集団的自衛権とは? 高市首相が示した“台湾有事=存立危機事態”の可能性をわかりやすく解説

集団的自衛権とは? 高市首相が示した“台湾有事=存立危機事態”の可能性をわかりやすく解説 政府

なぜ今「集団的自衛権」が注目されるのか

日本の安全保障をめぐる議論の中で、「集団的自衛権」という言葉が再び大きく取り上げられています。その直接のきっかけとなったのが、高市早苗首相が国会で示した「台湾有事は日本の存立危機事態に該当し得る」という答弁でした。この発言は、単なる地政学的関心にとどまらず、日本がどのような条件で集団的自衛権を行使できるのかという核心部分に大きな影響を与えるものとして注目されています。

そもそも集団的自衛権とは、国際法上、同盟国や密接な関係にある国が攻撃を受けた場合に、自国が直接攻撃されていなくても武力を行使してその国を助ける権利を指します。しかし日本では、戦後長らく憲法解釈により「行使できない」とされ、慎重な運用が続いてきました。転機となったのは2014年の憲法解釈変更と2015年の平和安全法制の成立で、限定的な条件下で集団的自衛権の行使が可能になりました。この法制度の肝となるのが「存立危機事態」という概念です。

存立危機事態とは、日本が武力攻撃を受けていなくても、同盟国などへの攻撃により「日本の存立が脅かされ、国民の生命が根底から覆される明白な危険がある場合」に認定される事態を指します。この概念が成立すると、日本は初めて集団的自衛権に基づき武力を行使することができます。そのため、どのような状況が「存立危機事態」に該当するのかは、日本の安全保障政策に直結する極めて重要なテーマです。

ここで焦点となるのが台湾情勢です。台湾海峡は日本のエネルギーや物資輸送の主要ルートであり、地理的にも沖縄や与那国島と極めて近い位置にあります。もし台湾で武力衝突が起これば、日本の経済や国民の安全に深刻な影響が出る可能性が高いと専門家は指摘しています。そのため台湾有事は、単なる“周辺で起きる事態”ではなく、日本の安全保障と密接に結びつく問題として扱われています。

こうした中で高市首相が「台湾有事は存立危機事態になり得る」と明言したことは、政府が台湾情勢を従来以上に具体的な“日本の危機”として捉え始めたことを示すものとして大きな反響を呼びました。これにより、集団的自衛権の運用、日米同盟の役割分担、在日米軍基地の対応、日本の避難計画や国民保護体制など、多岐にわたる政策議論が加速しています。

今、集団的自衛権が注目されるのは、単なる法制度の問題ではありません。台湾海峡の緊張が高まる中で、日本がどのような条件で自国の安全を守り、国際社会の中でどのような役割を果たすのかという、国家の根本的な選択が問われているからです。本記事では、集団的自衛権と存立危機事態の仕組みを基礎から解説し、高市首相の答弁が意味するものを整理していきます。

集団的自衛権とは

集団的自衛権とは何かを正確に理解するためには、まず「自衛権」が国際法の中でどのように定められているかを知る必要があります。国際社会では、すべての国家が武力攻撃から自国を守る権利を持つとされています。この前提を明確に示しているのが、国連憲章51条です。ここには、武力攻撃を受けた国が自衛権を行使すること、そして“その国と密接な関係にある別の国がともに武力行使して守ること(集団的自衛権)”も認められていると明記されています。

この仕組みは、単独では防衛が難しい国を支えるために設計されたもので、同盟国同士の安全保障協力の基本となっています。例えばNATO(北大西洋条約機構)では、加盟国の一国が攻撃されれば全体への攻撃とみなして共同で反撃するという「集団防衛」が定められており、この考え方は国際的に広く受け入れられています。

ここで重要なのは、集団的自衛権は「自国が攻撃されていない段階で武力を行使する可能性がある」点にあります。これが個別的自衛権との大きな違いです。個別的自衛権は、あくまで自国への武力攻撃が始まったことを前提とした防衛権であり、これについては日本でも当然に認められています。一方、集団的自衛権は、自国が攻撃を受けていなくても、密接な関係にある国が危機に瀕した際に武力を用いる権利であり、より広い範囲の行動を認めるものです。

この点が、日本の憲法解釈において長く議論の対象となってきました。日本国憲法9条は「武力行使」を厳しく制限しているため、戦後の政府は「日本は集団的自衛権を国際法上は持つが、憲法上行使できない」と説明してきました。つまり、権利そのものは存在するが、行使する余地はないという立場です。これにより、日本は長らく集団的自衛権を使った軍事行動には関与せず、自国防衛に限定した対応を続けてきました。

しかし、国際情勢の変化と安全保障上の課題が複雑化したことから、2014年の閣議決定によって日本の立場は大きく転換します。この決定では、従来の憲法解釈を変更し、「日本の存立が脅かされ、国民の生命が根底から覆されるような危険がある場合には、限定的に集団的自衛権を行使できる」と示されました。これをもとに、2015年の平和安全法制(安保法制)が成立し、日本の法制度の中で集団的自衛権が初めて明確に位置づけられることになります。

集団的自衛権の行使は、日本の安全保障政策の範囲を広げる一方、どのような事態で行使できるのか、どの程度の武力行使が許されるのかといった点をめぐって、国内で賛否両論が続いてきました。この議論が改めて注目されているのは、高市首相が台湾有事について「存立危機事態に該当し得る」と明言したことで、集団的自衛権が“現実の政策判断の問題”として扱われる段階に来たからです。

ここまで理解できると、次に重要になるのが「存立危機事態とは何か」という点です。これは日本が集団的自衛権を行使する際の最大の法的基準であり、その判断基準がどのように定められているかを知ることは不可欠です。

日本で集団的自衛権が認められた経緯

日本における集団的自衛権の扱いは、戦後の安全保障政策の歴史そのものと強く結びついています。国際法上、すべての国家は集団的自衛権を持つとされていますが、日本では憲法9条の存在から「権利はあるが行使できない」という立場を長く維持してきました。このスタンスが根本的に変化したのが、2014年の憲法解釈変更と2015年の安保法制(平和安全法制)です。

戦後日本の政府は一貫して、「武力行使は自衛のための最小限度に限られる」という憲法解釈を採用してきました。そのため、自国が攻撃されていない段階で武力を用いる集団的自衛権の行使は、憲法に反すると説明されてきました。冷戦期にも、日米同盟の重要性が高まる中でこの解釈は維持され、政治的にも慎重な姿勢が続きました。

しかし、21世紀に入り国際環境が急速に変化すると、日本は新たな安全保障の枠組みを模索する必要に迫られます。北朝鮮の核・ミサイル開発、海洋進出を強める中国、そして米国との同盟関係の深化など、地域の安全保障環境はより複雑になりました。こうした背景を踏まえ、当時の政府は「日本の安全を守るためには、限定的に集団的自衛権を行使する余地が必要である」と判断するようになります。

この政策転換が正式に示されたのが、2014年7月の閣議決定です。ここで政府は、従来の「集団的自衛権は行使できない」という立場を変更し、「日本の存立が脅かされるような深刻な状況に限り、例外的に行使が可能である」との新たな解釈を示しました。この閣議決定は戦後の憲法解釈を大きく転換するものであり、国内外で大きな注目を集めました。

続いて2015年には、この解釈変更を具体的な法律として整備するため、平和安全法制(安保法制)が成立します。この法制では、集団的自衛権を行使するための条件として「武力行使の新3要件」が定められました。これは以下の3つから構成されます。

  1. 日本と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し、日本の存立が脅かされ、国民の権利が根底から覆される明白な危険があること
  2. これを排除するために他に適当な手段がないこと
  3. 必要最小限度の武力行使に限られること

これらの条件は、集団的自衛権行使の対象を極めて限定的にするために設けられたもので、国際的な集団安全保障の考え方よりも厳格な制約を課しています。日本が集団的自衛権を行使するには、単に同盟国が攻撃されたという状況だけでは足りず、日本自身の存立が危機に晒されるかどうかが判断の中心になります。

この法制度の成立により、日本の安全保障政策は歴史的な転換点を迎えましたが、同時に社会的な議論も活発化しました。支持する立場は「変化する国際情勢に対応するためには必要な措置だ」と主張する一方、反対の立場は「憲法の平和主義を逸脱し、海外での武力行使に道を開くのではないか」と懸念を示しました。

その後、安保法制は実際に運用され、米軍艦艇防護などの限定的な活動が行われていますが、最大の焦点は依然として「どのような事態が日本の存立危機につながるのか」という判断基準です。まさにこの点で、高市首相の台湾有事に関する答弁が大きな意味を持ちます。

「存立危機事態」とは何か

日本が集団的自衛権を行使できるかどうかを判断するうえで、最も重要な概念が「存立危機事態」です。これは2015年に成立した平和安全法制(安保法制)によって導入された法的カテゴリーで、集団的自衛権が実際に発動されるかどうかを決定づける“核心”の条件となっています。

存立危機事態とは、「日本と密接な関係にある国が武力攻撃を受け、日本の存立が脅かされ、国民の生命や権利が根底から覆される明白な危険が存在する状態」を指します。ポイントは、“日本が直接攻撃されていなくても”成立し得るという点です。この特徴こそが、日本の安全保障政策における極めて重大な転換点となりました。

さらに存立危機事態が認定されると、日本は初めて「集団的自衛権に基づく武力行使」を行うことが可能になります。しかし、この認定は非常に慎重に行われるべきものとされ、安保法制の中でも厳格な条件が定められています。この法制度の背景にあるのは、憲法9条の制約を踏まえた「必要最小限度の武力行使」という原則であり、日本はあくまで例外的かつ限定的な範囲でのみ集団的自衛権を行使できる仕組みとなっています。

存立危機事態がどのような状況で想定されるのかについては、過去の政府答弁や国会審議でいくつかの事例が示されています。たとえば、「日本へ物資を運ぶ米軍艦船が攻撃され、日本のエネルギー供給が途絶する可能性がある場合」など、経済・物流基盤を脅かす事態も含まれ得るとされています。これにより、安全保障の定義が軍事的な脅威だけでなく、生活や経済の根幹に関わる領域にまで広がっていることがわかります。

この広範な解釈は、現代の安全保障環境に対応するためには重要である一方、「どこまでが存立危機事態に該当するのか」という線引きが難しいという問題を生み出します。この点で、台湾有事に関する高市首相の答弁は極めて重要な意味を持っています。台湾は日本に近接しており、海上交通路(シーレーン)としての台湾海峡は日本経済の生命線でもあります。さらに、沖縄や与那国島との距離は非常に近く、有事が生じれば日本領域への直接的影響は避けられません。

そのため、台湾で武力衝突が発生した場合、日本のエネルギー供給や物流、さらには在留邦人の安全、領域防衛などに深刻な影響が出る可能性があります。政府が台湾有事を“存立危機事態になり得る”と明言した背景には、こうした現実的なリスクが存在しています。

存立危機事態は、単なる法的概念ではなく、日本の安全保障政策の実際の運用を大きく左右する基準です。特に台湾情勢の不安定化により、「どのような状況で日本が武力行使を検討するのか」という判断が現実味を帯びてきたことで、今後の政策議論の中核を占めるテーマになっています。

高市首相の国会答弁:台湾有事は「存立危機事態」になり得るのか

2025年の国会で高市早苗首相が行った「台湾有事は日本の存立危機事態に該当し得る」という答弁は、日本の安全保障政策において重要な転換点として受け止められました。この発言は、単なる可能性論ではなく、政府が台湾情勢を“日本の安全保障に直結する危機”として明確に認識し始めたことを示すものであり、集団的自衛権の運用に関する議論に直接的な影響を与えています。

高市首相の答弁の核心は、台湾有事が「日本の存立が脅かされる可能性がある状況になり得る」という点を明確に示したことにあります。存立危機事態とは、日本が直接攻撃されていなくても、同盟国への攻撃や地域の緊張が“日本国民の生命や権利を根底から脅かす明白な危険”を生む場合に認定されます。高市首相の発言は、台湾周辺で武力衝突が発生した場合、その影響が日本にとって極めて深刻なものとなり得るという政府認識を反映したものです。

具体的に、台湾有事が日本の存立危機事態と評価され得る理由は以下のように整理できます。

第一に、日本の経済・物流に対する重大な影響です。
台湾海峡は日本のエネルギー輸入の大動脈であり、大量のタンカー・貨物船がこの海域を通過しています。台湾で有事が発生し、海上交通路(シーレーン)が封鎖・危険化すれば、日本経済は深刻なダメージを受ける可能性があります。これは単なる経済問題にとどまらず、日本国民の生活基盤を脅かす事態となり得ます。

第二に、地理的な近接性と自衛隊・在日米軍の位置づけです。
台湾と日本(与那国島)はわずか約110kmしか離れておらず、台湾海峡周辺が戦闘地域になれば、日本領域へのミサイル着弾や空域・海域の安全性悪化が現実的なリスクとなります。また、日本国内には在日米軍基地が多数存在し、台湾有事の際には米軍が出動する可能性が高いと見られています。米軍が攻撃を受けた場合、それが日本の存立危機に結びつくかどうかが、存立危機事態の判断に影響します。

第三に、在留邦人の安全と国民保護の問題です。
台湾には多くの日本人が生活しており、有事が発生した場合、日本政府は邦人救援や避難のために軍事的・人的支援を検討せざるを得ません。この救援活動自体が戦闘行動と密接に関連する場合、日本が危機に直接巻き込まれるリスクが生まれます。

こうした状況を踏まえると、高市首相の答弁は、日本が台湾情勢をこれまで以上に現実的な脅威として捉え、存立危機事態の判断において台湾有事が重要な要素となることを示したものだと言えます。この意味合いは軽視できず、今後の安全保障法制の運用、日米同盟との関係、さらには国民保護計画のあり方にまで波及する議論を引き起こしています。

特に注目すべき点は、この答弁が「集団的自衛権を発動する可能性が現実的に議論される段階になった」という認識を広く国内に示したことです。日本はあくまで限定的にしか集団的自衛権を使えませんが、台湾有事が存立危機事態と認定されれば、武力行使を含む措置を取る法的土台が整うことになります。

高市首相の発言は、今後の日本の防衛戦略を左右する大きな指標であり、台湾情勢が緊迫する中、日本がどのように備えるべきかという議論を加速させるものとなりました。

台湾有事が日本の安全保障に与える想定シナリオと主要な論点

台湾有事は、日本にとって「国外で発生する武力衝突」という枠を超え、日本の存立や国民生活に深刻な影響を及ぼす可能性のある事態として位置づけられています。地理的な近接性、経済・軍事の結びつき、そして日米同盟の存在など、多くの要素が複雑に絡み合うため、日本の安全保障にとって最も重要なシナリオのひとつとして議論されているのです。

台湾有事が現実化した場合、日本にどのような影響が生じるのか。ここでは、主要なシナリオと論点を体系的に解説します。

日米同盟の役割と自衛隊・在日米軍の動き

台湾有事が発生した場合、最も大きな焦点となるのは、日米同盟の運用です。米国は台湾関係法に基づき台湾の防衛支援を想定しており、戦闘が発生すれば在日米軍が作戦行動に移る可能性が極めて高いとされます。

特に、沖縄・嘉手納基地や横須賀の米第7艦隊は台湾有事で中心的な役割を担うと考えられています。これにより、日本国内が事実上の“前線拠点”として機能するリスクが存在します。米軍が攻撃対象となる場合、日本もそれに巻き込まれる可能性があり、これが存立危機事態の判断に影響を及ぼします。

自衛隊は「重要影響事態」または「存立危機事態」に該当する場合、後方支援や武力行使を含む任務に従事します。つまり、台湾有事は日米同盟の枠組みを最も厳しく試す事態と言っても過言ではありません。

シーレーン防衛への重大な影響

日本経済にとって最大の脆弱性の一つが、エネルギーと物資輸送の“海上交通路”(シーレーン)です。台湾海峡は日本の石油・LNG(液化天然ガス)輸送にとって欠かせない航路であり、ここが封鎖された場合、

  • エネルギー供給の停滞
  • 物価高騰や産業活動の混乱
  • 食料・生活物資の物流停滞

など、日本経済に深刻な打撃が及びます。

このため、政府も台湾有事を「日本の経済安全保障と直結する問題」として扱っており、シーレーン確保は存立危機事態判断の重要な材料となっています。

日本の領域への直接的リスク

台湾と日本(与那国島)はわずか約110kmしか離れていません。この地理的距離は、武力紛争が発生した際に日本領域が直接影響を受ける可能性が非常に高いことを意味します。

具体的には、

  • ミサイルの飛翔経路が日本近海や領空と重なる可能性
  • 沖縄・南西諸島への攻撃リスク
  • 電磁波戦(ジャミング)やサイバー攻撃による社会機能の停止

などが想定されています。

特に近年は自衛隊が南西諸島で部隊配置を強化しており、有事の際に自衛隊部隊が前線として扱われる現実的リスクが高まっています。

邦人保護・避難の課題

台湾には多くの日本人が在住し、企業活動も盛んです。有事が発生した場合、日本政府は邦人救出のための輸送・避難計画を実行する必要がありますが、その過程で軍事行動と直接関わる可能性があります。

  • 輸送機の派遣
  • 海上護衛
  • 退避支援に対する敵対勢力の妨害

これらは日本の安全保障体制に大きな負荷をかけ、存立危機事態と判断される要素となり得ます。

サイバー攻撃やハイブリッド戦の影響

台湾有事では、必ずしも“ミサイルと軍事衝突だけ”が起こるとは限りません。近年の紛争では、サイバー攻撃や情報戦、通信網の破壊など「ハイブリッド戦」が多用されており、日本もその影響を受ける可能性があります。

想定される攻撃には、

  • 金融機関へのサイバー攻撃
  • 交通網や電力施設のシステム障害
  • 偽情報の拡散による国内混乱

などが含まれ、これらは日本社会の安定を直接脅かします。

法制度・外交戦略への影響

台湾有事が現実味を帯びるほど、日本は以下のような分野で政策調整を迫られます。

  • 集団的自衛権の行使基準の明確化
  • 日米同盟の役割分担の再整理
  • 国民保護計画(避難・物流など)の強化
  • 経済安全保障政策のアップデート
  • 外交的な危機管理能力の強化

高市首相の答弁が注目されたのは、これらの領域で“政府の姿勢が変わりつつあること”を示唆したためです。

今後の課題と日本が備えるべきポイント

台湾情勢の緊迫化と、高市首相の「台湾有事は存立危機事態になり得る」という国会答弁により、日本の安全保障政策は新たな段階に入っています。集団的自衛権の運用、国際情勢に対する備え、経済安全保障、国民保護体制など、幅広い分野での再検証が求められており、政府・自治体・企業・国民がそれぞれの立場で現実的な準備を進める必要があります。

ここでは、日本が今後取り組むべき主要な課題を体系的に整理します。

集団的自衛権の判断基準のさらなる明確化

台湾有事の可能性が取り沙汰される中で、日本が集団的自衛権を行使するか否かの判断基準は、これまで以上に重みを増しています。平和安全法制では「武力行使の新3要件」が定められているものの、実際に存立危機事態を認定する判断プロセスは依然として曖昧な部分が残ります。

政府としては、

  • どの程度の地域不安定化を「存立危機」とみなすのか
  • 日米同盟の作戦行動と自衛隊の武力行使の関係
  • 必要最小限度の範囲をどのように具体化するのか

といった指針の明確化が不可欠です。専門家からは、より詳細な事例ベースの基準整理や、国会報告の透明性向上を求める声も高まっています。

南西諸島の防衛体制の強化

台湾と最も近い与那国島や石垣島、宮古島などの南西諸島は、台湾有事の際に日本の安全保障の最前線となる可能性があります。すでに自衛隊はミサイル部隊や監視部隊を配置し、抑止力を強化してきましたが、依然として課題は多く残ります。

求められる対応としては、

  • 島嶼地域の防衛インフラ整備(港湾・空港・避難施設など)
  • 住民避難計画の具体化と訓練の定期化
  • 地元自治体との連携強化
  • 自衛隊と在日米軍の共同対処能力の向上

などが挙げられます。これらは単なる軍事的対応ではなく、地域社会を守るための「国民保護体制」の根幹にも直結します。

国民保護計画の実効性強化

台湾有事は軍事衝突だけでなく、サイバー攻撃、通信遮断、物流の混乱といった多面的な影響を日本にもたらす可能性があります。そのため、自治体や企業を含む「国民保護計画」の見直しは不可避です。

重要な論点としては、

  • 住民避難(特に南西地域)の実効性
  • 避難経路・輸送手段・受け入れ先の整備
  • 通信障害時の代替手段
  • 医療・食料・エネルギーの供給確保
  • 在留邦人の救出と受け入れ体制

が挙げられます。これらは、戦争とは直接関係がないように見える分野も含みますが、広義の安全保障として非常に重要な位置を占めています。

経済安全保障の再構築

台湾有事が日本経済に与える影響は計り知れず、特にエネルギー・半導体・物流などの分野での脆弱性が浮き彫りになります。日本が備えるべき重点分野としては、

  • 重要物資の確保とサプライチェーンの多角化
  • 半導体・通信インフラの国内基盤強化
  • シーレーン代替ルートの検討
  • 企業の危機管理ガバナンス強化

などがあります。台湾は世界最先端の半導体産業を持つ地域であり、もし有事が発生すれば世界経済に大きな影響を及ぼすため、日本としても供給網の強化は喫緊の課題です。

外交・抑止力の強化と地域安定化への関与

台湾有事を未然に防ぐためには、軍事力だけでなく外交努力も重要です。日本は米国、韓国、オーストラリア、東南アジア諸国などと連携し、地域の安定化に貢献する必要があります。

具体的には、

  • 日米豪印(クアッド)の安全保障協力
  • ASEAN諸国との海洋安全保障対話
  • 経済・技術協力を通じた地域連携強化
  • 台湾情勢に関する国際的な危機管理メカニズム構築

といった多層的な外交戦略が求められます。


日本が直面する安全保障環境は急速に変化しており、これまでの「専守防衛」だけでは想定しきれない難しい局面が増えています。台湾情勢の不安定化は、日本に対して“より広範な安全保障の視野”を求めており、政府と国民が共有すべき課題が確実に増えています。

集団的自衛権と台湾有事をめぐる議論はどこへ向かうのか

本記事を通じて整理してきたように、「集団的自衛権」という概念は、単なる法律用語ではなく、現代の日本が直面する安全保障課題の中心に位置しています。とりわけ高市早苗首相が国会で示した「台湾有事は日本の存立危機事態になり得る」という答弁は、日本の安全保障政策における大きな転換点として注目されています。この発言は、政府が台湾情勢をこれまで以上に現実的かつ重大な脅威として捉えていることを示し、集団的自衛権の行使基準や日米同盟の役割、さらには日本国内の防衛体制や国民保護計画のあり方まで、幅広い領域で議論を加速させています。

台湾有事は、地理的な近接性や経済・軍事の結びつきから、日本に直接的な影響を及ぼす可能性があります。海上交通路やエネルギー供給の安全性、在日米軍の活動、自衛隊の対応、邦人避難、サイバー攻撃など、想定し得るリスクは多岐にわたり、日本の安全保障体制の弱点を浮き彫りにしています。また、台湾は世界の半導体供給網の中心でもあるため、台湾有事は日本経済、ひいては世界経済に重大な打撃を与える可能性があります。

こうした状況の中、日本が今後取り組むべき課題は明確です。まずは集団的自衛権の行使基準である存立危機事態の判断を、より透明性の高い形で整理し、国民と共有する必要があります。続いて、南西諸島の防衛体制や国民保護計画の実効性を高め、住民の安全を確保する体制を整えることも欠かせません。さらに、エネルギーや半導体など戦略物資の安定供給を確保するための経済安全保障政策を強化し、外交面では国際社会との協力をより深め、台湾情勢の安定化に貢献する必要があります。

日本が取るべき道は、単に“軍事的な強化”にあるわけではありません。外交、経済、技術、社会インフラなど、さまざまな分野が相互に連携する総合的な安全保障戦略が求められています。台湾有事に備えることは、結果として日本の国家基盤全体を強固にすることにつながり、平時における危機対応能力の向上にも寄与します。

集団的自衛権をめぐる議論は、今後ますます幅広い分野で深まっていくでしょう。国際情勢が不安定化する中で、日本がどのように自国の安全を守り、国際社会の安定に貢献していくのか。その選択は、政治だけでなく国民全体が向き合うべき重要なテーマです。

本記事が、読者の皆さまにとって「集団的自衛権とは何か」「台湾有事が日本にどのような意味を持つのか」を理解する一助となり、今後の議論への関心を高めるきっかけとなれば幸いです。

この記事を書いた人

いまさら聞けない自治体ニュースの管理人。
最近話題のニュースをアウトプットする場としてサイトを更新中。
なるべく正しい情報を届けるように心がけますが、誤った情報があればご一報ください。
本業は地方創生をメインとする会社のマーケティング担当者。

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