 経済的・社会的事情に配慮した柔軟な制度であること

この3つです。

一方で、どんな人でも困ったときに助けを呼べる「命を見捨てない社会」の価値観は、絶対に守るべきです。制度を整える中でも、「命の重さ」に差をつけてはいけません。

わたしたちができることは、登山をするときに「自分の命に責任を持つこと」。そして、どんな制度でも「人を助けることの大切さ」を忘れないことです。

この記事を書いた人

いまさら聞けない自治体ニュースの管理人。
最近話題のニュースをアウトプットする場としてサイトを更新中。
なるべく正しい情報を届けるように心がけますが、誤った情報があればご一報ください。
本業は地方創生をメインとする会社のマーケティング担当者。

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