リチウムイオン電池とは? その特徴と利用される製品
リチウムイオン電池(以下、リチウム電池と呼ぶ)は、多くの電子機器の動力源として広く使われている充電式の電池です。たとえば、スマートフォンやノートパソコン、携帯型ゲーム機、デジタルカメラ、コードレス掃除機、ワイヤレスイヤホン、モバイルバッテリー、加熱式たばこ、電動自転車など、身近な電子製品にはほとんどリチウム電池が搭載されているといっても過言ではありません。
では、なぜリチウム電池がこれほど普及したのでしょうか。その理由の一つは、リチウムという金属が非常に軽く、同じ重さでも多くのエネルギーを蓄えることができるからです。私たちが使う機器を長時間動かせるうえに、コンパクトかつ高性能を実現できるため、いまや標準的な充電池として広まっています。
ただし、リチウム電池には強いエネルギーを蓄えているがゆえの注意点もあります。たとえば、電池が損傷したり、長期間使わずに放置したりすると、内部でガスが発生して膨張したり、外部から強い衝撃を受けることでショートして発火・爆発する危険性があるのです。リチウム電池の火災事故は、ごみ収集車内やごみ処理施設などで年々増加しており、その理由は、誤った捨て方によって可燃ごみなどに混在してしまうことが多いからだといわれています。
さらに、リチウム電池が燃えたり破裂したりすると、大きな火災へとつながる可能性があります。収集車の中で火が出た場合、作業員だけでなく周辺の建物や住民に危険が及ぶこともありますし、処理施設がダメージを受ければ、その地域全体のごみ処理がしばらく滞ってしまうかもしれません。
こうした事故を防ぐには、リチウム電池を普段から安全に使うこと、そして廃棄するときには正しい方法で処分することが必要です。また、リチウム電池が搭載された小型家電などは、自治体の回収拠点や指定されたステーションに分別して出す取り組みが全国で行われつつあります。自治体によってルールが異なるため、お住いの地域の回収日や回収区分などをしっかり確認しておきましょう。
どんな製品に使われているか
- スマートフォンや携帯電話
もはや生活必需品ですが、内部にはリチウム電池が搭載されており、経年劣化で膨らむことがあるので注意が必要です。 - ノートパソコンやタブレット
持ち運びできるパソコンやタブレットに欠かせない充電池として採用されています。長期間使わなかったり、高温下で放置すると劣化しやすくなります。 - 携帯型ゲーム機
たとえば「PSP」や「DS」、最近ではスイッチなど、ポータブルゲームの中にリチウム電池が使われています。古いモデルだと劣化で電池が膨らみやすくなるので要チェックです。 - モバイルバッテリー
スマートフォンを外で充電するためのバッテリー製品です。特に、海外製や粗悪品などは発火・爆発の事例が報道されることもあります。 - 加熱式・電子たばこ
火を使わず、バッテリーで加熱する仕組みのため、大きな電力を短時間に供給するリチウム電池が使われています。 - コードレス掃除機や電動アシスト自転車
小型家電製品にもリチウム電池が使われることが増え、電動工具や電動アシスト自転車などでも広く活躍しています。
このように、現代の便利な道具の多くがリチウム電池によって支えられています。しかし、利便性と引き換えに火災リスクや廃棄時のトラブルを伴うことは、ぜひ理解しておきたいポイントといえます。
リチウムイオン電池の処分リスクと回収の大切さ
前章で述べたように、リチウムイオン電池は多くの製品に搭載されている便利な存在です。しかし、使い方や廃棄方法を誤ると、ごみ処理施設や収集車両で火災・発火・爆発などの深刻な事故を引き起こす危険性があります。ここでは、リチウム電池を適正に処分する際に意識したいポイントや回収ルートについて見ていきましょう。
不適切な廃棄による火災リスク
- 誤って可燃ごみに混ぜるリスク
「ごみ袋の奥に隠れていて収集員が気づかない」「圧縮されて火花が出る」などの要因で、リチウム電池がショートして発火する事例が増えています。 - 破砕施設や圧縮施設での事故
ごみの中間処理段階で、リチウム電池に大きな衝撃や圧力が加わり、破損・漏液によって燃え上がる場合があります。一度火が出ると周囲のプラスチック製品などに延焼し、大きな火災へと発展するケースも報告されています。 - バッテリーの劣化・膨張
特に古い携帯ゲーム機やノートパソコンに入ったままのバッテリーが、長いあいだ放置されて膨張し、外装ケースを破壊したり、破裂寸前の状態になっていることも少なくありません。劣化したバッテリーほど危険性が増すので、こまめなチェックが必要です。
回収の仕組みを知ろう
リチウム電池の安全な廃棄やリサイクルを推進するために、さまざまな回収ルートが用意されています。しかしながら、自治体ごとに回収方法や分別区分が異なっており、一般市民には分かりにくい場合もあります。お住いの地域でどんな収集日や収集区分が存在するのか、以下のような情報を確認しておくと安心です。
- 市区町村の広報・ウェブサイト
分別ガイドやごみ収集カレンダーに、「リチウムイオン電池(または充電式電池)をどう処分すべきか」が記載されていることがあります。よく見つからないときは、市役所(または町村役場)の環境担当部署へ問い合わせると確実です。 - 拠点回収(回収ボックス)の活用
家電量販店などに置かれた回収ボックス、もしくは自治体の公共施設に設置されている専用箱に、使用済みリチウム電池を入れておくと、回収事業者を通じてリサイクルされます。 - 小型家電リサイクル
携帯電話やデジタルカメラ、携帯ゲーム機など「小型家電」扱いの電子機器を引き取っている自治体の仕組みを利用すれば、リチウム電池を取り外せない製品もひとまとめに引き渡せる場合があります。 - 有害ごみ・危険ごみ区分でのステーション回収
一部の自治体では、「有害ごみ」「危険ごみ」として月に1回などで回収日を定め、リチウム電池やスプレー缶、ライターなどを合わせて集めています。収集のときは「雨の日に水濡れしないよう透明袋で出す」「電極部をテープで絶縁する」などのルールがあるので要チェックです。
絶縁処理と保管上の注意
リチウム電池は、端子部分をテープで絶縁処理することが基本です。金属端子がむき出しのまま保管すると、電池どうしがこすれてショートし、火花が飛んで発火につながる危険があります。特に大量にまとめて処理施設に保管する自治体やリサイクル業者では、絶縁が不十分だと爆発的に燃え広がる可能性があるため注意が必要です。
膨張・変形したリチウム電池などは、他の正常な電池よりもより危険度が高いため、耐火性の容器に個別で保管し、できるだけ速やかに適正に処分することが望ましいとされています。
リチウムイオン電池をめぐる最新の取り組みと私たちにできること
前章までで述べたように、リチウム電池はとても便利ですが、廃棄時には火災など大きなリスクを伴う場合があるため、自治体や国、リサイクル団体などが連携して回収の仕組みを整備しているところです。一方で、まだすべての地域で統一的な対応ができているわけではなく、自治体によっては回収ルールが十分整っていない場合もあります。ここでは、現在進められている取り組みや、私たちができることをまとめます。
環境省による全国的な通知と自治体の取り組み
環境省は、リチウム電池による廃棄物処理施設などでの火災が深刻な問題になっていると受け止め、全国の市区町村に対し「リチウム蓄電池の分別回収を徹底するように」との通知を出しました。これを受け、多くの自治体では「有害ごみ」あるいは「危険ごみ」などの新しい区分を設けたり、拠点回収を始めたりしています。また、処理施設においても、リチウム電池が混ざらないよう手選別や機械選別を強化したり、発火を検知して自動散水ができる設備を導入するなどの対策を進めています。
店舗・事業者との連携回収
家電量販店やホームセンター、コンビニエンスストア、スーパーマーケットなどにリチウム電池回収ボックスを設置し、いつでも住民が安全に不要電池を持ち込めるようにしている例も増えています。こうした店舗と行政が協力し、広く呼びかけを行うことで、自治体が指定する廃棄日を待たずに都合の良いタイミングで回収できる利便性が高まります。特に人の行き来が多い店舗での取り組みは、住民への周知効果が大きいことから、普及が期待されています。
水没(塩水につける)による放電には要注意
インターネット上では、「リチウム電池を処分するときは塩水につけて放電すれば安全」などの情報も見られますが、実はこれは大変危険なやり方とされています。確かに放電の効果はあるかもしれませんが、水が電気分解して水素ガスを発生させるおそれがあり、アルカリ性に変わった水が目に入ると危険です。また、排水処理も簡単ではないため、専門家やリサイクル業者などの指導が必要とされます。基本的には端子部分の絶縁や専門業者による安全な方法が推奨されています。
私たちができること
- 普段からルールを確認しよう
まずは自治体の分別ルールをよく調べ、「どのように捨てればいいのか」「回収日はいつなのか」を把握します。ルールを守って分別するだけでも、事故をかなり減らせます。 - 早めに不要な電池を処分する
退蔵した古いバッテリーや壊れた端末を長期間放置すると劣化し、発火リスクが高まる場合があります。使わなくなったら、すぐに回収先を確認して適切に捨てましょう。 - 絶縁テープを使う
電極(+や-の端子)がむき出しになっている場合は、セロハンテープやビニールテープでしっかり覆い、ショートを防ぎましょう。 - 膨張や変形がある場合は市町村や専門業者に相談
膨れあがったバッテリーは非常に危険な状態です。無理に穴をあけたり潰したりするのは絶対にやめましょう。自治体に連絡して回収方法を確認し、指示に従うことが望ましいです。
まとめと今後の展望
リチウム電池は、私たちの生活を支える大切な充電池であり、今後もさらに需要が高まっていくと考えられます。一方で、ごみとして捨てる段階での危険性や廃棄物処理のコスト・負担など、解決すべき課題も顕著です。国や自治体、電池メーカー、リサイクル事業者などが連携を強める動きが加速しているのも、こうした実情が背景にあります。
最後に、私たち個人ができることは、ルールを守った分別と、電池の危険性を身近な人にも共有することです。使わなくなったリチウム電池や壊れた電子機器を適当に捨てず、安全な回収ルートを使いましょう。また、充電や保管を丁寧に行い、なるべく長く使い続けることも廃棄を減らすうえで重要です。便利なリチウム電池と賢く付き合い、安全で持続可能な環境をみんなで作っていきましょう。