地方自治法改正で自治体のDX・サイバー対策はどう変わる?義務化への具体的対応ガイド

地方自治法改正で自治体のDX・サイバー対策はどう変わる?義務化への具体的対応ガイド 地方行政

2024年に成立した改正地方自治法。今回の改正において、情報政策担当者のみならず全庁的な注目を集めているのが、「デジタル技術の活用(DX推進)」と「サイバーセキュリティの確保」の法的義務化です。

これまで、自治体におけるデジタル化やセキュリティ対策は、総務省のガイドライン等に基づく「努力目標」に近い性質を持っていました。しかし、今回の法改正により、これらは「事務の適正な執行」を行うための不可欠な法的義務へと格上げされました。

背景にあるのは、ガバメントクラウドへの移行や業務システムの標準化、そして巧妙化の一途をたどるサイバー攻撃の脅威です。もはやデジタル化は「便利な道具」ではなく、行政サービスを維持するための「必須インフラ」であると定義されたのです。

「義務化されたことで、具体的に組織の何を変えなければならないのか?」 「万が一、対策が不十分だった場合の法的・社会的責任はどうなるのか?」

現場の担当者が今すぐ着手すべき具体的な対応策と、将来的なロードマップを徹底解説します。

DX推進の義務化 ― 「デジタル原則」の定着

今回の地方自治法改正における最大の変化の一つは、「情報システムの利用による事務処理」が、自治体の事務執行における標準的な手段として法的に位置づけられたことにあります。

これまで多くの自治体にとって、行政手続きのオンライン化や内部業務のデジタル化は、地域の実情に応じた「独自の取り組み」としての側面が強いものでした。しかし、改正法下では、デジタル技術の活用は「事務を適正かつ効率的に遂行するための義務」へとそのフェーズを移しました。

「デジタル原則」の法的根拠

改正法では、自治体が事務を行うにあたり、デジタル技術の活用を「基本」とすることが明文化されました。これは、単にパソコンを使うということではなく、「デジタル完結」を前提とした業務設計(BPR:ビジネスプロセス・リエンジニアリング)が、法律上の要請になったことを意味します。

  • オンライン手続きの標準化: 住民が役所へ足を運ぶことなく、24時間365日手続きができる環境の整備。
  • データの利活用: 庁内に点在するデータを横断的に活用し、エビデンスに基づいた政策立案(EBPM)を行う体制。

ガバメントクラウドと「標準化法」との連動

この義務化の背景には、2025年度(令和7年度)末を目指して進められている「地方公共団体情報システム標準化法」との密接な連携があります。

共通基盤であるガバメントクラウドへの移行は、単なるサーバーの置き換えではありません。全国一律の標準準拠システムを利用することで、自治体間のデータ連携をスムーズにし、維持管理コストを抑制することが狙いです。法改正によってこの流れが加速し、もはや「独自のやり方」に固執することは、事務の効率化義務に反すると捉えられる可能性さえ出てきています。

地域DXを牽引する「ハブ」としての役割

今回の改正は、庁内のシステム化に留まりません。自治体には、地域全体のデジタル化(地域DX)を主導する役割も期待されています。

  • 地域課題の解決: 防災、福祉、教育など、デジタルを活用して地域課題を解決する施策の展開。
  • 格差の是正: デジタルに不慣れな高齢者等へのフォロー(デジタル・ディバイド対策)も、DX推進の一環として義務的な重要度を増しています。

現場への影響: 今後、予算編成や事業計画において「なぜデジタル化しないのか」という問いに対し、合理的な説明が困難になります。デジタル化は「プラスアルファの投資」ではなく、「事務を継続するための固定費」として再定義する必要があります。

サイバーセキュリティ対策の義務化 ― 責任の明確化

今回の地方自治法改正において、実務担当者が最も注視すべき点は、サイバーセキュリティの確保が「努力義務」から「法的義務」へと格上げされたことです。これまでもガイドライン等で対策は求められてきましたが、法律に明記されたことで、対策の不備は「法令違反」に直結する重みを持つようになりました。

「安全確保義務」の法定化

改正法では、地方公共団体に対し、情報システムの利用にあたって「サイバーセキュリティの確保のために必要な措置を講じなければならない」と規定されました。

これは、単にウイルス対策ソフトを入れるといった技術的な話に留まりません。

  • 機密性(Confidentiality): 漏洩を防ぐ
  • 完全性(Integrity): 改ざんを防ぐ
  • 可用性(Availability): サービスを停止させない

これら3要素を維持することが、自治体としての「一丁目一番地」の責務となったのです。

問われる「組織的対応」と体制整備

セキュリティはもはや情報システム部門だけの問題ではありません。法律が求める「必要な措置」には、以下の組織的な構えが含まれます。

  • CSIRT(シーサート)の機能強化: インシデント発生時に即座に対応できる実効性のある組織体制。
  • SOC(ソック)による監視: 24時間365日のネットワーク監視体制の構築(単独または共同利用)。
  • 全庁的な教育: 職員一人ひとりのリテラシー向上。人的ミス(フィッシングメール等)による被害も、組織の管理責任として問われる可能性が高まります。

ガバメントクラウド移行に伴う「責任共有モデル」

ガバメントクラウド(Gov-Cloud)への移行により、インフラ側のセキュリティは国やクラウド事業者が担保します。しかし、「その上のアプリケーションやデータの管理責任」は依然として各自治体にあります。

「クラウドだから安心」という誤解を捨て、設定ミス(設定不備による公開設定など)を防ぐための、より高度な管理能力が現場に求められるようになります。

対策を怠った際のリスク

法的義務化により、万が一大規模な個人情報漏洩やシステムダウンが発生した場合、以下のリスクが顕在化します。

  • 損害賠償責任: 住民や事業者からの訴訟リスクの増大。
  • 社会的信用の失墜: 議会での追及や、メディアによる厳しい批判。
  • 監査での指摘: 外部監査等において、対策の不備が「義務違反」として厳格に指摘される対象となります。

現場への影響: これまでは「予算がないからできない」という言い訳が通用した側面もありましたが、今後は「法律で定められた義務を果たすための予算」として、優先的に確保する必要があります。

自治体担当者が直面する「3つの壁」と、その「突破口」

法改正によって「義務」という強力な根拠が得られた一方で、現場の担当者が直面する現実は、依然として厳しいリソースの制約の中にあります。ここでは、多くの自治体がぶつかる「3つの壁」をさらに深掘りし、実務レベルでの打開策を提案します。

「予算」の壁 ― 「コスト」から「不可欠なインフラ維持費」への再定義

これまでの予算編成において、IT・セキュリティ関連経費は「事務効率化のための投資(=余裕があればやるもの)」と見なされがちでした。しかし、義務化によってその前提が崩れます。

  • 直面する課題
    ガバメントクラウド移行に伴う運用コストの変動(従量課金制への対応)。
    • 24時間365日の監視体制(SOC)構築にかかる莫大なランニングコスト。
  • 突破口:予算要求の「論理(ロジック)」を変える
    • 「法的不作為」のリスク提示
      対策を怠った状態で事故が起きた際、改正法違反として「安全確保義務を怠った」と指弾される法的・社会的リスクを財政部門に明確に提示します。
    • 広域連携によるスケールメリット
      単独自治体での構築が困難な場合、都道府県単位の「自治体情報セキュリティクラウド」の高度化や、近隣市町村との共同発注により、1団体あたりの負担を劇的に抑えるスキームを構築します。

「人材」の壁 ― 「IT専門家」ではなく「ITガバナンスの目利き」を育てる

全ての職員に高度なITスキルを求めるのは不可能です。また、専門人材をプロパー職員として確保し続けることも、地方自治体の給与体系では限界があります。

  • 直面する課題
    ベンダーの提案が妥当かどうか判断できる職員がいない。
    • 「標準化」対応に追われ、本来の「DX(業務変革)」に割く人員が足りない。
  • 突破口:役割の「外部化」と「内製化」の再整理
    • 外部専門人材(CIO補佐官等)の戦略的活用
      週1〜2回の勤務でも、意思決定の局面で専門的助言を得られる体制を作ります。重要なのは「作業」を任せるのではなく「判断の根拠」をもらうことです。
    • 「ローコード・ノーコード」による現場主導の改善
      専門知識がなくても、現場の保健師やケースワーカーが自ら業務アプリを作れる環境(ツール)を導入。情シス部門は「作る」役割から「ルールの管理・統制(ガバナンス)」へとシフトします。

「意識」の壁 ― 「情報部門 vs 原課」の構図を壊す

DXやセキュリティが「情シスの仕事」と捉えられている限り、真の変革は起きません。特にセキュリティは、利便性を損なう「邪魔なもの」と原課から敬遠される傾向があります。

  • 直面する課題
    「今のままで困っていない」というベテラン職員や現場の抵抗。
    • 二要素認証や操作ログ取得に対する「業務が遅くなる」という不満。
  • 突破口:DXを「攻め」、セキュリティを「信頼の守り」として繋げる
    • BPR(業務再設計)とのセット提案
      単にシステムを入れるのではなく、「このツールを入れれば、あの面倒な紙の台帳管理が不要になる」という原課のメリットを先に提示します。
    • 「信頼のインフラ」としてのセキュリティ
      セキュリティ事故が起きれば、数週間にわたり全業務が停止し、住民の不利益に直結することを具体的にシミュレーション(演習)させます。「自分たちの業務を守るためのルール」という認識への転換を図ります。

担当者の孤独を解消するために

これらの壁は、担当者一人で乗り越えられるものではありません。今回の法改正を「追い風」として、まずは副市長級を委員長とした「全庁的なDX・セキュリティ推進委員会」を形骸化させずに再起動させること。これが、3つの壁を突き崩すための最初の一歩となります。

これからのロードマップ

地方自治法改正による義務化は、一度設定すれば終わる「ゴール」ではなく、継続的な「運用サイクル」の始まりです。ガバメントクラウドへの移行期限(2025年度末)を見据え、自治体が辿るべき3つのステップを整理します。

Step 1:【現状把握とギャップ分析】(今すぐ〜3ヶ月)

まずは「何が足りないか」を可視化することから始めます。

  • セキュリティポリシーの総点検
    改正法および総務省の最新ガイドラインに照らし合わせ、既存の規定が「義務化」の基準を満たしているか確認します。特に「外部委託先の監督責任」が曖昧なケースが多いため注意が必要です。
  • アセット(資産)の棚卸し
    庁内で独自に導入されている「野良システム」や、シャドーIT(個人用クラウドストレージ等)が放置されていないか徹底調査します。これらは義務化下では「管理責任の放棄」とみなされる最大のリスクです。

Step 2:【組織体制の再構築と予算化】(3ヶ月〜1年)

義務を遂行するための「箱」と「弾薬(予算)」を揃えます。

  • CISO(最高情報セキュリティ責任者)の権限強化
    これまで形式的だったCISOの役割を、全庁的な業務停止判断や予算差配ができる実権を持つポストへと明確化します。
  • CSIRT/SOCの実効性向上
    インシデント発生時の連絡体制を図面上だけでなく、「抜き打ち訓練」等を通じて動ける組織へと磨き上げます。
  • 次年度予算への組み込み
    2025年度のシステム標準化対応と合わせ、セキュリティ監視の外部委託費や、DX推進のためのツール導入費を「法定義務の履行経費」として予算要求に盛り込みます。

Step 3:【デジタル原則への業務シフト】(1年〜継続的対応)

システムを入れる段階から、業務そのものをデジタルへ最適化するフェーズです。

  • 「アナログ回帰」の禁止
    新規事業を立ち上げる際、オンライン申請を前提としない設計を原則認めない運用(デジタル・バイ・デフォルト)を徹底します。
  • データ利活用の習慣化
    各課の統計データや活動記録をダッシュボード化し、経験や勘に頼らない「データに基づく意思決定(EBPM)」を日常の事務に取り入れます。

改正法を「攻めの武器」に変えるために

今回の地方自治法改正は、一見すると現場への「新たな負担」や「厳しい縛り」に見えるかもしれません。しかし、その本質は、これまで予算や人員の確保が後回しにされてきたデジタル・セキュリティ分野に、揺るぎない「法的根拠」が与えられたという点にあります。

「法律で決まったことですから」という言葉は、組織内の壁を突き崩し、予算を確保するための強力なキーワードになります。

DX推進もサイバーセキュリティも、究極の目的は「住民の命と暮らしを守り、利便性を最大化すること」に他なりません。この原点に立ち返り、法改正を「ただの事務作業」で終わらせるのではなく、自治体そのものをアップデートする好機として捉え直すことが、今、現場の担当者に求められています。

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本業は地方創生をメインとする会社のマーケティング担当者。

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