入管庁が改正入管法運用状況を公表 難民申請&在留資格のポイントまとめ

入管庁が改正入管法運用状況を公表 難民申請&在留資格のポイントまとめ 地方行政

改正出入国管理法の概要

日本では、外国人が日本に入国・在留するためのルールを定める法律として「出入国管理及び難民認定法(入管法)」が存在します。この法律では、たとえば「日本に入国するときの手続きはどうするか」「在留資格(ビザ)を取るにはどうしたらよいか」「難民として保護すべき場合や退去を命じる場合にはどうするか」といったことが定められています。いわば、外国人の出入国を管理し、日本国内で適正に暮らすためのしくみを法律として整えているわけです。

改正の背景

日本では人口減少や高齢化が進行し、国内の労働力不足が大きな課題となっています。そこで2019年4月には、労働力確保を目的とした「特定技能」という新たな在留資格が創設されました。これが大きな転換点となり、外国人労働者をこれまでより幅広く受け入れる道がひらかれたのです。しかし、その一方で「仮放免」をはじめとする長期収容の問題、不法滞在や難民申請をめぐる不正行為などが浮上し、改善を求める声が高まってきました。

日本の入管施設では、在留資格がなくなった外国人を強制的に収容するケースがあり、その収容が長期化する問題や、収容中の処遇が厳しく批判される事案も発生してきました。中には、適正な医療が受けられず死亡したスリランカ人女性の痛ましい事件が社会問題化し、法改正の一端を担うきっかけにもなりました。

改正法の施行時期とポイント

改正入管法は2023年6月や2024年6月といったタイミングで大きな改正点が施行されました。たとえば以下のような内容が柱です。

  1. 難民認定手続きの見直し
    従来は難民申請を繰り返すことで送還を逃れるケースがありました。改正では3回目以降の難民申請は、相当の理由がある場合を除き、申請中でも強制送還できる可能性を明記しています。
  2. 収容や仮放免制度の見直し
    長期収容問題への対策として、新たに「監理措置」という仕組みが設けられました。収容しなくとも、指定された監理人のもとで社会生活を送りながら在留資格の手続きや退去手続きが進む制度です。これにより、健康面・人権面の問題改善が期待される一方で、監理人の負担増も懸念されています。
  3. 補完的保護対象者の認定
    難民条約の要件に厳密には当てはまらなくとも、戦争などで母国に戻れば深刻な危険がある場合、「補完的保護対象者」として保護する仕組みが加えられました。この認定を受けると「定住者」の在留資格が与えられる仕組みです。
  4. 出入国手続きと審査の迅速化
    外国人材を活用したい企業側の利便性向上や、難民として本当に保護すべき人の救済を早めるため、審査の迅速化やオンライン申請の活用といった取り組みも行われています。

わかりやすく学校にたとえてみる

たとえば学校の校則に置き換えてみると、「転校生(外国人)が、きちんと手続きを踏んで入学できるしくみを整える」ことが入管法の役割にあたります。また、何らかの理由で退学(退去)しなくてはいけなくなった生徒に対しても、校則違反や不正な行為があれば退学手続きを進めたり、退学までの間の校内での過ごし方を決めたりする――これが「退去強制手続き」「収容」に近い考え方です。

今回の改正で議論が起きているのは、さまざまな事情を抱えた外国人をどう保護するか、あるいは退去手続きをどう公正かつ円滑に行うか、という点です。特に難民申請や長期収容の問題に焦点が当たり、「人権をきちんと守りながら法律を適用できているのか」というところに強い関心が集まっています。


問題点と批判の焦点

改正入管法では、「難民申請中3回目以降は強制送還を可能にする」と定められた部分や、「監理措置」の導入に関して、多くの論争が起こっています。特に以下の点が大きな問題・批判の対象となっています。

難民保護と「3回目以降の難民申請」の扱い

従来、日本の難民認定率は諸外国に比べてかなり低いことで知られており、さらに難民申請中であれば強制送還されない規定がありました。これが改正後、3回以上申請しても「相当の理由がない」場合には強制送還できるようになったのです。一方で、世界的には武力紛争や政治的迫害など、亡命や避難を余儀なくされる状況が続いており、認定率の低さや審査の透明性が十分とはいえない日本が「誤って本当に保護すべき人を送還してしまうリスクはないか」という強い懸念があります。

  • 賛成意見
    「繰り返しの難民申請による不正滞在を防ぎ、本来保護すべき人を迅速に救済するためには必要な仕組み」との声があります。審査を長期化させないことで、本当に迫害におびえる人々を早く保護できると主張する意見です。
  • 反対意見
    「日本の難民認定率が低く、調査や審査の透明性にも不安がある。正当な理由があっても3回目以降の申請は受理されにくく、誤って送り返される人が出るおそれが高まる」との批判が根強いです。特に母国へ戻れば命の危険があるようなケースでは「たった一度の審査で判断を誤れば重大な人権侵害につながる」と危惧されています。

監理措置と長期収容の問題

改正後は、収容に代わる「監理措置」が導入されました。これは、「逃亡などのリスクが高くない限り、収容せずに監理人と呼ばれる人のもとで生活を送れる」という制度です。被収容者にとっては収容施設に長期間とどまる苦痛が軽減される可能性があります。一方、監理人への責任や負担が大きく、監理措置の実効性を確保するために、どのように監理人を選び、どう管理するかが課題とされています。

  • 監理措置のメリット
    • 精神的・身体的な負担が減る
    • 医療アクセスなども普通に受けやすくなる
    • 社会とのつながりを持ちながら審査を続けられる
  • 監理措置のデメリット・課題
    • 監理人が保証金を肩代わりするケースなど負担が大きい
    • 逃亡や不法就労を防止するためには厳格なモニタリングが必要
    • 監理される外国人が居住費や生活費をまかなえない場合、経済的支援との連携が不十分だと「結局生きていけない」という問題が起きうる

補完的保護対象者制度の評価と課題

「難民条約だけでは網羅しきれない、迫害の可能性がある人々を補完的保護対象者として認定する」仕組みが盛り込まれた点は評価されています。たとえば母国が内戦状態で戻れない人や、宗教・民族の対立などで帰国すれば生命の危険がある人についても、難民ではないが日本で保護する仕組みが存在するということです。

一方で、その「認定プロセスが十分透明か」「審査体制が整っているか」はまだ未知数です。結局は行政が判断するため、明確なガイドラインや外部の専門家によるチェックがなければ運用が恣意的になる可能性も指摘されています。

実効性の担保と入管体制の強化

改正法によって、さまざまな新しい手続きが導入されたり、従来の仕組みが見直されたりしています。しかし、これらを適切に運用するには、入管の審査官などの人的リソースを増やす必要があるともいわれています。難民認定、補完的保護対象者認定、監理措置の管理など業務が増す中で、きちんと研修を受けた職員が十分に配置されるかという課題もあります。

さらに、一部では「入管庁が送還を強化する方針を打ち出す一方で、あまりに過重な業務を職員に負わせれば審査が粗くなる恐れがある」と懸念されます。ここには費用面も絡んでおり、人手不足や予算不足によって、結果的に外国人の権利を守るという視点が後回しにされる可能性があるのです。


クルド人問題との関連や社会的影響

改正入管法の議論には、埼玉県川口市に多く在留するクルド人の方々の問題などがしばしば取り上げられています。クルド人は、中東の地域をまたいで住んでいる民族で、トルコやイラン、イラクなどに居住しています。政治的・民族的な迫害を理由に日本に逃れてきたケースも多く、彼らの在留資格や就労状況が注目を浴びています。

川口市クルド人問題とは

報道や市民の声によれば、川口市ではクルド人コミュニティが長年にわたって増加してきました。なかには解体業など労働がしやすい職場で働いたり、あるいは無資格での就労や無免許運転などを行う事例も報じられ、治安面でのトラブルが懸念されることがあります。一方で、長く日本に暮らし、地域社会に溶け込むクルド人も少なくありません。

  • 市長の発言と反響
    「在留資格のないクルド人は自国に帰るべき」という市長の発言が報じられ、さらにSNS上で市長に対する脅迫も起こったことなどが大きく取り上げられました。これに対し、「本当に迫害から逃れてきた人まで一律に強制送還するのか」との批判や、「市民の安全を守るためには厳格に対処すべき」とする意見が衝突しています。

難民申請と仮放免で生活するクルド人

クルド人の多くは、トルコの治安や民族問題を理由に難民申請をしているケースが見られます。しかし、日本の難民認定は厳しく、何度も申請を却下されている人がいます。それでも3回、4回と繰り返し申請を行う「繰り返し申請」は改正後の法律では大幅に制限されるため、該当者は送還リスクが高まる可能性があるのです。

また、収容施設に長期間入れられ、最終的に「仮放免」という形で一時的に施設外で過ごしている人もいます。仮放免中は働くことが認められず、生活費や医療費を稼げないまま、家族の支援やコミュニティの助けに頼っているケースも多いのが実態です。改正入管法によって導入された「監理措置」が適用されれば、ある程度生活が保障されるかもしれない反面、逃亡リスクの判断が厳しく下されれば再収容や送還もありえます。

トラブルと地域社会の対立

クルド人コミュニティが集中する地域では、騒音や交通違反、ゴミ出しのルール無視などの日常的トラブルが指摘される一方で、地主や企業側が安価な労働力としてクルド人を雇用している実態もあり、双方が利益を得ている側面があります。そのため、地域住民からすれば「突然、送還してしまえば業務が回らなくなるのでは」という懸念も存在します。

しかし、外部から見ると、「法を無視してトラブルを起こす外国人が多い」というイメージだけが先行しがちです。とくに治安に関するニュースは大きく報道されやすく、地元住民の一部に不安を与え、民族差別的な言説がネット上で過熱することもあります。

行政の苦悩と法改正の影響

クルド人問題が大きくクローズアップされる背景には、「地域コミュニティの安定」「人道的保護」「労働市場での人手不足解消」など、複数の論点が複雑に絡んでいます。市長や自治体としては治安維持と住民の不安解消が急務ですが、国(入管庁)の方針や法改正の内容を超えて踏み込む権限はありません。

改正入管法では「不法滞在者の就労の厳格化」「難民申請の3回目以降の制限」などが打ち出されており、今後、在留資格が得られないまま滞在しているクルド人(あるいはほかの国の人々)に対して、強制送還が一気に進むのではないかという不安が現場で語られています。一方で、実際に送還する国側も手続きに協力しないケースがあり、行政も市民も「現実には一筋縄ではいかない」というジレンマを抱えています。

まとめ

クルド人に限らず、改正入管法が施行されることで「仮放免の長期化」に苦しんでいる人たちの扱いはどうなるのか、「監理措置」はきちんと運用されるのかが焦点となります。地域社会の安定と人道的な保護の両立は、改正の狙いでもありますが、実態をみるとまだまだ課題が山積していると言えるでしょう。


今後の課題と展望

ここまで、改正入管法の概要や問題点、クルド人問題などを踏まえた社会的影響を整理しました。最後に、今後どのように法と運用を改善・充実させていくべきか、考察を示します。

難民認定・補完的保護認定の透明性向上

改正入管法では「3回目以降の難民申請を制限する」規定が盛り込まれましたが、「正当な理由があれば強制送還を停止する」との例外もつくられています。大切なのは、誰がどのように「正当な理由」を判断するかという透明性です。

  • 第三者機関の導入: 難民認定や補完的保護対象者の認定のプロセスに、法律専門家や難民問題の有識者など外部の専門家が加わる仕組みづくりが望まれます。
  • ガイドラインの充実: 「どんな迫害のリスクが認められるか」を分かりやすく示したガイドラインを作成し、公開することで、申請者にとっても公平に審査を受ける道がひらけるでしょう。

監理措置の実効性確保と収容の最小化

長期収容問題の解消に向けて「監理措置」が導入されたのは進展ですが、監理人の選定や責任の重さ、保証金制度の仕組みなど、まだ明確になっていない部分も多々あります。

  • 監理人への支援: 監理措置を適切に機能させるには、監理人となる個人や団体への研修や支援(資金面や人的サポート)が不可欠です。
  • 健康上の理由への十分な配慮: 収容が身体的に困難な外国人については、仮放免や監理措置を積極的に活用し、医療アクセスを確保する仕組みの整備が望まれます。
  • 過度な負担とならないように: 監理措置といえど、被監理者の自由やプライバシーを必要以上に制限しては人権問題が再燃します。あくまで収容せずに暮らせることが基本との方針が必要です。

地域社会との連携と多文化共生

クルド人問題に象徴されるように、外国人が特定地域に集中するとき、その地域社会との摩擦は避けられません。しかし、日本社会が世界的な人口移動の中で「外国人と共に生きる道」を歩むなら、互いのルールや文化を尊重し合う多文化共生が欠かせません。

  • 自治体レベルでの多言語案内や相談窓口: 地域でのトラブルはゴミ出しや言葉の壁から生じるケースも多いため、多言語対応の窓口、生活ルールのガイド作成などが急務です。
  • 企業との連携: 外国人労働者が増える背景には企業の人手不足があり、企業も在留資格手続きや地域コミュニティとの連携に協力する責任があります。
  • 人権と治安を両立するしくみ: 川口市などで指摘される犯罪的行為に対しては毅然と取り締まる一方、人道的保護が必要な外国人には適切な救済を与えるというバランスを保つことが重要です。

政府・入管庁の体制拡充

改正入管法で新設された補完的保護対象者認定や監理措置を適切に運用するには、入管庁が十分な人員やノウハウを持つことが不可欠です。しかし、現場では審査官や警備官が不足しているともいわれ、事務が追いつかずに審査が長期化・粗雑化するリスクがあります。

  • 職員の専門性向上: 難民審査や監理措置の判断を正しく行うための研修、外国語や異文化理解の教育を継続的に行う必要があります。
  • IT化・オンライン申請: 一部ではオンライン化が進んでいますが、さらなる効率化を図り、審査の正確性・迅速性を上げる工夫が求められます。

グローバルな視点からの調整

難民問題や外国人労働者の受け入れは、日本だけの問題ではなく世界各国が抱えている課題です。国際条約や各国の人権意識の高まりを踏まえ、「日本はどうやって世界水準と足並みを揃えていくか」が問われるでしょう。国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)など国際機関の協力を得ることで、公平で透明性の高い制度設計がさらに期待されます。


おわりに

改正出入国管理法は、外国人を取り巻く環境に大きく影響する法律です。人権の保護、地域社会の安定、経済的必要性など、さまざまな観点が混在しているため、一筋縄ではいきません。特に難民認定・補完的保護認定や監理措置の運用が実際にどうなるのかが大きな注目点であり、日本の国際的評価にも関わるでしょう。

この改正法が現場でどう活かされるか、あるいは課題を残すのか、国民やメディアの注視が必要です。個々の外国人への処遇が日本の「優しさ」あるいは「厳しさ」を映す鏡となるでしょう。そして、社会としては外から来る人を一律に排除するのでなく、相手の文化や事情を理解し、互いにトラブルを回避する努力を共有していく姿勢が不可欠ではないでしょうか。

この記事を書いた人

いまさら聞けない自治体ニュースの管理人。
最近話題のニュースをアウトプットする場としてサイトを更新中。
なるべく正しい情報を届けるように心がけますが、誤った情報があればご一報ください。
本業は地方創生をメインとする会社のマーケティング担当者。

管理人をフォローする
地方行政政府
管理人をフォローする
タイトルとURLをコピーしました