DMATって何?災害現場を支えるプロ集団の知られざる実力

DMATって何?災害現場を支えるプロ集団の知られざる実力 地方行政

DMATとは何か?誕生の背景と組織の概要

DMATの誕生のきっかけ

大規模災害が起きたとき、負傷者が一度に大量に発生することがあります。通常の医療機関だけでは対応が難しく、救命できるはずの人を救えない――そうした体制上の課題が強く意識されるようになったのが、1995年の阪神・淡路大震災でした。
この震災では、もし平時の救急医療レベルを確保できていたら助けられた可能性がある「避けられた災害死」が約500名にのぼるという報告もあります。こうした反省を教訓に、「大規模災害の直後(急性期)から医療が展開できるチームを作ろう」という動きが生まれました。そこで生まれたのが、DMAT(災害派遣医療チーム)です。​

DMATの名称と活動の期限

DMATは「Disaster Medical Assistance Team」の頭文字を取ったもので、日本語では「災害派遣医療チーム」と呼ばれます。特徴的なのは、災害が起きてからおおむね48時間以内(72時間程度まで延長される場合も)の急性期に現地へ駆けつけ、トリアージ(負傷者の治療優先度の振り分け)や応急処置、広域搬送などを行う点です。
この「48時間~72時間」という区切りは、災害時の医療ニーズが最も大きくなる初期段階を指しており、この期間にどれだけ素早く対応できるかが、救命率を左右すると考えられているのです。​

なぜDMATが必要なのか

災害が起こると、建物や道路などのインフラが破壊され、ライフラインも途絶しがちです。医療を支える環境(病院や医療スタッフ、物資)が壊滅的な打撃を受けると、被災地での通常医療が提供できなくなります。一方で被災者は重症や多数のケガを抱えており、また体調を崩す人も増えます。そのため、いち早く医療チームを外部から投入し、初期医療を提供する仕組みが欠かせません。
こうした観点から、「DMATは被災直後の大混乱を抑え、必要に応じて被災地外に患者を搬送する」という大きな使命を果たす存在として大いに期待されているのです。

DMATを構成するメンバー

DMATは、医師1名・看護師2名・業務調整員1名を基本とした合計4名を1チームとして構成します(場合によって多少の差異はあります)。業務調整員はカルテ入力や物資調達、チームの宿泊・食事手配といった後方支援(ロジスティック)を担うため、「医療の技術」+「調整能力」が合わさることで迅速な活動が可能になります。
一方で、この4名体制だけでは足りない業務が出てくることも多いので、必要に応じて追加のメンバー(薬剤師、保健師、医療事務員など)が加わる場合があります。さらに、国内には自治体DMAT
日本赤十字社の救護班なども存在し、DMATの後方支援や医療活動との連携が広く行われます。

DMATは普段どこにいるのか

DMATのメンバーは、それぞれの「DMAT指定医療機関」に勤務する医師や看護師たちです。彼らは普段、大学病院や災害拠点病院などで通常の医療業務を行いながら、災害時に備えて訓練を重ねています。災害が発生したら、行政(厚生労働省や都道府県など)から派遣要請があり、該当する医療機関からDMATチームが現地に向かう、という流れです。​


DMATの具体的な活動内容と他機関との連携

トリアージ(負傷者の振り分け)

最初にDMATが行うのは「トリアージ」です。多数のけが人がいる場合、それぞれのけがの重症度、緊急度、搬送先病院の状況などを瞬時に判断し、優先的に治療すべき人から手当を行っていく必要があります。これを正確かつ迅速に行わないと、助かる見込みがある人まで救えない可能性が生じます。DMATはトリアージ訓練を徹底的に行っているため、現場での情報を即座に共有し、治療が最も必要な人から着手します。​

応急処置と被災地の病院支援

次にDMATは、負傷者への応急処置を行います。切断や骨折、大量出血など重症なケースはもちろん、避難所で体調を崩す被災者のケアも重要な任務です。被災地の病院が破損している場合や人手不足の場合には、DMATが院内スタッフと協力しながら診療体制を維持する「病院支援」も担います。院内スタッフが混乱しているときは、指揮系統を整理し、重症患者を適切な病院へ搬送する段取りを組むなどの調整も行います。​

重症患者の広域医療搬送

被災地内だけでは対応できない重症患者は、DMATが中心となって広域搬送を行います。ヘリコプターや自衛隊機、救急車などを活用し、遠方の病院へ搬送することでより高度な治療を受けてもらう仕組みです。特に「ステージング・ケア・ユニット(SCU)」と呼ばれる臨時医療拠点では、搬送前に安定化の処置をしたり、患者の症状を見極めたりといった重要な役割を担います。被災地外で受け入れを行う病院との連携もDMATの大きな仕事です。​

自衛隊や消防・警察との連携

大規模災害時には医療行為だけでなく、被災者の救出活動が同時並行で進みます。がれきの下から人を助け出すのは消防や自衛隊、警察ですが、その場ですぐに医師や看護師が応急処置しないと危険なケースもあります。こうした場面でDMATは、ほかの救助機関と連携を取りながら、いち早く必要な医療を提供します。ときには被災地の指揮本部にDMAT隊員が入り、他機関との情報共有を積極的に行うのです。

日本赤十字社や他の災害医療チームとの協力

DMATはあくまで「災害発生直後の初動」に特化した医療チームですが、DMAT以外にも、たとえばJMAT(日本医師会災害医療チーム)やDPAT(災害派遣精神医療チーム)など、それぞれ活動時期や専門領域が異なる支援チームがあります。DMATが担う「急性期の対応」が終わった後は、こうしたチームに引き継ぎ、避難所での長期支援や心のケアへとバトンタッチすることもしばしばです。大切なのは、各チームが得意分野を発揮し合い、被災者を包括的にサポートすることといえます。​

DMAT事務局と厚生労働省・都道府県の役割

DMATを円滑に動かすためには、単に医師や看護師を現場に送り込むだけではなく、派遣の判断や交通手段の確保、後方支援など多岐にわたる調整が必要です。厚生労働省はDMAT全体を統括し、被災状況を全国視点で把握して派遣要請や医療体制強化を指示します。そしてDMAT事務局(災害医療センター内など)からは、隊員の登録・更新や研修運営などが行われます。地方自治体(都道府県)もまた、DMATや日本赤十字社などとの連携を強化し、いざというときの指揮命令系統や費用負担のあり方を事前に協定として定めているのです。​


DMAT以外の災害派遣チームと連携の重要性

前章で少し触れましたが、災害時にはDMAT以外にも複数の「○○MAT」と呼ばれる災害派遣チームが出動することがあります。それぞれのチームが互いの得意分野をカバーし合うことで、被災者のニーズにきめ細かく対応しているのです。

JMAT(日本医師会災害医療チーム)

JMAT(Japan Medical Association Team)は日本医師会が組織する災害医療チームです。DMATが48~72時間以内の急性期を担うのに対し、JMATはより中長期的に地域医療を支援し、避難所や臨時の診療所で被災者の健康維持や病院への継続受診の仕組みづくりを行います。たとえば避難所で感染症の拡大を防ぐための衛生管理や高齢者の慢性疾患ケアなども重要な役割です。

DPAT(災害派遣精神医療チーム)

災害時には多くのストレスや心の不安が生じます。家や財産を失ったショック、家族や知人を亡くした悲しみ、先行きが見えない避難生活によるストレス――こうした精神的ケアを行うのがDPAT(Disaster Psychiatric Assistance Team)です。精神科医、看護師、薬剤師、カウンセラーなどで構成され、被災地で精神保健・医療を専門的にサポートします。

DWAT(災害派遣福祉チーム)

高齢者や障害のある人、子どもなど要配慮者を中心に、避難生活での生活機能低下を防ぐための支援を行うチームがDWAT(Disaster Welfare Assistance Team)です。「お年寄りがトイレに行きづらい環境になっている」「障害のある方が必要な医療機器を使えず困っている」など、医療行為のみでは解決できない暮らしのサポートを行います。

DHEAT(災害時健康危機管理支援チーム)

避難所や被災地での感染症拡大を防止するには、保健所や行政との連携が重要です。そこで活躍するのがDHEAT(Disaster Health Emergency Assistance Team)で、医師や薬剤師、保健師などがチームを組み、公衆衛生の観点から災害時の健康危機管理を支えます。

JRAT(日本災害リハビリテーション支援チーム)

長引く避難生活や心身に大きなストレスがかかると、身体機能や認知機能の低下につながることがあります。JRAT(Japan Disaster Rehabilitation Assistance Team)は理学療法士や作業療法士、リハビリ専門医などが集まって、避難所や被災地でリハビリ指導や生活環境の改善に取り組み、「災害関連死」の発生を減らすことを目指します。

JDA-DAT(日本栄養士会災害支援チーム)

災害直後は食事環境が十分に整わず、栄養バランスが崩れがちです。こうした事態を防ぎ、栄養状態の悪化を未然に防ぐため、JDA-DAT(The Japan Dietetic Association-Disaster Assistance Team)が活躍します。避難所での適切な食事提供や、離乳食や療養食が必要な方への指導などを担い、健康被害を減らす狙いがあります。

DMATとの連携の重要性

DMATはあくまで「初動期の医療対応を迅速にこなす」ことに強みがあります。しかし、災害時には心のケアが必要な人、介護やリハビリが必要な人、栄養管理を要する人など、医療以外にもさまざまな支援が必要になります。ここで上記の専門チームが活躍し、DMATが行った応急処置や救命行為から始まる一連のサポートを、切れ目なく発展させるのです。
もちろんDMATも、精神ケアの第一歩として簡単な声かけや安全確保を行うことはあります。しかし本格的な心理支援やリハビリなどは専門チームへ引き継ぐのが通例です。多様な災害派遣チームが連携し、それぞれの得意分野を発揮してこそ、被災者の生活再建が進むといえるでしょう。​


DMATの実例と今後の課題

過去のDMATの活躍

  1. 新潟県中越沖地震(2007年)
    震度6強を観測した大地震の直後、約3時間後にDMATの派遣要請が出され、被災地で医療活動を実施しました。このとき初めて、組織的にDMATが全国から集まり、本格的な応急処置・搬送調整に取り組んだといわれています。しかし、要請の発信タイミングや周知などで改善点が見つかり、後の東日本大震災の対応へと教訓が活かされました。
  2. 東日本大震災(2011年)
    震度7、死者・行方不明者が甚大となった歴史的災害。ここでは全国から約340隊・計1500名のDMAT隊員が派遣され、病院への支援や広域搬送、ドクターヘリによる緊急対応など幅広い活動を行いました。想定より外傷患者が少なかったものの、津波や原発事故など未知の課題も多く、被災地内外での患者移送や拠点病院の維持など、多岐にわたる活動を担いました。
  3. ダイヤモンド・プリンセス号(2020年)
    新型コロナウイルスが拡大した際、横浜に停泊したクルーズ船内で集団感染(クラスター)が起こり、DMATも派遣されています。通常の災害時とは異なる船内の医療体制構築、急増する発熱患者への対応、重症患者の搬送などにあたり、感染制御と救命活動の両面を担いました。この事例は**「災害」という枠組みを超え、感染症対応チームとしてのDMATの応用力**を示したとも評価されています。

今後の課題と展望

DMATは創設以来、国内外のさまざまな災害現場で実績を積んできました。しかし以下のような課題も指摘されています。

  • 隊員の継続的育成
    DMATの有資格者を増やすだけでなく、定期的なシミュレーション訓練や研修のアップデートが不可欠です。医療技術や想定される災害の形態(大規模自然災害だけでなく、ウイルス感染拡大など)も多様化しているため、常に最新の知見を取り入れた訓練が求められています。
  • 医療体制の段階的な連携強化
    DMATは主に初動期を担当しますが、その後のフェーズ(JMATなどの中期支援、長期的な地域医療再建)との継ぎ目が曖昧だと被災者へのサポートが一部途切れてしまう可能性があります。指揮命令系統を明確化し、スムーズなチーム交代ができるよう自治体や関係機関との連絡を密にすることが重要です。
  • 被災現場の安全確保
    大規模災害時には二次災害や余震、建物の倒壊リスクがあります。DMATが医療行為に集中するためには、消防や自衛隊が安全確保に協力する必要があります。互いに人命救助を最優先しつつも、自分たちの身を守るための装備や訓練体制をさらに強化していく必要があります。

まとめ:DMATが示す「迅速かつ包括的」な医療の意義

DMATの活動は「最初の一手」として極めて重要です。被災してまもない地域では、多くの人が負傷し、十分な設備も人員も確保できない中で混乱が起きやすいからです。その混乱を少しでも早く制御し、最優先で手を打つべき負傷者へのケアや広域搬送を手配する――DMATの存在があるからこそ、救命率の向上医療崩壊の回避が可能になります。

一方、災害医療はDMATだけで完結するわけではありません。急性期が終わった後の中長期支援、心のケアやリハビリ、栄養・福祉的サポートなど、関連チームや地元の医療機関との連携が不可欠です。DMATの素早い初動と、他チームによる持続的なサポートが合わさることで、はじめて被災者の生活再建が可能になるのです。

「DMATって何?」という問いへの答えは、災害時の医療支援の最前線を担うプロフェッショナルであり、被災地を支える初動部隊として欠かせない存在である、ということです。そして私たちは、その活動を支える制度や仕組み、また他チームとの連携の重要性を認識し、日頃から防災意識を高めることが求められています。

今後、地震や台風などの自然災害に加え、感染症や大事故など、さまざまな「災害」が予測されています。そんなときにDMATは、私たちの命を守る最前線として活躍し続けるでしょう。そのためには、一人ひとりがDMATの意義を理解し、防災訓練や医療体制の強化を社会全体でサポートすることが大切です。


以上が「DMATって何?災害現場を支えるプロ集団の知られざる実力」の解説となります。災害発生時の初動期に素早く行動できるDMATの強みや、他の災害派遣チームとの連携の重要性を理解していただくことで、私たちの命を守るしくみがどのように構築されているか、その一端をご覧いただけたかと思います。いつかの災害に備えて、一人ひとりができることを考えるきっかけにもなれば幸いです。

この記事を書いた人

いまさら聞けない自治体ニュースの管理人。
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本業は地方創生をメインとする会社のマーケティング担当者。

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